2-5 義母は見た
本日、還暦の宴です。もちろん、だんな様のですわ。老い先短い? いえいえ。とっても、お元気です。次は古稀。長生きして下さいませ。お化けですが、紅葉もついております。
「父上、御相談したいことが。」
「ん、何だ。」
「実は」
あら、まぁ。この屋敷で内緒話なんて。私、お化けです。死角なんて、御座いません。オホホ。
「さ、先物取引に、手を出したのか。」
「あの家でも成功したんだ。そりゃ、手も出すさ。」
まぁ、随分な言い様ですこと。兄は海外留学、父は若い後添えを娶り、ややこまで。となると、羨ましくなるのかしら。
「で、損失は。」
お終いですわ。そんな大金、御座いません。なっ、何ですって。この屋敷を抵当に? 冗談じゃありませんわ。認められません。決して、許しません。
「紅葉も反対している。諦めなさい。」
「父さん。一人息子を見捨てるのか。」
あなた、おいくつ? そもそも、若い娘さんと浮気なんて。えぇ、深紅の大胆なドレスをお召しになった。そうそう、その方。
「嘘だ。父さん、幽霊の言うことを信じるのか。」
義母は見た! 還暦の宴を抜け出した一人息子。なんと、大胆にも実家で浮気するとは。熱い抱擁のあと、絡みあう二人。
「お前も、なかなか。」
「何をおっしゃるの。叱らなければ。」
自由奔放な生き方? 自由には責任が伴います。責任とれますの? 先物取引に失敗して、多額の負債を背負い込んだ挙句、還暦を迎えた父に泣きつくなんて。あぁ嘆かわしい。
「紅葉、助けてやろう。」
「いいえ、助けません。他にも、隠しているのでしょう。正直におっしゃい。」
次々と失言を繰り返す息子の言葉に、開いた口が塞がらない紅葉。
「もう、聞きたくない。お前を勘当する。」
「そ、そんな。僕は、跡取りだろう。」
「後継者は他にいる。」
・・・・・・私、聞いておりません。