邪神降臨
ゼントがユートを説得している頃、ビヨンド橋の上ではゼンとロイの戦闘が続いていた。
「貴方は本当に素晴らしい!エルフは元々戦闘に特化して作られた種族ですが、ここまでおやりになるとは、相当努力をされたんですね。」
「お前に褒められたくはないわ——!」
ゼンはロイに向かって村雨の斬撃を放った。
「おっと。」
ロイは斬撃を軽々と避けるとビヨンド湾の西側に目をやった。
「どうやら終わったようですね。今日は本当に楽しませてもらいました。お礼を言わせてもらいますよ。」
「ぬかせ!」
ゼンの攻撃を避けると、ロイはふわりとビヨンド橋の上に浮遊した。
「ゼンさん、楽しませていただいたお礼に一つ忠告しておきますね。まだ死にたくなかったら早急にエルフの国に戻ってください。それでは、ごきげんよう。」
ロイはそう言うとかき消えるように姿を消した。
「彼奴はいったい何者なんじゃ。」
ゼンは橋の欄干の上で村雨を鞘に納めた
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(やった!シールドが解除された。)
セリナは、小型の魔動船で何とかユートの近くまで来ていたが、ゼントが張ったスキルオフフィールドに妨げられてユートに近づけないでいたのだ。
セリナはユートの名前を叫びながら駆けだした。
「ユート様—————!」
(ユート様が力尽きている。そうよ、こんな時の為に大魔導士のロイ・オーソン様に教わったあれを使う時よ。これでユート様の力が復活するわ!)
セリナはロイ・オーソンに教わった呪文を唱えなえてからユートに抱き着き熱いキスをした。
(やった、私のファーストキッスよ!)
ユートは突然のセリナの行動に困惑して目を丸くしていたが、直ぐに顔面が蒼白になった。
(なに、一体どうしたの?)
ユートの唇は紫色になったかと思うと宝石の様に透明になり、それが唇から顔、体へと広がって行った。
(何?どうしたの?・・・これって、まるで変異魔石じゃないの!)
直ぐにユートの体は全身が紫色の結晶になってしまった。
「あ、あれは一体どうしたんだ!」
この様子を一部始終見ていたゼントは何か言いようがない恐怖を感じていた。
『周囲ノ魔素ガアノユートダッタ変異魔石ニ吸イ込マレテイキマス。「魔素ヲ操ル者」ノ作動条件カラ外レマス!』
コネクトの声と共に 魔素ヲ操ル者が停止し、セリナは巨大な人型の魔石を抱いていた。
「一体何が起こったのよ!ユートさんしっかりして!」
セリナは既にパニック状態になっていたが、変化はこれで終わらなかった。
ユートだった変異魔石がセリナの体にゆっくりと入溶け込み始めたのだ。
「いやー!なによこれ、やめ・・・・」
口の部分が魔石で覆われるとセリナの声は途絶え、全ての魔石がセリナに吸収されると、セリナから異様な魔力放出され始めた。
『アノ女性ノ魔人化ガ始マリマス。』
コネクトの声にゼントはただ茫然と頷いた。
「ウガー!」
セリナは叫び声をあげると体が巨大化し、服が引き裂かれた。体は青く変色し至るところにケロイド状の肉塊が出来、頭には巨大な角が2本、背中には翼が生えていた。そうリーナが魔人に変貌した時と全く同じであった。セリナは膨大な魔力が制御できず体を変貌させてしまったのだ。
変貌が終わるとセリナは我に返り体を確かめ始めた。
(一体何が起こったの?何この体の色?何この鋭い爪が生えた手は。)
セリナの体を確認する手が顔から頭に移動した時セリナは気が付いた。
(え?これは角?私角が生えているの?これってまるで私モンスターみたいじゃない!)
「いや——————————————————————————————————!!」
セリナから膨大な魔力の波動が放出され、それがゼントを襲った。
ゼントは声を上げる暇も無く体をばらばらに引き裂かれビヨンド湾に落ちていった。
「いや、やっぱり魔力コントロールが下手な人は駄目ですね。」
頭上からの声にセリナが見上げるとそこにさっきまでゼンと戦っていたロイが浮遊していた。
「お、お前はロイ・オーソン!」
「はい、お久しぶりです。セリナ王女様。」
「お前が言っていたユート様を助ける魔法を発動したらこんなになってしまった。どういうことだ!」
セリナはドスのきいた声でロイを睨みつけた。
「どうもこうも、私が言った通りちゃんと敵を倒せたでしょう。問題ないじゃないですか?」
「問題だらけです!ユート様は一体どうなってしまったんです!それに私の体は!」
「ユート様には敵を倒す為に変異魔石になってもらいましたよ。元々貴方の兄上はゴード国を属国にできればユート様なんてどうでもよいとおっしゃっていましたから。」
「なに、兄上がだとー!」
セリナは兄がユートの事を使い捨ての化物の様に言っていることを思い出して歯ぎしりをした。
「まあ、よかったじゃあ無いですか。変異魔石の作り方を覚えられたんですから。」
セリナは再びロイを睨みつけた。
「ああ、それからその体ですが、きちんと魔力を制御出来れば元に戻りますよ。」
セリナはその言葉を聞いて少しだけ安堵したが、直ぐにどん底に落とされた。
「最も貴方では無理ですけどね。」
「なんだと!」
セリナがロイが浮いていた方を見ると既にロイはいなかった。
「さあこれから貴方のその体私が有効活用してあげますね。」
ロイはセリナの後ろに出現し、右手でセリナの頭を鷲掴みにすると二人は眩いばかりの光に包まれた。
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「こ、この魔力は・・・。」
怪我人を治療していたヴェルスは異常な魔力の高まりを感じ体の震えが止まらなかった。
「この邪悪な魔力は・・・・まさか邪神!?」
この時、王都に住む人々は全て異様な魔力を感じていた。