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終焉

「さあ、歴史の授業は終わりましたよ。でもあなた方はもう少し静かにしていてくださいね!」


 ロイが右手で何かをつまむような形で手を前に出し左から右に動かした。


「な、動けん!!」


「ま、魔法も使えません。」


 ロイはウルスとヴェルスの神の力を封じ込めたのだ。


「まあ、そう睨まないで私のやることをそこで見学していてください。『管理者』としてのお手本を見せてさしあげますから。」


 ロイはそう言うと右手を上げて詠唱した。


「女神の鉄槌!」


 以前スクルスが使った巨大な女神の鉄槌ではなく、1mぐらいの黒い魔素の塊が王都の上空に多数出現した。


「やっぱり、一発で消し去ってしまっては勿体ないですよね。」


 ロイが鉄槌を落とそうとしたその時、今度は鉄槌が跡形も無く消えてしまった。


「何!何が起こった!」


 流石にロイもこの事態は予測できいなかったのか動揺の色を隠せなかった。


「こいつらの能力は完全に封じたはずだ!一体何が!」


 狼狽えるロイの前に突然閃光が走るとヴェルスやウルスに似た女性が木刀を持って出現した。


「お前は、リバイアサン!いや、この魔力はゼントという小僧じゃないか!?」


 ロイはゼントを睨みつけた。


「ゼントさん、逃げてください!貴方の力でも神を超越した存在となったロイを止めることは出来ません!」


 ヴェルスの悲痛な叫び声を聞いたゼントは首を横に振って応えた。


「こいつはここで倒さなければいけないんだ!」


 ヴェルスはゼントの言葉に違和感を感じた。何か二つの声が混ざって聞こえるのだ。


「何を言うか!超神となった私にお前ごときが勝てると思っているのか!たとえSSランクモンスターの力を借りても絶——————っ対、無理!!」


 ゼントはロイの言葉に動じることなく落ち着き払って言った。


「本当にそうか?」


「そうに決まっています!!」


 ロイはそう叫ぶと巨大なホーリーランスをゼントに向けて放った。


 巨大なホーリーランスはゼントに命中する寸前で消え去ったかと思うと、何とロイの目の前に出現し炸裂した!


「何ぃ———————————!!}


 このままでは王都もホーリーランスの爆発の巻き添えに・・・・ヴェルスは耐えられず目を閉じたが、何故か爆発音も爆風も聞こえなかった。


 ヴェルスが恐る恐る目を開けてみるとロイがいた所には白く輝く球体が出現していた。


「あ、あれは?」


「あれは、ゼントがホーリーランスの爆発をシールドで閉じ込めたんだ。」


 ヴェルスの問いにウルスが答えた。


「そんな、あれだけのエネルギーをシールドで閉じ込めるなんてできるわけないわ!」


「ああ、普通ならな。」


 ウルスは何が起きているのかを理解しているようだった。


 ホーリーランスが爆発したエネルギーを閉じ込めた球体からロイが転移してくるとゼントを睨みつけた。

 

「貴様一体どこからその様な魔力を得ているんだ!」


「魔力の出所・・・・・超神のお前が分からんのか?」


「な、魔力の出所なんてどうでもいいんですよ!お前さえ倒してしまえば!」


「ここには薄汚い人間達がいるから、どうせお前は私を攻撃することが出来ないでしょ!」


 ロイはそう言うと女神の鉄槌を撃とうと右手を上げた。


「そう、ここならばな!」


  ゼントは木刀を持った木刀をロイに向けて詠唱した。


「ホーリークロス。」


 あらゆる方向から光のスピアが現れロイの自由を奪うようにロイを囲っていった。


「お、おのれ・・・超神の私をこんなもので拘束できると思うなよ!」


「う、動けん・・・。」


「その拘束は、簡単に外すことはできません!」


 ゼントの口調が変わったのにヴェルスは違和感を持った。


「ウルス、ヴェルス、あなた達の拘束を解きました。ロイを天界に転移させてください。私の力ではロイを拘束するだけで精一杯です!」


 ヴェルスは一瞬目を閉じた後叫んだ。


「あ、貴方は創造神様!」


 ゼントは静かに頷いた。


「俺は、この木刀を介して創造神、いやユグドラシルとリンクしている。この木刀はユグドラシルの端末なんだ!」


「そう、この体を動かしている精神はゼント君であり、ユグドラシルでもあるのです。」


 ヴェルスはその言葉に驚愕したが、ロイの転移に協力するのを躊躇った。


「創造神様!何故私に真実を教えてくれなかったのですか!?」


 ユグドラシルは少し考えた後にゆっくりと言葉を紡いだ。


「・・・それは、それは私が家族を欲したから・・・。」


「・・・・つ。」


 思いがけない返答にヴェルスは言葉を詰まらせた。


「ヴェルス!その事は後で私しっかり説明する!今はロイを、ロイを天界に飛ばすのを手伝ってくれ!!」


 ヴェルスはウルスの声に我に返った。


「は、はい分かりました! ね、姉さん!」


「私の準備は出来ている!」

 

