二人旅
ミュウと旅を始めた次の日、前方にラインウルフが一匹、これ見よがしに現れた。
鑑定すると十数匹の群れだ!一匹に見せて油断させているのだろうか?
気配を察知させないように潜んでいる。
ラインウルフは一匹なら大したことはないが、数が増えると災害級の魔物だ。
「ここは我一人でやらせてくれ。」
ミュウが一歩前に出てやる気満々で言った。
「一人で大丈夫か?」
「この数ならダイジョーブ!」
そう叫んだと思うと、ミュウが一人、二人、三人と増えて行き、最後に六人なった。
「え! 分身できるの?」
6人が一気に走り出したかと思うと皆が9本の尻尾を出し輝かせ始めた。
それに呼応する様にラインウルフも一斉にミュウに向かってきた。
鑑定すると6人は残像ではなく全て実体を持っている!
6人のミュウは輝かせた全ての尻尾から光の刃をラインウルフの群れに向かって放った!
結果はあっけなかった。54もの刃が一瞬で全てのラインウルフを切り裂いたのだ。
「どう?」
「凄いな!その技を使われていたら俺もヤバかったよ。」
「えへへ。」
めっちゃどや顔してる。
ラインウルフは食用可だったが、余り美味しそうではなかったので魔石だけとっておいた。魔石は冒険者ギルドで売れるらしいので今まで倒してきた魔物の物はすべて保管してある。
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朝起きると、かなり濃い霧が立ち込めていた。
「何か嫌な霧だな。」
「ちょっと妖気を感じる。」
夕べ焼いた肉と果物で簡単に朝食を済ませて、歩き出した。
「何かいるな。」
「ずっとこちらを見ているね。」
「見てるって、女神様じゃないよな?」
「何バカ言ってるの!」
怒られちゃった・・・。
それにしても隠蔽魔法でも使っているのだろうか?鑑定しても何も引っかからない。
「なんか陰険な奴だな。それならこれで・・・。」
俺は木刀を頭上から一気に振り下ろして『風の刃』を放った。
地面の衝突した風の刃は弾けて四方に強烈な風となって飛び散り、前方の霧を全て吹き飛ばしてしまった。
「え、『風の刃』も使えるの?」
ミュウが目を丸くして言った。
「魔剣は倒した相手の力を奪うんだから普通だろ?」
「それは魔剣士同士の話で、魔物の力を奪うなんて・・・聞いたことない。」
俺たちは前方に現れた巨大なカエルの魔物を無視しながら話をしていた。
カエルの魔物は無視されているのに気が付いたのか、怒ったような顔をしてこちらに近づいてきて、喉元を大きく膨らませた。
「それなら、こんなのもできるぞ。」
カエルの魔物が口を開けて何かを出そうとした瞬間、『音の刃』カエルの口に向けて放った。
魔物の口からでた黒い塊は、魔物もろとも『音の刃』に砕かれて四散した。
「それはキングバットの『音の刃』じゃない!・・・やっぱり普通の魔剣士のスキルじゃないよ。固有スキルだよ。」
「ふーん、そんなもんかね・・・。」
他の魔剣士を知らないのでピンとこないな。
「それより、このカエル結構美味しいんだけど、毒液だらけになっちゃったからもう食べられないね。」
「え、そうなの? でも、まだ後ろにいるからダイジョーブ。」
俺は背後を向き、さっきと同じように『風の刃』放った。
霧が晴れるとカエルの魔物が2匹現れた。
「毒液を出す前に!」
俺は『瞬歩』を使い一瞬にして奴らの目の前に移動し、2匹の魔物の頭を魔剣でくし刺しにした。
「これなら食えるだろう!」
「そ、そうだね・・・ゼント私と戦った時に手を抜いていなかった?」
「いや、そんなことは・・・。」
心なしかミュウの顔が引きつっていた。
カエルは裂いてから内臓を取り出し、肉と魔石を亜空間倉庫にしまい込んだ。
今晩の夕飯は何にしようか?そんなことを考えながら歩いていくと辺りの巨木がなくなり開けた場所に出た。
「久しぶりの平原だな。」
巨木がなくなったその場所は灌木と比較的背の高い草でおおわれていた。
ソーリの森を歩いていると時々こういう場所に出くわす。
巨木がないので、太陽の光がまぶしい。
