毎日がサバイバル②
その日、森には大粒の雨が降っていた。
雨の日は体力を極端に消耗するので、移動は止め亜空間の中に籠っていた。
移動する気になればできないこともないが、俺の目的は無事に森を脱出することなので無理はしない。
こんな時は自分のスキルの確認をしてみる。
亜空間収納、これは色々な使い方ができることが分かった。
基本は時間経過無しだが、俺が入っている時は通常の時間で流れている。そのため、夜寝ている時は中に入っているものも時間が経過し、劣化が進んでしまうのだ。
おかげで魔物の肉の血抜きはできたのだが、そのまま俺が中に居続けると腐ってしまう。
そこで、何か良い方法はないかと考え、壁の形状を変更して別の部屋を作り密閉させてみることにした。
そこの空間が時間停止していればしめたものである。
どうやって時間停止しているか確認したかというと、血が滴っている肉を区切った部屋に入れ、肉の下の血だまりが増えるかどうかで判断したのだ。
結果は上々、部屋を区切ったことで中にいる時に血の匂いもしてこなくなったので一石二鳥である。
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翌朝、雨は止んで森の中の湿度は高く、薄っすらと靄がかかっていた。
朝食を摂り森の中を進んでいくと木々が少ない広場のような場所にたどり着いた。
あたりを見回すと草の中に黒い人工物のようなものが見えたので近づいてみると・・・
鍋だ!金属製の食器もいくつか転がっている。
よく見るとテントの成れの果てみたいな布もある。
これは野営をした跡だけど、ずいぶん昔だな。
鍋や食器さびて苔が生えておりテントも土に還ろうとしている。
野営していた人たちは?・・・・ 合掌!
鍋や食器は綺麗にすれば使えそうなので拾い集めては亜空間に放り込んだ。
これで煮物ができるぞ!そう思った瞬間、何か嫌な気配を感じた。
「鑑定!」
{フォレストバット}
*肉食コウモリ科
*体力:500
*魔力:100
*スキル:滑空:高速で森の中を飛び回り獲物を襲う
*食用可(食べたければどうぞ。)
木の上に体長が2mぐらいのコウモリが多数!
ファイアボーアより弱いけど、数が多すぎる!
やばい、この食器の持ち主達は奴らにやられたのか?
この広場にいたら格好の獲物になってしまう!
食器や鍋を亜空間に放り込んでこれから向かう道の方にゆっくりと歩き始めた。
数歩進んだところで奴らが一斉に飛び立った。
ダッシュ! 俺は全力で走り出した。
当然だが飛んでくる奴らの方が早い、2、3匹鋭い牙の口を開けて襲い掛かってきたので木刀を振り回して追い払ったが、どんどん襲い掛かってくる。
仕方ない、迎撃するか!
木刀に魔力を込めて立ち止まり光の刃を放った。近くにいた数匹を倒したが、奴らはひるむことなく襲ってくる。
飛んでくる奴らに対して間髪を入れずに光の刃を放ちまくった。
「はあ、はあ・・・。やったか?」
フォレストバットが大方片付いた頃、急に上空が暗くなった。
「ヤバい!あいつがボスか?」
他の奴らの倍くらいの巨体が宙を飛んでいた。
<キングバット>
*肉食コウモリ科:フォレストバットの進化形
*体力:1500
*魔力:1000
*スキル:音の刃(口から振動波を出し相手を切り裂く。)
*食用可(食べられないことはない)
ギャ〇スみたいな奴だな。
ボスコウモリと対峙しながら、先手必勝とばかりに俺は『光の刃』を放った。
奴に光の刃が当たる寸前に高速で横に避け、そして叫んだ。
「キ――――――」
ボスバットの口から歪んだ空間のようなもの飛びだし向かってきた。
ヤバい!こちらも横っ飛びでよけようとしたところ足に激痛を感じた。太ももが半分くらい切り裂かれて血が噴き出している。
「うぉ――――――っ!」
これが『音の刃』か?もう一発食らったらアウトだ!
だめだ立っていられない。
その時、奴がもう一度叫んだ。
(これで終わりか?)
俺は無意識に魔剣を飛んでくる音の刃に振り下ろしていた。
魔剣が空間の歪みに触れたとたんに、歪は霧散した。
(魔剣にこんな力があるのか?)
俺は急いでポーションを飲み、立ち上がって再び奴に光の刃を連続して放ったが、奴の動きの方が早く、全ての光の刃が避けられてしまった。
奴は光の刃を避けながら音の刃を放ってくるので、俺は必死に魔剣で霧散させていた。
奴が使う”音の刃”は魔剣で無効化できるが、こちらの攻撃も避けられてしまう。
このままでは埒が明かない!
まてよ、魔剣は倒した相手の魔剣の力を吸い取るんっだけ?
火をイメージしながら奴に向かって光の刃を放ってみると・・・。
光の刃の代わりにファイアボールが飛び出してきた。
「やった!」
火の玉はでかいが光の刃よりは遅いので、奴は余裕で回避し、こちらに音の刃を放ってきた。
俺は横っ飛びして音の刃をかわし、魔力を思い切り込めて再度ファイアボールを放つと巨大なファイアボールが出現した。
(よし、出来た!)
