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1話

 01



 私には人の心がない。愛情を教えてくれる筈の両親は私が生まれた頃には既に死んでいた。

 他人が苦しんでいようが悲しんでいようが私の心には何も響かない。だから私は……悪人にとって都合のいい人間になった。



「ま、待ってくれ! 昨日の夜はお前だって楽しんでたはずなのに……どうして!」




 深夜、私は所属している組織から依頼を受けて高級マンションに住んでいるターゲットを殺しにきた。ターゲットである男とはバーで出会い、意気投合してそのまま一夜を共にした。

 彼と仲良くはなったがボスに殺せと命令されたら、私は遠慮なく殺す。



「女は気持ちが変わりやすいのよ、覚えといてね」



 尻もちを尽き、恐怖に怯えた表情をしたまま男は私から距離を取ろうとしていた。私は彼の頭を強く握りしめ、そのまま脳天に銃弾を撃ち込んだ。

 あれやこれやと喋り込んでいた肉塊は鈍い音を立てて倒れてく、その様をただ見つめていた私はポケットに入っていたタバコで一息ついた。部屋を後にしようとしたとき、ポケットの中に入っていたスマートフォンから一件着信が入る。……ボスからだ。ヴァイオレット商会に所属している殺し屋に失敗は許されない、失敗すれば必ず「死」が待っている。




 02



 翌日、ボスに呼び出された私は繁華街へと足を運んでいた。ヴァイオレット商会は表向きは貿易会社として繁華街に大きなビルを建てている。裏では沢山の人間が死んでいることを知らずに表の社員は私に挨拶をしていく。警備員に社員証を見せ、不思議な顔をされつつ、私は社長室へと向かう。



「仕事の翌日に呼び出して悪かったわね、アリサ」



 ボス、マリア・ヴァイオレットは退屈そうな顔をして窓から見える高層ビルの群れを見ていた。私が生まれた頃には既にヴァイオレット商会の社長を勤めているのに全く老けた様子は無い。さながら魔女のようだ。

 私のアリサという名前はボスからもらったコードネームだ。私は表の世界には存在していない人間。ボスに拾われていなければきっと私は死んでいた。彼女に出会い、教養と人を殺す術を教えられた。ボスから指令が下されたら例え友人であっても殺さなきゃいけない、私たちには拒否権はない。




「……ええ、大丈夫です。いつものことですから」




「最近は働き方改革とか言う時代になったからね、別に疲れたら休んでも構わないわよ」



 昨日の仕事に何か不手際があったのかと疑ったが、ボスの表情には変化は無かった。以前なら私が疲れていても気にかける言葉は無かったのに、何か妙だ。




「まだまだ働けますからそんなことは言わないでください」



「そう? なら……」



 ボスは私の言葉を待っていたのか、私の後ろにある扉に向けて誰かの名前を呼んでいた。呼ばれた人物は静かに扉を開け、私の隣に並んだ。太陽の輝きをそのまま髪の毛に移したような明るい金色の髪、海のような真っ青な色の目をした三つ編みの少女が立っていた。


「紹介するわね、この子の名前はカレン。こんな可愛い顔して男の子なのよ。しかも大体十二歳にしてもう十人以上は殺してるわ」




 ボスは信じられないことにカレンという少年と暫くの間コンビを組んで仕事をしろと命令をした。こんな可愛いらしい子供に汚い仕事をやらせなきゃいけないなんてやっぱりおかしいと思うが、私には拒否権がない。



「よろしくね、カレン」



 子供に対してどう接していいか分からなかった私は少しぎこちないが軽い挨拶をした。

 カレンは目線を合わせずに私の目を見てボスに聞こえない声で呟いた。



「お姉さんは……直ぐに死なないよね?」



 この時、彼が言った言葉を理解出来なかったが私はこれから後悔することになる。何故、もっとこの子に早く出会わなかったのだろうと。


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