エピローグ
「……ということで今日の話は終わり」
「えー! もっと聞きたいよカレンお兄ちゃん」
僕はいつものように教会で預かっている行き場のない子供たちに絵本を読み聞かせていた。
ヴァイオレット商会が崩壊してから五年、僕とアリサお姉さんは世界中を旅しながら魔女マリアの行方を探していたが全く見つかることは無かった。五年という月日は余りにも長く、アリサお姉さんは殺し屋家業を引退してマスターと共に身寄りのない子供たちを助ける慈善事業を始めた。
子供たちと遊ぶアリサお姉さんは昔のように暗いような顔つきはしていない。でも僕は気づいていた。まだ魔女を探すことを諦めていないことに。
「カレン、少し話があるんだけどいいかしら」
神妙な面持ちでアリサお姉さんは僕に応接室へ来るように伝えた。
「改まってどうしたの?」
「魔女の討伐の人員を増やす為にこの教会を国家に明け渡したいの。私とカレンだけじゃ限界よ」
魔女マリアが失踪してから年々魔女の数が多くなっている。出現が確認される度に僕たちが各地へ赴き討伐をしているが……二人だけでは限界がある。
「でもあの子たちはまだイマジナリーチャイルドになったばかりだよ、何も知らないうちに戦闘に出させるなんて」
「……わかってる。だから私は魔女に対する憎しみを持つ子供たちだけをこの教会に残す、他の子たちは私が責任を持って面倒を見るわ」
イマジナリーチャイルドは精神的に不安定に陥ると魔女になることを彼女は知らない。魔女マリアの呪縛に囚われているアリサお姉さんに真実を伝えればきっと……過ちを起こしてしまう。
世の中には知らなくて良い事がある事を僕は知った、五年前に裏切られて泣いていたアリサお姉さんを僕はもう見たくはないんだ。……だからごめん。
「わかった、それだったら僕は賛成だよ。僕がしっかり国にはちゃんと彼らの面倒を見るように伝えるから安心してよ、アリサお姉さん」
僕は昔のように子供らしい笑顔を浮かべると、彼女はほっとした表情を見せていた。
イマジナリーチャイルドには通常の人間と違って成長するスピードが遅い、契約した人間は老化していくのに対して僕らはずっと子供の範囲から抜け出すことはない。……魔女化しない限りは。僕はいつまでアリサお姉さんと一緒に過ごしていられるのだろう。部屋から出たあと、僕は突然胸の痛みに襲われる。
「くっ……まだ耐えてくれ。僕は魔女なんかになりたくはないっ……」
彼女が恨む魔女になれば僕はきっと殺される。アリサお姉さん、僕はどうしたらいいんだろう……また一人になんかなりたくはない。