俺はすかさず、ファイアボールに隠れるように光の刃を放った。
奴は巨大なファイアボールを避けるのに精いっぱいで、炎を突き抜けてくる光の刃を避けることが出来なかった。
光の刃は炎から逃げている奴を捉え、奴の体は真っ二つになり落ちていった。
「ふうっ!」
魔剣に倒した相手の力を奪う能力がなければヤバかった。
それに防御にも使えるんだ。
もう少しスキルを研究してみよう。
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肉は、まる焼けとなったファイアボーアがあるのでしばらく困らないが、やっぱり野菜が無いと栄養が偏る。
鑑定しながら食用可という野菜をいくつか試したみたが、苦味が強いものが多く漢方薬でも食べているような感じで常食にするには問題があった。
そんな時に見つけたのが「ナンテク草」という草で、ハイポーションの原料となるらしい。
ほうれん草に似た感じで、お浸しにするととても美味しい。
そう、今は鍋をゲットしたので焼くだけではなく煮る料理も出来るのだ。ナンテク草は全滅しない程度に大量に採取し、亜空間倉庫に入れておいた。
山芋を見つけた時は喜んだが、問題があった。掘り起こすのが大変なのだ。
山芋は地面の下に細長く伸びており、地面の中の石の隙間なんかに入り込んでいると、石をどかしながら掘らなければならないので非常に面倒!イラっとして穴に光の刃を打ち込んでみたら、バラバラに砕けてしまった。
あきらめてちまちまと掘って行っところ1本掘るのに半日かかってしまった。それでも頑張って掘った甲斐はあって、焼いて食べたらとても美味しかった。
水の確保だけど、キングバットと戦った場所に湧き水があり、その水を瓶に補充しておいたが、ここ数日は水が入手できていない。
雨は時々降るので、雨水貯めておいて飲めばよいのだろうが衛生面でちょっと不安である。地球の様な大気汚染はなさそうなので、妙な成分は無いと思うけど・・・。
そこで、以前本で読んだことがあるサバイバルの手法を真似して、水をろ過して飲むことにした。
うろ覚えであるが、材料は小石と砂、炭、シュロの樹皮だったと思う。シュロの樹皮は手に入らないが確か布で代用できるはずである。
問題は炭、炭は酸素と結合しないように木を高温で熱する必要がある。
炭焼き窯を作らなければならないが、流石にソーリの森の中に作る気はしない。そもそも移動しているので持ち歩くわけにも行かないのだ。
仕方ないので先日ゲットした鍋のうち厚手の鍋を利用して炭を作ることにした。鍋に蓋をして蒸し焼きにするのだ。
鍋の蓋は元々朽ち果ててなくなっていたので、自分で作った。どうやったかというと、適当な太さの木を見つけて光の刃で輪切りにしたのだ。薄く切るのは難しかったけど、切り口は綺麗にすべすべになっていた。うん、光の刃って便利だ。
炭を焼いている間にろ過する容器を準備することにした。実はこれが最大の問題で木で作った場合、腐るので衛生面や耐久性に問題がある。女神様に貰った瓶を使うの勿体ないのでどうしようか考えていると近くにある大岩が目に入った。
これを使えないか?
試しに光の刃で岩を切ってみる。
うん、木と同じようにスパッと切れる。光の刃っていったい何なんだろう?
岩を簡単に切れることが分かったので、まずは容器に使えそうな形で岩を切り出した。底辺が30×30cmぐらいで高さが60cmぐらいの直方体である。
それから直方体の上から小さい光の刃を少しずつ当てて岩を繰り抜いていく。意外と手間のかかる作業である。底の方はすり鉢状にして中心に穴をあけて完成である。
石で作ったのでかなりの重量になったかと思ったが意外と軽かった。地球で感じた重さとなんか違う気がする。スキルのせいだろうか?もしかして重力が小さいのか?
炭の方は水蒸気が出なくなるまで放置してから夕方までかかってしまった。
そこでやっと気が付いたのだ、中に入れる石や砂は綺麗な水で洗わなければ意味が無いということに。
結局その日はろ過装置は完成せず、それから3日後に小川を見つけてやっと完成にこぎつけた。
ろ過装置は水瓶の上に設置し、ろ過した水が直接瓶に入るようにしてある。水の供給だが、鍋で汲んできた水を入れるか、雨の日は亜空間の入口をろ過装置に上に小さく開けてそこから雨水が入るようにした。亜空間って、とても便利!
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今回の加工で光の刃が物凄く便利だとわかったので、『光の刃』とはいったい何なのかということを女神様にもらた石板を使って調べてみた、この石板には辞書みたいなもので、最初に貰った知識以外の事も記憶されているのだ。
『光の刃』は光という名称がついているが、光の速さで飛ぶわけではない。光輝く斬撃なので『光の刃』と呼ばれているのだそうだ。確かに光速で飛ぶならキングバットの時にあんなに苦労することは無かったな。
『光の刃』は魔素が凝縮され、硬い刃の様な状態になったもので、魔素が超高周波で振動している為何でも切ることが出来るのだとこと。
今回『光の刃』を調べるついでに自分の持っているスキルを知る方法も確認した。
『ステータス』と念じると、目の前に自分の情報が出てきた。
うん、ゲームと一緒だ。
この能力は自然発生でできるものじゃないよね、この世界どうなっているんだろ。まあ、女神と会話していた時点でおかしいとは思っていたけど・・・。
ステータスは見ることが出来るが、ゲームの様に細かく出てくることは無かった。俺が魔物を鑑定で確認できるレベルの内容である。
ちなみに俺のステータスは。
名称:ゼント・タナミ
種族:人族
体力:723
魔力:302
メインスキル:魔剣士、亜空間倉庫、鑑定
サブスキル :光の刃、ファイアボール、音の刃
見るんじゃなかった・・・。
ファイアボーアより低い・・・良くキングバットに勝てたね。
もう見るのは止めておこう。
体力と魔力の数値が低いのはさておき、勝った相手のスキルはちゃんと吸収できているのは確認できた。ただ、相手の攻撃を霧散させるスキルは出ていないのは何故?魔剣士の中に入ってるのだろうか?
まあ、余り深く考えないようにしよう。