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ビヨンド湾海戦②

 ユートはゼントの胸倉を掴んだ状態から岸壁をめがけてゼントを放り投げた。


 ゼントは一直線に岸壁に突き刺さり、突き刺さった岸壁は粉塵を上げて粉々に砕け散った。

 

 ゼントがユートの目の前で俊速を解除したのは以前盗賊を俊速で撲殺した時ことがトラウマになっていたからだ。


 少しすると粉塵の中からゼントが無傷で姿を現した。ゼントは衝突寸前に絶対シールドを展開していたのだ。


「そういうお前こそ、何で今とどめを刺さなかったんだ!」


 ゼントは意図的にユートに挑発する言葉を放った。


「なんだとー!」


 ユートはゼントの胸倉を掴んだ時点で頭を吹き飛ばすなり、とどめを刺すべきだった。こんな奴いつでも倒せると言う慢心から判断を誤ったのだ。


 ユートはオリハルコンの剣を大上段に構え、真っすぐゼントに向かって行った。


(よし、かかった。俊速が使えないなら・・・。)


次元喰ディメンジョン・イーター


 ゼントは木刀を振り下ろすと黒い球体の次元喰がユートに向かって行ったが、それはデーモンオークのそれよりもかなり小ぶりだった。


「ふん、そんな貧弱な次元喰に俺がやられるわけないだろう。」


 ユートは次元喰を軽く右に避けて躱すと、左足に激痛が走った。


「な、なんだ!」


 ユートが左足を見ると複数個所から鮮血が噴き出していた。


「貴様一体何を。」


 ゼントは次元喰の本体の周りにごく小さな次元喰を纏わせていたのだ。小ぶりの次元喰は囮だった。


「もらった!」


 ユートが左足の怪我に気を取られているうちにゼントは再び俊速でユートの目前まで来ると意図的にスキルを解除し木刀をユートの腹に横薙ぎで切り付けた。

 

 木刀は一瞬で目視できない剣速に達し、ユートの脇腹に食い込んだ。


「なっ‼ ごふッ」


 ユートは口から血を吐き、体はくの字に折れて岸壁に向かって飛んでいった。


 ゼントは俊速を解除した状態ではユートにダメージを与えることが出来ないことが分かっていたので、ブルーのスキルで剣速を加速させていた。


 今度はユートが岸壁にぶち当たり粉塵を上げていた。


 ゼントはユートが突っ込んだ場所まで飛びユートを説得し始めた。


「おい、ユート頭を冷やして少しは俺の話を聞いても良いじゃないか?俺を倒したいなら、俺の話を聞いてからでも遅くはないだろう!」


 ピカッ!粉塵の中から一筋の閃光が上空に伸びたかと思うと粉塵は周囲に吹き飛ばされ、その中にユートが立っていた。


「貴様の様に卑怯な奴の話を聞く耳は持たーん!!」


 ゼントの攻撃はユートを落ち着かせることなどできず、ただ怒らせただけだった。

 ユートはゼントを睨みつけるとオリハルコンの剣を高々と上げて叫んだ。


「サウザンド・ホーリーランス!!」


 ユートの上空に無数のホーリーランスが出現した。


「避けられるものなら避けてみろ!!」


 無数のホーリーランスはま放射状に広がったかと思うと鋭角に向きを変えて四方からゼントに向かって飛んできた。


「やべっ!」


 ゼントは避けきることが出来無いと判断し、ムーブで転移しようとしたが、転移できなかった。


「お前の転移はブロックさせてもらった。」


 そんな事ができるのか!ゼントは思わず感心してしまったが、今はそんなことを考えている場合じゃない!!どうする!あんな熱量を絶対シールドで防ぐことなんてできない!


 ゼントが覚悟を決めて無謀にも木刀でホーリーランスを叩き落とそうとしたその時。


ゴァ———————————!! 轟音と共に上空から巨大な白いファイアボールがゼントの右前方に落ちてきてホーリーランスの軌道を変えた。


「チャンス!」


 ゼントはすかさずファイアボールが出来たホーリーランスの隙間に突進し難を逃れることが出来た。


(ガメちゃん、サンキュー!)


(でへへ。)

 

 ホーリーランスの軌道を変えたのはガメちゃんのファイアーボールだったのだ。ガメちゃんはゼントに加勢しようと上空を旋回していたのだ。


 ズン!! ほぼ一点に集中したホーリーランスは轟音と共に強烈な光を発した。


「ヤバい、ブルー、リー、ガメちゃん逃げろ!」


 それぞれのホーリーランスの大きさは小さいが、無数のそれらが一点に集中したのだ、ゼントが以前放った巨大なホーリーランスの熱量を上回っていた。周囲の空気や海水が一瞬で超高温に熱し水蒸気爆発どころの話ではなく原爆の様な爆発を引き越した。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 膨大な魔力の高まりの後の大音響にゼンとロイは戦いの手を一瞬止めた。


「ほう、かなり派手にやっていますね。」


 ロイは橋の欄干の上に立ってビヨンド湾の西を眺めていた。


「余裕こいてんじゃない!」


 ゼンはすかさずロイに切りかかった。


 ロイは、それを余裕で躱すとロイは涼しい顔で言った。


「いえいえ余裕なんてこれっぽっちもありませんよ。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 轟音の後に、王都には強烈な爆風が押し寄せてきた。


