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CAT

 女神様にあってから一か月くらい経ったろうか、森の魔物達との闘いもだいぶ慣れてきた。


 魔物を倒す毎に獲得したスキルが増えていったが、中には吸収できない技もあった。魔物の”体”に関する技は吸収できないようだ。翼や尻尾、針など俺には無い物を使うような技は吸収できない。それでもかなりの技を吸収したので、怪我をすることは無くなっていた。

 

 ・・・そう、この瞬間までは楽勝気分になっていた・・・。


 今、俺はネコ型の魔物と対峙している。


 体は白い色をしているが、頭の部分に茶色い毛があるので「豹」というより「猫」を連想させる。尻尾は数本に分かれているので、猫又というやつだろうか?


 相手は大型犬ぐらいしかないが、威圧感から今まで出会った魔物達とは桁違いの力を感じる。鑑定なんかしている余裕は無い。


 ただ、初めて見た魔物だけそ、何故かどこかで見たような気がする。

 

「人間よ、ここから立ち去れ!」


 魔物が話しかけてきた。


 会話ができる魔物もいるんだ!


 ここに来てから初めて出会った異質な魔物に驚愕した。


「我は無益な殺生はしないが、我の縄張りに入ってくるなら、容赦はしない。」


「話ができるなら聞いてくれ、俺はこの森を通って人間の国に行きたいだけだ。縄張りを荒らす気はない。この道を通してくれるだけでいい。」


「問答無用!ここから立ち去れ!」


「この道以外に道はない、俺を信用してくれないか?」


「我の言うことを聞けないなら仕方ない。」


 魔物の魔力が一気に高まるのを感じた。


 来る!


 魔物は一瞬で飛び上がると尻尾から九つの『光の刃』を放ってきた。


 やば、逃げられない。


 俺は木刀でこちらに向かってくる二つの光の刃をかろうじて撃ち落とすことができたが、

三つ目の光の刃は左腕をかすめていった。


 今度はこちらからだ!


 俺は奴に向かって『光の刃』を放ったが、奴は余裕でかわしていた。


 九個同時に出せる奴だらからな。


 一か所にとどまっているとまずい!俺はすぐに走り出しながら光の刃を放った。

 奴はたった一つの『光の刃』を軽々とかわしながら九つの『光の刃』を放ってくる。


 九尾の狐は聞いたことはあるが、九尾の猫なんて聞いたことないぞ!


 俺は光の刃を落としながら避け続けた。落とし損ねた光の刃が体中に傷をつけている。


 全身血だらけ、圧倒的に不利だ。


 くそ、これならどうだ、俺は巨大なファイアボールを放ち、奴が逃げるであろう方向に光の刃を放った。キングバットを倒したときの方法だ。


 奴はこのことを予期していたかのように9個の光の刃で俺の光の刃を撃ち落としてしまった。


「・・・・つ!」


 あの速さだ、『光の刃』以外では捕られるのは無理だ、どうすればいい?

 まてよ、あれ、やってみるか?うまくいくか?


 俺は森の中で研究してみた技を使ってみることにした。


 これを外したらあの速さについていく技はない。


 一度ばれたら2度目はないな・・・。


 俺は覚悟を決めて最後の賭けに出た。

 

 「アイスランス!」

 

 俺は今度は9個のアイスランスを奴に向かって放った。


 奴は当然9個の光刃で撃墜してくる。


 その瞬間に合わせて俺は光の刃を放った。


 奴は「なんだまたか。」といったような小ばかにした表情を浮かべて俺の光の刃を余裕でよけ始めた。

 

 よし、かかった!


 俺は『光の刃』の軌道を奴に向かって”曲げた”のだ!


 奴は最小限の移動で避けようとしていたので、軌道の変化に対応できず『光の刃』に脇腹を切り裂かれたのだ!


 奴は呻き声をあげるとそのまま地面に落下し、吐血して倒れた。


 奴が俺を侮ってくれていて本当に助かった。

 

「おのれ!『光の刃』の軌道を変えるとは・・・なんて奴だ!」


「もう、いいだろう。ここを通してくれ。」


「お前の勝ちだ。さあ、とどめをさせ!」


「俺も無益な殺生はしたくない。ここを通してくれるだけでいいんだ。」


「どちらにしても我の命は長くない。一思いにとどめを刺してくれ!」


「いや、ここを通してくれるなら怪我を直してやる。」


「なんて甘いことを言う奴だ・・・・・・ところで、お前の名前は何という」


「俺の名前はゼントだ。」


「そうか、やはりゼントか、我の名はミュウ、クーマオ族のミュウという。」


 ミュウ?その名前を聞いて俺は昔を思い出した。生まれた時から中学まで一緒に暮らしていた猫の名前が『ミュウ』だ。その猫は白い体で頭だけ茶色をしおり、大きさと尻尾の数を抜かせばこの魔物そっくりだったのだ。


