2-3 乙女の願い
不思議ね。まだ、出られませんの? なぜかしら。
「あの、もしもぉぉし。」
困ったわ。お食事、まだかしら。葬儀の時から、頂いておりませんの。私、花の十五歳。お腹の虫と合唱なんて。あぁ、眩暈が・・・・・・。あ、あらぁぁ。
「ど、どなた。」
「私。紅葉と書いて、クレハと申します。」
まぁ、驚いた。他にも座敷牢があったなんて。うぅぅ、出られない。特別仕様なのね。
そうですの。出られませんの! 実は私、お化けになりまして。オヨヨ。
だんな様ったら、また再婚なさったのね。お嬢さま、お逃げなさい。グゥゥ。オホホ。斯く斯く然然で。
まぁ、宜しいのでしょうか。けれど、あなた様は? 確かに、一食抜いたくらいでは死にませんが・・・・・・。そうですか? では、遠慮なく。うぅぅん、美味しい。
「あら、不思議。頂いでも、消えませんわ。なぜかしら?」
「御膳の魂、か何かが、紅葉さまに?」
「そう。・・・・・・私が申し上げることでは御座いませんけれど、召し上がれ。」
モグモグ。
「食感は御座いますの。けれど、お味がしませんわ。」
まぁ。
「紅葉、お、おまえ。頼む、成仏してくれ。」
「私だって、成仏しとう御座います。」
「ううっ、だ、誰か。」
だんな様ったら、転がるように。フフッ。
「良くわかりませんけれど、今よ。お逃げなさい。」
「ありがとう御座います。紅葉さま。」
「お達者で。」
笑顔で手を振り、お見送りしました。私、だんな様を好いているわけでは御座いません。けれど、妻を閉じ込めるなど、許せません!
「紅葉、許してくれえぇぇぇ。」
「許すも何も。ここから出して下さいませ。」
「出す。好きにしろ。」
「出られませんの! 何とかして下さいませぇぇぇ。」
格子を握り、ガンガンする紅葉。半泣きである。
「なるほど。では、早速。」
何が始まるのかしら。神主?陰陽師?・・・・・・お祓い、でしょうか。何も起こらない。ということは、どういうことでしょう。失礼ですが、本職の方ですか?
「こ、これほど、とは。」
これほどって。私、何もしておりません。心外だわ。なぁに? 私が悪いのかしら?
「牢を壊して、厚く供養して下さい。くれぐれも、供物を絶やさぬように。」
まぁ、ステキ。果物や甘味。西洋菓子も良いわ。和菓子も好きよ。お伝え下さいませ。
翌日。座敷牢が解体され、外に出られました。
「私、実家に帰らせていただきます。」
って、あら?
「もう!なぜなの。なぜ、出られないの。」
バンバン扉を叩く紅葉。どうやら、屋敷から出られないようです。