こういった場所には意外と食用になる実や草が生えているのである。
「ねえゼント、この赤い実何かな?」
よく見ると背の高い草には赤い実や緑の実がなっていた。
「これは?もしかして『トマト』か?」
小ぶりではあるが、元の世界で見たトマトによく似ている。
「よし。『鑑定』!」
{名称:アラスト}
*比較的乾燥した場所好み生息する。
*地球で言うところのトマトの原種に近い植物
*実は生でも食用可
「よし、一つ食べてみよう。」
俺は赤く熟した奴を一つもぎ取り服で軽くふいた後にかぶりついた。
「おお、この味は。少し青臭い感じはあるけど、酸味の強いトマトの味だ!」
「ミュウも!」
ミュウも俺の真似をして真っ赤なやつにかぶりついた。
「うーん、私はこの味はちょっと・・・。」
ミュウがやってしまったという顔をしていた。
「肉食のネコ科には、生はちょっと無理そうだね。でもお肉と一緒に煮ると美味しくなるよ。」
「よし、今晩はカエル肉のトマト煮だ!」
「ミュウ、この実を採るの手伝ってくれないか?」
「うん、ゼントが美味しくなるって言うなら手伝う!」
「よし、真っ赤に熟したやつを収穫してくれ」
「了解!」
トマトを収穫しているうちに俺はあることに気が付いた。地面に焦げた木の破片や灰が散らかっているのだ。
山火事か?それでこの一帯だけ木がないのか。たまたま巨木がなくなったのでトマトの育ち易い環境になったんだな。まあ、ラッキーと思っておこう。
二人で一帯のトマトを収穫したら結構な量が採れた。
「ミュウ、あそこの小川沿いに行ってみないか?さっき見たらあそこにも何か生えていそうなんだ。」
近づいてみると小川の周りに稲みたいな植物が群生していた。
「よっしゃ、鑑定!」
{名称:ライ}
*湿地に近い土壌を好む植物
*米に近い植物
*実は食用可
「よし、食べられるな!」
「米に近い植物だ。これも収穫しておこう。」
俺たちはナイフを使いこの植物を収穫していった。
「さて、アラストはそのまま使えばいいけど、ライは乾燥させないとだめだな。よし、亜空間に干そう。」
「えっ? 亜空間においといたら、乾燥しないだろう?」
「いや、部屋を区切っておくと時間経過有無から湿度と気温まで調整できるんだ。」
「へーっ、ゼント器用なスキル持ってるんだな。」
「ほんと、このスキルには助かってます。」
俺達は刈り取ったライを束にして亜空間の中に干しておいた。
さあ、今度はトマト煮の準備である。
アラスト(トマト)は皮を剥いてからみじん切りにして皿にいれておく。
玉葱の替わりにシプリという玉葱によく似た植物を使う、小ぶりの玉葱といった感じで、味も近い。
キノコはアセンションという椎茸に似たキノコだが匂いは椎茸程強くはないのでどんな料理にも合う。以前スープに使ったライズというキノコは少し苦味があるので今回は使わない。
一口サイズより大き目に切ったポイズンフロッグの肉をファイアボーアの背脂を溶かした鍋に入れて炒める。本当はバターを使いたいが無い物は仕方ない。
肉に焼き色がついてきたらざく切りにしたシプリとアセンションを入れてさらに炒める。
「ゼントなんかいい匂いしてないか?」
ミュウが今にも食べたそうな顔をしてのぞき込んでくる。
シプリが飴色になってきたので、アラストのみじん切りとキラーコンドルの骨から採っただし汁を入れ、塩とシガルで味を調えた。
後は煮込むだけだ。
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「よしっ!完成だ。」
俺は完成した「ポイズンフロッグのトマト煮(アラスト煮)」の鍋をテーブルの上に置き、二人分のお皿によそった。
「う、美味そうだな!」
「さあ、召し上がれ。」
ミュウが飛びつく様に食べ始めた。
「おお、焼いて塩をかけただけとは違う!なんか色んな味が混ざっていて旨い!」
「アラストは料理するとこんなに美味くなるのか? 凄いな!」
うん、本当に久しぶりに現代的な料理が食べられた。
アラスト君、そこに生えててくれてありがとう!
次はライでご飯を炊こう。