 ミュウとはまるで兄弟の様に仲が良く、老衰で死んだ時には物凄く泣いた。


「ま、まさかあのミュウなのか?」


「我には前世で普通の猫だった時の記憶がある。この世界とは違う平穏な日常で、ゼントという男の子と穏やかに暮らしていた記憶を・・・」


 魔物が俺の記憶を読んで話を合わせている可能性もあったが、その時の俺は全く疑うことがなかった。


 俺の心が全力でこの子は”ミュウ”だと言っていた


 俺は直ぐにハイヒールでミュウの怪我を直してやった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「そうか、ミュウはこの世界に転生したのか。まさか、ここで会えるとは思っていなかった。」

 ミュウは俺の隣に座り穏やかな顔をしてのどを鳴らしていた。


「ゼントは何故、この世界に?」


「高校の友人がこの世界に召喚されて、その時の術に巻き込まれてしまったんだ。」


「そうか、大変だったな。」


「ああ、でも空から落下しているところを女神様に助けられて、何とかやっている。」


「ミュウはなんでここに縄張りを作っていたんだ?」


「我はクーマオ族の族長の3番目の娘として生まれたんだ。」


 ミュウは淡々と話し始めた。


「生まれた時から前世の記憶があった我は魔術や戦術を覚えるのが誰よりも早かった。そのおかげで15才で次期族長候補の筆頭となった。」


「長になるためには、群れを出て、自身の縄張りを持ち、3つの冬を超えるまでその縄張りを守り通すという試練を乗り越えなければならない。」


「それでミュウは必死にここを守っていたんだ・・・あ、ごめん俺が・・。」


「いいんだ、我より強い奴がいれば仕方がない。それが”ゼント”だったというだけだ。」


「それで、これからミュウはどうするんだ?」


「普通は縄張りを守れなかった者は生きていない。このまま群れに帰っても生き恥をさらすだけだし・・・どこかに行くしかない。」


「だったら俺と一緒に行かないか?」


「いいのか?」


「お前さえよければ。」


「我は問題はない。」


「それじゃあ決まりだ!一緒にこの世界を旅しよう!」


「それは良いが、魔物と人間が一緒にいると何かと問題になるかもしれないな・・・。」


「従魔ということにしておけばいいんじゃないか?」


「クーマオ族はプライドが高いので、人間の従魔になったなんて聞いたことない。かなり目立ってしまうぞ。」


「じゃあどうする?」


「ちょっと待って。いい考えがある。」


 ミュウはすくっと起きると俺の前の方に歩いて行ったと思うと急に光輝きだした。


「これならどう?」


「ぶっ!」


 思わず俺は噴き出した。目の前には素っ裸の猫耳の女の子が俺の方を見て立っていたのだ。


「へっ、変身できるのか?」


 俺は目を丸くして固まったしまった・・・。


「だめーっ!」


 目の前に突然ヴェルスが現れて俺の視界を塞いだ。


「だめです!こんなはしたないこと。はい、貴方はこの服を着てください!」


 ヴェルスはミュウの方に向きなおし、どこから出したのか分からないが、ミュウに服を渡していた。


「ゼントさんは後ろを向いてください!」


 その言葉で我に返った俺は、そそくさと後ろを向いた。


「あ、あ、あ、貴方は?」


 ミュウの固まった声が聞こえた。そりゃそうだろうな。


「私はノルンのヴェルスです。天界から様子を見ていて、びっくりして降りてきたんです!」


(えっ!また見てたの?)


「め、女神様ですか? この世界の創造主の眷属の? だから全く気配を感じることなく目の前に・・・・そんな、恐れ多い!」


「頭なんか下げなくても良いですから、早くこれを来てください!」


 ガサ、ゴソ・・・


「それでは前と後ろが逆です!」


「いえ、それだと上下が・・。」


「すみません、人間の服を着るのは久しぶりなので・・・。」


 なんか二人で漫才やってないか?


