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詩篇 朝の発光、夜の入り口

詩篇8 重ねたく、しかし液体は、混ざるしかなく、だとしても、やはり

作者: 宮沢いずみ

体を重ねる。

という言葉が好き。

重ねるのです。うっとりと、しっとりと、微かな発光さえも、重ねて。

わたしの太ももに、腹に、胸に、腕と指先は絡め、離れ、また絡め、重ねられた太ももと腹と胸が、吸い付き、擦れ、草木が枯れてゆくように、どこかへ落ちてゆく。

 体と体の衝突は、粘膜と粘膜の衝突は、ああ、気持ちがいい。波が押し上げられて、ざぱーんと降りかかる。くちびるが、ふわり、ふわり。体中から、吐息が漏れる。

 濡れてゆくのは、

ねぇ、わたしの体だけではないのよ。湿ってゆくのです、何もかもが。

浸かってゆくのです。ねっちりと、透明と白の交差でもって、絡めて、絡めて。


 繰り返される衝突は、どこからか何らかの快感をもたらすけれど、それが一体何であるか、説明できるのですか。説明もできぬ快感を与え続ける意味は一体。


 求める、求め合う、というのはただの言葉遊びで、

この場合の愛してる、もただの言葉遊びとしか思えてならない。

というよりも、この愛してる、は本能では無くどこかから刷り込まれ続けた情報の集大成。ではないでしょうか。その形式に当てはめて、愛という言葉の持つ意味に甘え、寄り添い、意味を見出そうと必死になって、愛してる、愛してる、と囁いたり、叫んだり。果たしてこの衝突は、快感は、愛してるという言葉にすればたった五音の中に要約されてしまってよいのでしょうか。

 分からぬまま、ああ、だけど。気持ちいい。気持ちいいのです。

衝突は、わたしを破って、縫って、破って、縫って、の繰り返し。


 こんなただの下腹部。下腹部なんぞに、わたしは今、集約されて、まるっと、入って。わたしが下腹部を所持しているのか、下腹部がわたしを所持しているのか、どっちなのよ、ねぇ。この快感の持ち主はどっちなのよ。


 体は重ねるごとに、一体になろうとするごとに、はっきりと、それはそれはもうはっきりと、孤独に満ちた毅然さで、

わたしとあなたの個体の違いが、線の違いが、存在の違いが、全ての違いが、浮遊し始める。


 掴み取れないその違いを吸い、くちびるとくちびるが、ふわり。吸い上げた吐息で、ふわり。

ああ、気持ちいい。


 衝突は繰り返される。

個体の違いに、嬉しさと淋しさの真ん中の、歯痒い境界線が、涙を流す。

一体になりたいなりたいなりたい、けれど、一体になりたくないなりたくないなりたくない、そんな動きを上から押さえつけるように、息をさせぬように、衝突。一瞬の空白の後、また歯痒く、また一瞬の空白、を繰り返し、とぷん、とぷん、と水が揺れる。何度も何度も、揺れを繰り返す。

 

 

 液体になりたい。

いいえわたしの中身は液体です。入れ物が邪魔なだけです。入れ物の中は液体なのに、入れ物が、絶対の固体であり線であるから、わたしもまた絶対の個体であり線であらなければならないだけで、本当は液体なのです。どうか知って下さい。

 液体は毛羽立った神経の先端。全ての感受が、そこに。

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