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3話

 01


 子供たちをマスターの元へ送り届けたあと、私たちは宿泊しているホテルへ戻った。風呂に入り、汗を流したあと私は部屋の外で一服をすることにした。

 ヴァイオレット商会は表向きは貿易会社だ、裏社会のことを全く知らない人達を出来ることなら巻き込みたくは無い。




「そこまで考えなくてもいいんじゃない?」




 気が付くとカレンが私の隣にいた。三つ編みは解かれており、髪の毛の艶が良いことから私の後にお風呂へ入ったことがわかった。少女のように長い髪を揺らして私の顔を覗く姿はまるで白百合の花のようだった。



「え……もしかして私の考えてることってわかるの」




「うん、僕を女の子にしか見えないって思ってるところもね」




 まだ短い付き合いだけどカレンが少しだけ子供らしい笑い方をしてくれて嬉しかった。




「アリサが僕を道具として見てないことがわかって嬉しい、少し安心したよ」




 成長のスピードが遅いイマジナリーチャイルドといえどまだカレンは年相応の子供に見える。だからなのか、私は気づけばカレンの頭を撫でていた。

 この子はきっと自分の能力を他人に良いように利用されてきたのだろう、私のように誰かに頼ることが出来ないまま裏の世界を歩いてきた。こんな私でも何か出来るだろうか。




「……カレンはさ子供なんだから無理に大人ぶらなくていいんだよ、今ぐらい自分の気持ちを吐いてみたら」




 カレンはどこかぎこちなそう感じを出しながらも顔を赤くしながら思いを話した。




「アリサ……お姉さんが僕を人として扱ってくれて凄く嬉しい。でもまた自分のせいでアリサお姉さんを傷つけたらと思うと怖いんだ」




「大丈夫、大丈夫。私は何せ死神って恐れられてるぐらいには強いから安心していいよ」





 アリサお姉さんという言葉の響きに少しときめいてしまった。私はカレンとずっと相棒を組めれたらいいなと私はいるかもわからない神様に願った。




 02



 作戦決行日、私はカレンと共にヴァイオレット商会の本社へやって来ていた。時刻は既に夜の二十三時、ヴァイオレット商会の定時は十八時までだ。どんなに残業をしていても二十一時までだろう、なのにビルの明かりは一向に消える気配は無かった。




『恐らく……ビルの中は』  




 港で出会った売人たちのようにゾンビと化しているに違いない。ボスは私をあの港でゾンビ達に殺させようとした以上、私に躊躇する理由はない。    



「行くよ、カレン」



 中へ入ると明かりはついておらず、既にもぬけの殻だった。床に置いてあった懐中電灯を広い、明かりをつけると辺り一面血の海と化していた。




『アリサお姉さん、前から二人やってくるよ……』  



 カレンの合図で私は銃を構える。音を立てずにゆっくりゆっくり近づくとヴァイオレット商会の人間が武器も持たずに一斉に襲いかかってきた。一人目には即座に脳天に銃弾を撃ち込めたが、二人目に関しては反応が遅れてしまい床に押し倒される。



「くっ……」



 男は私を攻撃するのではなくただ暴れるだけだった。足で蹴り飛ばし、一発二発と撃った。



「……何で攻撃してこない?」




 ボスの部屋は五階にあり、エレベーターを使おうとしたが案の定電気が切れていたせいで私たちは階段で行くはめになった。

 ゾンビに受けた傷を手当していると銃と化しているカレンに傷がついていることがわかった。




「カレン、傷が……もしかして私が受けたダメージが」



『……いや、大丈夫だよ! 大した怪我じゃあないから』




 契約をした以上、私が傷ついたらカレンも傷つくのは当然か。




「次は油断しないように気をつけるから」



 階を上がっていくとさっきのゾンビのように襲いかかっては来るものの、こちらに敵意は向けて来なかった。もしかして何か私たちに伝えようとしているのか?

 社長室がある五階に着くとゾンビではなく、普通の人間達が私に銃を構えてきた。煙幕を投げ込み、一瞬の隙をついて敵二人の顔面に銃弾を撃ち込む。

 残りの敵が混乱しているうちに手榴弾を投げ込み、エントランスを後にした。社長室の扉を開けると、いつものようにボスは退屈そうな顔をして窓の外を眺めていた。



「ふふ、もう潮時ね」




「……何で私を殺そうとしたんですか」




 私からの問いかけにボスは何もおかしくないのに笑いながら答えた。




「もうアンタに飽きたからよ。私はね完璧すぎる人間なんて必要ないの、だからイマジナリーチャイルドを使って殺そうとしたのに……馬が合っちゃったのね」




 ボス、マリア様は私にとって母親代わりのようなものだ。裏の世界で生き抜く為の術を私に教えてくれた、殆ど放任主義だったがそれでも優しさは感じられた。でも私が成長していく度にその愛情はどんどん失われていった。

 ……人を殺すことに何も感じることはないと考えていたけれど目の前で要らないと言われると流石に堪える。




「リサは……アンタのせいで!」




「黙ってゾンビたちの言うことを聞いていれば良かったのに。最後まで残念な女ねアリサ」




「なにを言って……」




『まずい、アリサお姉さん! 早く逃げないと!』




 ボスは私たちの一瞬の隙をつき、自分の頭を銃で撃ち自害をした。その行為がトリガーとなったのかビル全体が突然激しい揺れに襲われた。

 ビルの崩落から逃げるつかの間、私はボスの気配を感じた。やはり魔女というのは本当だった、でも今は逃げないといけない。私が死ねばカレンも一緒に死んでしまう。この子には私が味わえなかった幸せを体験してほしい。それが私の願いだ。



「次は必ず……貴方を私の手で殺す」



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