 ウルスは既に両手を伸ばしてロイに向けていた。


 ヴェルスも同じ体勢をとると二人は同時に唱えた。


「「ヴァニッシュ!!」」


 ロイはホーリークロスに囲まれたまま一瞬で姿を消した。


「じゃあちょっくら天界に行ってくるよ!」


 ゼントは木刀を肩にかけるとロイと同じように消えて行った。


「私も行き―」


「待て!」


「私達が行っても足手まといになるだけだ。」


 天界に転移しようとしたヴェルスはウルスに止められた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 この星の高空に存在する天界と呼ばれる場所、そこはギリシャの神殿に似た場所で、ゼントがこの世界に来た時にウルスに助けられた場所だ。地上は夜だが、まるで昼間の様に明るく、上空には紺碧の空が広がっていた。


 そこにホーリークロスで身動きが取れないロイがいた。


「おのれ、私をこんな場所に連れてきても無駄だ!私の力はユグドラシルをも越えているのだぞ!」


 ゼントがロイの目の前に出現し挑発するようにロイに言った。


「ならばそのホーリークロスから抜けてみるがいい。」


「こんなもの私が本気になれば。」


 ロイは鬼の様な形相で魔力を集中させた。


 カッ!! 強烈な光と共にホーリークロスが砕け飛び散って行った。


「はっ!どうだユグドラシル!これでお前も終わりだ!」


「さあて、ここで 女神の鉄槌を使ったらどうなるかな?」


 ロイはニヤニヤと笑いながら右手を上げて詠唱しようとした時上を見て気づいた。


「女神の鉄槌だと!!」


 ロイより先にゼントが女神の鉄槌を作り出していた。


「ば、ばかなこんなところで女神の鉄槌を使えばユグドラシルお前自身まで巻き添えになるんだぞ!ち、血迷ったか——————————————————っ!!!!」


 ゼントの右手が振り下ろされると一瞬で女神の鉄槌がロイを押しつぶし、辺り一面が真っ白になった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ゼントが転移した後、ヴェルス達は港の岸に移動し、ヴェルスは両手を合わせて空に向けて祈っていた。


「ヴェルス、私の話を聞いてくれ。」


 ウルスは空を仰ぎ見ながら淡々と話し始めた。


「2000年前の聖戦で人間の都市は崩壊し、ユグドラシルの庇護下にあった文明は失われ、管理者で生き残ったのは私とスクルスだけだった。」


「それでもユグドラシルシステムは残ったため、文明を再構築することも可能であったが、ユグドラシルはそれをしなかった。」


「なぜ、そうしなかったんですか?」


「それは、ユグドラシルは自分の過ちに気が付いたらだ。ロキが言うように全て思うがままに出来るようになった人類の進化は止まり、ただ享楽にふけるだけの存在となってしまっていたんだ。」


「そこでユグドラシルはロキの考えに従い人類への不干渉の掟を作り、管理者であった私とスクルスに人類が誤った方向に進まないよう観察者としての任務を与えたんだ。」


「ただ、たった二人しかいない状態にスクルスは耐えられず、他の管理者達の再生をユグドラシルに懇願した。ユグドラシルは聖戦の様に管理者達が分断して対立を起こすことを恐れて管理者の再生を拒んだのだが、スクルスのたっての願いに根負けし、ヴェルスの再生だけ許してくれた。」


「ユグドラシルは人口知能であるが、長い年月をかけて人と同じ感情を持つようになっていた。そう、ユグドラシルにとって私達は子供であり、家族であったのだ。ただの機械だったらスクルトの懇願など聞かなっただろう・・・。」


「その後はお前が知っているように記憶の無いお前に落胆したスクルスがユグドラシルに自身の記憶を消去して貰ったんだ・・・その時ユグドラシルは考えた、『聖戦後の世界で4人で生きていくために聖戦の時の凄惨な記憶など持っている必要は無い』と。そこでユグドラシルは過去の人間の営みから神と言う存在に目を付けたんだよ。」


