神々の黄昏
王都のビヨンド港を望むビヨンド湾の上に魔人から本来の姿になったセリナが裸で宙に浮き、自分の体を確かめるように手でさすっていた。
「ふむ、まあ女の体も悪くはないか。」
「さて、まずはどうしましょうか?ああ、そうですねオーマ国に戻したモンスター達を呼び戻しますかね?」
セリナが指をパチンと鳴らすと突然王都の至るところにSSモンスターが出現し、咆哮を上げ建物を壊し始めた。
「さあ、人間たちを蹂躙してくださいね。」
ニヤニヤと笑いながらセリナは王都で暴れはじめモンスター達を眺めているて、モンスター達の姿がかき消されように見えなくなった。
それを見ていたセリナは特に驚くことも無く、後ろを振り返った。
「思ったより早かったですね、ウルスさん。でも良いのですか?地上には不干渉の掟があったはずですが。」
セリナの後ろには地上に顕現したウルスが同じように浮遊していた。
「その掟には例外があるんだよ。神の力を持った者が地上に干渉しようとした場合、それを阻止する目的でなら地上への干渉が認めらている。それよりロイ、お前は2000年前の聖戦の時に死んだはずではなかったのか?」
「本当、あの時は死にそうにはなりましたね。ロキがもうちょっとやってくれると思っていたのですが、負けちゃいましたからね。」
ロイは降参するようなジェスチャーで両手を挙げた。
「ロキを再生させ、オーマ国を陰で操っていたのは前だな。」
「ご名答!ご褒美に飴でも・・・あ、ごめんなさいこの体では持ってなかったわ。」
「本当に大変でしたよ。あなた方を越える体を手に入れるに2000年もかかっちゃったんですから。150年前の勇者はいい線行ってたんですが、まさか人間が葬っちゃうとは想定外でしたよ。」
「ロキさんも地道に育てていたんですけど、まさかスクルスさんがあんなことをするなんて、本当!貴方たち姉妹には邪魔をされてばかりです。」
「でも。この体なら、ユグドラシルシステムを含めた、生き残りの貴方たち二人を倒すのに十分ですよ。ねぇヴェルスさん。」
ウルスの隣には女神の力の制限を解除されたヴェルスが転移して来ていた。
「何を言っているのですか?聖戦で生き残ったのは私達だけじゃありません、神は他にもいます!」
「なんと自分たちの事を『神』というのですか?ああ、貴方は聖戦以前の記憶が無かったのですね。私達は『神』なんて高貴な存在じゃあありませんよ。人間とも違うから、あえて言えば『管理者』と言う言葉が適切ですかね。」
「それは、一体どういう意味ですか?」
ヴェルスにはロイの言っていることが分からなかった。
「まあ、時間はいっぱいあるので、ここはロイ先生が教えてあげましょうね。」
ロイは饒舌になりヴェルスに話始めた。
「天界であなたは他の『神』と思っている人たちに会ったことはおありですか?」
「ええ、魔鏡を通して何度も話をしてました。魔族地域のウルとグナーそれにエルフの地域を担当しているサーガとシュン、それに創造神様!」
「そうですか魔鏡を通してですか・・・・直接お会いしたことは無いのですね?」
「ええ、直接会ったことは-・・・・。」
ヴェルスはここで言葉に詰まってしまった。神の力を使えば直接行き来することは何でもないことなのに今までウルスやスクルス以外の神と会ったことが無かったのだ。
「直接会ったことはありません・・・。」
「そうですか、それでは彼らが存在していることの証明にはなりませんよね?」
「姉さん!」
ヴェルスは問いかけるようにウルスを見た。
「ああ、そうだロキの言っていることは本当だ。お前が魔鏡で見ていた者たちはユグドラシルが彼らの生前の記録から作り出したVRだ。魔族の地域とエルフの地域はユゴドラシルが作り出したVR、すなわちユグドラシルそのものが監視していたんだ。」
ウルスは淡々と答えた。
「どうして!何でそんなことを!?」
ヴェルスは今まで自分が見てきた者達、そもそも自分の存在が何なのか分からなくなっていた。
「聖戦で生き残ったのは私とスクルスだけなんだ。」
「それなら、他の神々も復活させたらよかったのではないですか!」
「聖戦後のユグドラシルシステムが崩壊したしまった状態では多くの管理者は要らなかったんだ。それに―」
「そこからは私が説明してあげましょう。」
ロイはウルスの言葉を遮りニコニコしながら再び話始めた。
「この世界の人類は約4500年前に人類の知能を越えた人工知能を創造しました。その人工知能がユグドラシルの前身なんですよ。」