「あ、危なかったわね。」


 シェリーは胸を撫でおろしていた。


「ヴェルスさん、ありがとう!絶対シールドが間に合わなかったらテントが全て吹き飛ばされてしまう所でした。」


 異常な魔力の高まりから爆発を察知したヴェルスが救護所のテント全て覆う絶対シールドを張ったのだ。


「いえ、でもこの爆風だとまた王都に被害がでなければよいのですが。」


「・・・確かにそうですね、でも、今はくよくよ考えていても仕方ないので私達がやれることをやりましょう!」


 シェリーは近くでポーションを配っているゲンジを捕まえた言った。


「ゲンジさん、爆風が止まったらケイラ工房に置いてある、試作品のポーションを全て持ってきてください。」

 

「お嬢さん、あの試作品を出してもいいんですか?あれはまだケイラ工房の機密事項ですぜ。」


「構いません!人に害が無いことは確認済みです。こういう時に使わないでいつ使うんですか!」


「わかりやした。お嬢さんがそうおっしゃるなら。直ぐに持ってきます。」


 ゲンジは爆風が収まると直ぐにテントを出て工房に走った。



「一体どんなポーション何ですか?」


 ヴェルスが不思議そうにシェリーに質問した。


「試作品のポーションは通常のポーション並みのコストでエクストラポーションに匹敵する効果があるポーション何ですよ!」


 シェリーは胸を張ってどやっていた。エクストラポーションは精製が難しく通常のポーション並みの値段で出来るようなら革命的なことなのだ。


「これでヴェルスさんの負担も減らせますよ!」


 シェリーはヴェルスにウインクをした。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「良くあの爆発の中を生き延びたものだ。ゴキブリの様なしぶとさだな。」


 ゼントは岸壁の上まで避難すると多重シールドを張り巡らしていたので何とか爆発の中を生き延びていたのだ。


「うるせー人をゴキブリ扱いするんじゃねー。」


「ふん、まだ減らず口を叩く元気はあるようだが、立ち上がることが出来ないところを見るともう魔力はほとんどないんじゃないのか?」


 元々ゼントの魔力はヴェルスの半分くらいしかないにも関わらず、魔力を大量に消耗する多重シールドを張り巡らしたのだ。ゼントは立っていることができない程魔力を消耗していた。


「ユート、お前は何でそんなにもゴード国を恨んでいるんだ!」


「ゼント、お前何を言ってるんだ?ゴード国に洗脳でもされたのか?ゴード国は魔族に組する国ではないか!人類の敵だぞ!」


 勝ちを確信したユートはゼントの話に耳を傾け始めた。


「それは・・・お前がオーマ国に教わった事だろう!実際にこの国を見たのか?」


「俺はオーマ国に潜入したゴード国のスパイと何度も戦闘をした。ゴード国のスパイ達はモンスターを操りオーマ国の人々を苦しめている所を俺は何度も救ったんだ!それが全てだ!お前は何を見たって言うんだ!」


「俺はソーリの森に落ちてから人間の国を目指してゴード国にやってきてこの国を、この国の人々を見てきた。確かに悪い奴もいるが、良い人達だって大勢いる。人々の姿かたちは違うけど、元いた日本と一緒で皆一生懸命生きているんだ!それをお前のチート能力で全滅させようというのか!」


「お前はあんなガメ〇みたいな強大なモンスターを操る国が日本と同じだというのか!さっきお前を助けたのはあのモンスターだろう!黄金の龍まで操りやがって!貴様が魔族そのものじゃあないか!!」


 ユートはオリハルコンの剣に膨大な魔力を込めて大上段からゼントに振り下ろした。


キン! オリハルコンの剣はゼントの頭上で分厚い魔力の壁に弾かれた。


「な、貴様まだそんな魔力を」


「え?何だこの魔力は。」


(イャアー、ナントカマニアイマシタネ。)


(コネクト、この魔力は一体誰のなんだ?)


(リーナサンハ、ヴェルスサンニ魔力ヲシェアシテイルノデ、コチラニシェアスルノハ無理デシタ。持チ主ガ主ニ挨拶シタイトイウノデ替ワリマス。)


 ゼントの脳内に女性の声が響いた。


(主殿、ご無沙汰しております。ケンちゃんと申します。)


(え? ケンちゃん女の子だったの!?)


(はい、私は生まれた時から女性ですが、何か?)


 ゼントは「ケンちゃん」という愛称から完全の男と思っていたのだ。

 ってことはケンちゃんとリーのじゃれ合いは百・・・・・。


(いや、何でもない、そう言われてみれば話をするのは初めてだったね。)


(はい、以前助けていただいてから主殿とはなかなか話をする機会がありませんでしたので。此度は主殿が化物の様な勇者と戦っているのに私のスキルでは「あの化物」に歯が立たないため足手まといになると思い歯ぎしりをしながら戦いの様子を見ておりました。)


(んーっと、ちなみにケンちゃんのスキルって何?)


(私のスキルは毒墨と絞め殺しです。毒墨では当たらなければ役に立ちませんし、絞め殺しでは小さい勇者を捕まえることは困難と言うより無理でございます。)


(あ——————————ん——————確かにそうだね。)


(はい、でもコネクト様から私の魔力をゼント様にシェアしていただけると伺ったので、今現在シェアさせていただいている次第です。幸い魔力量だけはリーさんやガメちゃんより多いので、ゼント様に思う存分使っていただきたいと存じます。)


(分かった、ありがとう!今度何かお礼するから。)


(いえいえ、お礼には及びません。)


「おい、ゼント!何をさっきから黙り込んでいるんだ!」


 ゼントはユートの言葉に我に返って立ち上がりユートを睨んで言った。


「さあて、2回戦だ!」

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