「ユグドラシルは『聖戦で生き残ったのは自分だけで、この世界を監視するために女神3姉妹を創造した。』ということにしたんだ。ユグドラシルは私の記憶も消すように言ってきたが私は拒んだ。」


「なぜ、姉さんは拒んだのですか?」


「一人ぐらい創造神ユグドラシルと同じ記憶をもっている奴がいてもいいんじゃないかと思っただけさ。」


「でも、姉さんは全くそんな素振りは見せませんでした。」


「初めはつらかったけど、だんだん慣れていったんだ。ユグドラシルと姉妹3人の暮らしは平和そのものだったからな・・・。」


 ウルスの瞳に小さな輝きが見えたその時、王都の空が真っ白に光輝いた。


「ゼントさん・・・。」


 ウルスは右手をヴェルスの肩に載せて自分にも言い聞かせるように呟いた。


「大丈夫、あいつは決して死にはしないって。」


「姉さん。」


 ヴェルスが祈る様に空を見上げると。


「キャウ―!」


「ブルーじゃない!大丈夫?ケガしてない?」


「キャウ―!キャッ」(大丈夫!ケガ無い。)


 ブルーがヴェルスの肩にとまってきたのだ。


 ザバ―――――――ッ!


 海面が盛り上がるとそこから、ガメちゃんとケンちゃんが出てきた。


 ケンちゃんはボロボロのゼントの体が大事そうに抱え、腕を伸ばしてヴェルス達の傍に横たえた。


「ゼ、ゼントさん!」


 ヴェルスが駆け寄るとゼントの体が答えた。


「儂はリーじゃよ!」


「リーさん?ああ、そうねゼントさんがリーさんの体を使ってるんだもの。今直ぐに体を元に戻しますね。」


 ヴェルスにエクストラヒールをかけてもらったゼントの体はあっという間に元の姿に戻った。


「いやー、やっぱりヴェルスさんは凄いのう! あ、そうじゃ体を治しに貰いに来たんじゃなかったわい!」


「ヴェルスさん、主は大丈夫じゃよ!儂には儂の体が大丈夫じゃと分かるから。主はまだ戦っておるよ!」


 ヴェルスはリーの言葉に頷くとまた空に向かって祈り始めた。





 ヴェルス達が皆で空を眺めていと突然響き渡る様に声が聞こえてきた。


『ヴェルス、貴方に本当の事を言わないでごめんなさい・・・。』


「創造神様!」「ユグドラシル!」


『ウルスに聞いている事と思いますが、私は貴方たちを本当の娘の様に思い、貴方たちが慕ってくれることに喜びを感じていました。貴方たちと穏やかに過ごした2000年の時にとても幸せでした。』

『人に作られし物が幸せを感じるなんて可笑しいと思うかもしれませんが、4500年前に人の手によって作られた私は長い年月を経て感情と言う物を持つように至りました。その感情のせいでロキの進言を聞くことが出来ず、悲しい戦争を引き起こしてしまいましたが・・・。』


『私のせいで引き起こされた戦いの負の遺産が今ここにロイと言う形で顕在化したのです。私はこの身をもって負の遺産を清算します。』


『貴方たちの地上の監視任務は今日で終わりです。これからは貴方たちの意志に従って生きてください。』


『私にも・・・魂と言う物があるなら、輪廻の輪のその先でまた会いたいですね。』


『さようなら!』


「待ってください、創造神様!」


 ヴェルスは目に涙を溜めて大空に向かって右手を伸ばしと、突然創造神の叫び声が聞こえてきた。


『イヤ――――――――――――――――――――!!!」


「「へっ??」」


 ウルスとっヴェルスはユグドラシルの黄色い叫び声に目を丸くしていた。


『ゼントさん、コネクト!何をしようとしているのですか!?止めなさい!!』


『だから、そこを触ってはだめです!いや!いや!」


『やめて――――――――――――――――――――!!!』


「「はぁ~~~~~~~~~~~~~~~??」」


 ウルスもヴェルスもさっきまでの感動は何だったのかと呆れかえってしまった。


「全くあいつらユグドラシルに何をやっているんだか・・・。」


 ウルスは頭を掻きながら苦笑いをし、ヴェルスは右手で涙を拭きながら笑顔を見せていた。


「本当に・・・ゼントさんたら・・・・。」


「キャウ―――――――――――――――――――!」


次回最終回です。

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