 ・・・・・閑話休題・・・・・


「はい、ゼントさん、もうこちらを見ても良いですよ。」


「おおー!」


 思わず声をあげてしまった。実にかわいい猫耳娘と美しい女神様が目の前にいるのだ。


「ここは天国か? 生きててよかった。うぅっうぅっ」


 矛盾したことを言っているが、俺は猛烈に感動していた・・・。


 ただ、3人が対峙したこの状況、何か妙な緊張感が走っている・・・・・何を話したらいいんだ?・・・場が持たない。


「えーっと、そろそろお昼ごはんの時間ですので、何か食べませんか?」


 妙にかしこまった口調になってしまった・・・。


「また、およばれになっても良いのですか?」


「ゼント、何か食べさせてくれるの?」


「ああ、もちろん。」


 なんか二人とも目を輝かせているのね。

 俺は昼飯の準備を始めた。


 肉は、久しぶりにファイアボーアを使う、きちんと血抜きをすればかなり美味だった。


 パンの代わりに”パンの実”この実は焼いて食べるとパンに似た食感になり結構いける。

 地球にも似た食べ物があると聞いたことがあるので、この実を鑑定で確認したときは大喜びした。


 パンの実は直接火にかけずにバナナの葉のような大きな葉に包んで灰をかけて蒸し焼きにする。


 パンの実を蒸し焼きにしている間にファイアボーアの肉は塩、胡椒をかけて鉄板で焼く。


 肉を焼いてパンにはさむだけでは味気ないので、きゅうりに似た実を塩漬けにしたものを輪切りにする。味はきゅうりに似てはいるがへちまの2倍ぐらいの太さがあるので一枚でパンの実と同じサイズになる。酢があればピクルスにしたいのだけど贅沢は言ってられない。


 パンの実が焼きあがったので食べやすいように切り分け、パンの実に肉を載せて手製の”グレイビーソースもどき”をかけ、特大のきゅうりの輪切りをのせパンを挟んで完成!


 きちんとしたソースのつくり方は知らないので、魔物の骨や山菜、果実を入れてじっくりと煮詰めたものに肉汁とを合わせて作ってみた。亜空間に入れておけば腐らないので常備している。 


「さあ、どうぞ!」


俺はファイアボーアのサンドイッチをお皿に載せて彼女たちに渡した。


「このパンの実、ホクホクしていておいしい!本物のパンとはちょっと違うけど、これはこれでいいわね!お肉についているお汁が凄くいい味ね!ゼントさんの作るものは本当においしいわ!」


「この肉はファイアボーアか?こんなにおいしくなるのか?見ている時は周りの木の実はいらないと思っていたけど、これがあった方がより美味しいな!」


 美味しそうに食べている二人を見ていると俺は凄く嬉しくなってきた。

 皆で食事をするのって本当にいいな~!


「ところでゼントはこれからどこに向かうの?」


「人間の国ゴードに行ってみようと思っている。そこで冒険者の登録でもして暮らしていこうかと考えているんだ。」


「確かにそれだけの力があれば、Sランクの魔物でも相手にできますね。。」


「魔物にランクなんてあるの? 鑑定では出てこないけど・・・。」


「こちらにいるミュウさんはSランクの魔物ですよ。」


「どうだ、凄いだろう。」


 ミュウがどや顔している。


「え~と、魔物ってどのようなランク分けになっているの? 石板の知識にはなかったけど。」


「F~Aまでが一般的な魔物で貴方が遭遇したことがある魔物で言えば、Fがリトルスライム、Eがホーンラット、Dがフォレストバット、今いただいているファイアボーアはC、フォレストバットが進化したキングバットやスピアブルはB、アイスフォックスやキラーベアはAね。Aの上がSでその上にSS、SSSということになっているけどS以上に合うことはめったにないわ。」


 え、俺ってホーンラットの後、Dランク飛ばしてCランクと戦ったの?確かに初めてファイアボーアと戦った時はかなりヤバかったな・・・。

この森ってCランク以上ばっかりじゃないか?初心者が通る場所じゃないでしょ・・・・。


「俺、良くこの森で生きてたね・・・。」


「元々持っていた魔剣士のスキルとゼントさんの勇気があったからですよ。」


 女神様がにっこりとしながら言ってくれると何かほっとした。


「そうそう、今じゃあクーマオ族の私を凌駕しちゃうぐらいだから自信を持ちなさい!」


「よし、まずはこの森を抜けるか!」


「そうだな、私もいるから楽勝だよ!」


「それでは、私はそろそろお暇しますね。余り長居をしているとウルスに怒られますので。」


・・・・ところで女神様はミュウに服を渡しに来ただけなの・・・???


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