2-8 孫って、可愛い
早いものです。孫が高校を卒業しました。春から大学生です。将来が楽しみですわ。
「娘さん、こちらへ。」
いい加減、諦めなさいな。
「恨み、晴らしましょう。」
結構です。
「お望みなら、なんなりと。」
間に合っております。
闇って、シツコイ。私、とても幸せなの。そりゃね、はじめは嫌でした。けれども、落ち着きました。だから、諦めて下さいませ。
「しかし、困るのです。」
「私は、まったく困りません。」
「そんな。妖怪を助けると思って。」
「妖怪?」
「はい。隠り世、代官所。更正課の期待の星、向水無慙と申します。
あらぁ。また、随分と個性的なお名前ですこと。向こう見ずで、罪を犯しても恥じない。
そうですか・・・・・・。名は体を表すと申します。お引取り下さい。
「人を見かけて判断するなど。」
人ではなく、妖怪では?
「とにかく、昇進がかかっているのです。」
私に、どのような?
「つ、冷たい。だからお化けなんです。」
あら? 罵倒されたのかしら。
「祖母から離れて下さい。」
「おかりなさい。」
「ただいま戻りました。おばあ様、こちらへ。」
料理用の塩でしょう?効きませ・・・・・・。
「ウギャッ。い、痛い。無礼者、止めよ。それでも大学生か。」
「はい。帝大生です。」
学生証を印籠のように見せる孫。拍手する紅葉。
「祖母は渡しません。連れて行くなら、祖父を。」
だんな様、涙目。
「まだ生きているではないか。そもそも、私はだな。や、止めろというに。更正課だ、送迎課ではない。」
食塩攻撃、有効です。
隠り世、独身寮。
「桜さん、聞いた?」
「え、何を?」
「自称、期待の星。失敗重ねて、拗らせたって話。」
向水無慙。某藩主の九男として生を受けた。流行り病に罹り、享年十。座右の銘は『天上天下唯我独尊』、好きな言葉は『我が世の春』。
富士の御山より高い自尊心を持つ、とっても残念な若君。失敗を失敗と思わず、果敢に攻め続けた。結果は、無残。
お揃いね、お名前と。