ヴェルスは問いかけるように姉のウルスの方を見るとウルスは無言で頷いた。
「『全ての人類の幸福』を目的として作られたその人工知能は自ら進化しながら人類の為に尽くし、数十年で地上から飢えや貧困、戦争が無くなりました。さらにそれから数百年後、その人工知能はC魔素、E魔素により人類に魔法の様な力を与えるシステムを作り出したのです。」
「このC魔素、E魔素を使えば、人類は機械の力を使わずに飛ぶことや、水や氷、炎までも自ら作り出すことが出来るのですよ。どうです素晴らしいシステムでしょう!この頃ですよ、この人工知能がユグドラシルと言われるようになったのは。」
ロイは大げさに両手を広げてジェスチャーをした。
「ただ、この素晴らしい魔素にも問題がありまして、魔素の使い方を誤って怪我をする人が後を絶たなかったのです。そのためユグドラシルは魔素を使う人間を管理するため私達『管理者』を『人間の遺伝子』から造ったのですよ、不死の管理者を!」
自分達の生い立ち聞いたヴェルスは顔面蒼白になっていた。
「そう、それから数百年の年月が経った頃ですかね。人類は魔素の力を使うのに飽きてしまって、とんでもないことをやり始めたんですよ!」
ここまでニヤニヤと話をしていたロイの顔が急に真顔になった。
「そう、あろうことか人類は動物の遺伝子を操作し、魔石と言う形でC魔素、E魔素を与えることでモンスター作り出したんだ!」
「人類が何故モンスター何て危ない物をを作り出したか分かりますか?そう、心優しいヴェルスさんには分かりませんよね?奴らはモンスターを闘技場で戦わせるために作り出したんですよ!!」
ロイの顔は怒りに歪んでいた。
「人類の暴走はこれで止まりませんでした。何と奴らは人類の遺伝子まで操作したんですよ。それで生まれたのがエルフであり、獣人、魔族なんです!!彼らは自分たちの遊興のためエルフ、獣人、魔族を生み出したんですよ!!私は彼らが闘技場で傷つき倒れて行く姿を直視することが出来ませんでした。」
ロイが握りしめた手から血が垂れてきていた。
「そんな堕落しきった人類の行いを正すよう私とロキがユグドラシル進言したのですが、ユグドラシルは人類の幸福のためと言う主張を繰り返すだけで彼らを正すことをしませんでした。」
「それを正すために私とロキが起こしたのが2000年前の聖戦なんですよ!」
ヴェルスは自分が何をしてよいか分からなくなっていた。自分の信じていたユグドラシルがやっていたことが間違っており、ロイの言っていることは至って正論なのだ。
「ただ、ロキと私の意見は一部異なっていましたけどね。」
ロイは話を続けた。
「ロキは堕落し滅びに向かっていた人類という種を活性化するため、モンスターを人類の中に解き放とうとしたんです。そう、ロキの目的はあくまでも人類と言う種の保存だったのです。でも私は違った、私の目的は堕落しきった人類を根絶やしにすることが目的だったんです!!」
怒りが頂点に達したロイから強大な魔力が放出された。
「うっ!」
この魔力は女神としての力を取り戻したヴェルスにとっても応える強さだった。
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ロイがビヨンド港に現れた頃、ビヨンド湾西岸の海底ではばらばらになったゼントの周りに3匹の従魔が集まっていた。
『主ー!大丈夫か?死ぬなよー』
人の姿になったリーが情けない声で両手の無いゼントの胸から上の体抱えて呼びかけていた。
『大丈夫・・・と言いたいところだけど、体がバラバラじゃあどうしようもないな。』
『あの化物は勇者より遥かに強力だぞ!あんなの主の体が治っても倒せるわけねえど!』
『ああ、ガメちゃん分かっている、今ヴェルスとのリンクであいつの様子を見てるけど、あいつはこの世界の神と呼ばれる存在を上回っているんだ。』
『そうです主殿、あんな人は放っておいて私達と一緒に魔族領の方にでも逃げませんか?』
『いや、ケンちゃんそれはできない。俺は俺の大事な人たちを守りたいんだ!』
『主ー!でもその体じゃ無理じゃぞ!』
『そこが問題なんだよな—。』
ゼントはそのまま黙り込んでしまった。
『そうだ!我に良い考えがある。』
リーは小声でゼントに説明した。
『いや、それだとお前が。』
『我は主に助けてもらった身じゃから主と一緒なら本望じゃよ。』
リーがゼントにウインクをすると、コネクトの声が響いた。
『リー、主殿、私ニ提案ガアリマス。』