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出現

「おい、どうしたんだ!何故モンスターが転移してこない!」


 魔動船の中、オーマ国の外交官ボーナビルは苛立っていた。フィールドビヨンドに仕掛けた転移装置からモンスターが出現したかと思うと消えてしまい、一匹も止まることが無いのだ。


「くそ、奴らが転移装置に妨害をする前に日程を繰り上げてまで来たというのに、彼奴らの妨害が間に合ったということなのか!せっかく勇者まで連れてきたのに!」


 そう、オーマ国がモンスターの転移と勇者を連れての訪問を合わせたのには理由があった。フィールドビヨンドは交易港や漁港として極めて価値がある都市のため、完全に破壊するのはオーマ国にとって望むことではなかった。モンスターを転移させ、ゴード国の戦力を削ぎ、その後フィールドビヨンドが壊滅する前にオーマ国の勇者がモンスターを退治する気だったのだ。そうすればゴード国に恩を売ることだってできるし、勇者の圧倒的な火力を見せつければ、戦力を削がれたゴード国はオーマ国に従うしか道が無いのだ。


「おい、本国とは連絡が取れたのか?」


「いえ、一度繋がったのですが、物凄い音がしたと思ったら切れてしまいました。」


「くそ、一体何があったんだ!」


 ボーナビルは苛つきから目の前の操作盤を思い切り叩いたり蹴ったりしていると、通話器がけたたましく鳴った。


『艦橋、聞こえますか?こちら見張り台、フィールドビヨンドに再び閃光が見えます。』


「何?閃光だと!」


 ボーナビルが艦橋の窓からフィールドビヨンドを見ると港の所に転移装置と同じ光が見え、それが消えると港の上に月明りに照らし出された巨大な黒い影が現れた。


「よし、上手くいったようだ!一匹でも十分だ!」


 黒い影が港に降りるとズシンという音の後、大波が魔動船を襲った。


「おわ————っ!」


 ボーナビルはよろけながらも何とか計器盤に掴まり倒れずにいた。


「何だ今の衝撃は!そんなバカでかいモンスターって準備してたのか?」


 本国が準備していたモンスターは体長10m程度のピラニアドラゴンが最大だったはず、それならここまでの衝撃は来ないはずだ。


「おあ、ああ、彼奴は!!」


 港を見たボーナビルは思わず腰を抜かした。出現したモンスターの体長は優に30mを越えているのだ。


「あ、彼奴は、先日打ち込んでおいたコントローラが破壊されたと報告された奴じゃあないか!」


「砲手、魔動砲を打て————!」


「待ってくださいボーナビル殿、それでは予定と違います。」


 艦長がボーナビルを静止した。


「違っても構わん!彼奴に攻撃される前に打て————!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ズシン!!


 凄まじい地響きと共に王都中に地震のような揺れが走った。

 家々の窓ガラスは軋み、港付近では窓ガラスが割れる家が続出した。


「な、何だ————!」


 食事を終えてソファーでまったりとしていたゼントは跳ね起きた。


「な、何だこのデカい魔力は?」


「そ、そうじゃこの魔力は・・・」


 ゼントとリーは急いで窓側まで駆け寄り、港に現れた巨大な影を確認した。


「あ、あれは・・・・。」


「そ、そうじゃ!間違いない!」


「「ガメちゃん!!」」


 ゼントとリーは思わずハモってしまった。


『ガメちゃん、なんでそんなところにいるんだ?』


『そうじゃ、お前何しに来たんじゃ?』


 ゼントとリーはガメちゃんに念話で話しかけた。


『お、ああ、ゼントさんにリーか?いや、おでも何でここにいるのか分かんねぇんだ!海に中で気持ち良く寝てたら、知らないうちにここにいたんだ。』


『転移装置だ!この間は見落としたけどガメちゃんに転移装置がついていたんだ。』


『なんだ?転移装置って?』


『説明は後でするから、今リモートで破壊・・・』


 ゼントがリモートしようとした時、魔動船の艦首付近から巨大なファイアランスが発射され、ガメちゃんに命中した。


 ファイアランスはガメちゃんに当たると四方に飛び散り王都の街に炎の槍が降り注いだ。


『な、彼奴ら何をする気だ!ガメちゃん、大丈夫か!?』


『まあ、彼奴の得意技は火だから、あのくらいのファイアランスなら大丈夫だぞ。』


『・・・・・』


『あ、ガメちゃん、切れた!』


 ガッ! ガメちゃんは口から真っ白なファイアボールを魔動船に向かって放った。

 魔動船はシールドを展開するが、ファイアボールはシールドを貫き、艦首の砲塔を撃破した。


『おりゃーっ!ざまーみろ!』


 ガメちゃんは、右手の中指を立てて挑発していた。


『おい、ガメちゃん、やめろ!こんな所で戦闘したら王都がめちゃくちゃになるだろう!』


 ガメちゃんに当たり飛び散ったファイアランスの欠片が飛び火し至る所で火の手が上がっているのだ。


『わ、分かった。』


 ガメちゃんがそう言ったとき、一瞬ゼント脳裏にホーリーランスがガメちゃんを貫くイメージがよぎった。


『ガメちゃん、すぐそこから逃げろ!ホーリーランスが来るぞ!』


『なんやて!』


 ガメちゃんが魔動船の方を振り向くと甲板に一人の男が立っており、今正にホーリーランスを打つところだった。


(今おらが飛び立てば逃げられる。だけど・・・おらが逃げたらあれはゼントさん達がいる街の方に・・・。)


(ええーい!考えてる暇なんぞない!)


 ガメちゃんは飛んで逃げることはせず再びファイアボールを放った。


 ファイアボールはホーリーランスに正面から当たり、ホーリーランスを撃破したかのように見えたが・・・。


ガツッ!ドガ————————ン!!


 轟音と共にホーリーランスはガメちゃんを直撃し火柱が上がり炎が周囲に飛び散っていった。


『ガメーっ!』『ガメちゃーん!』


 ガメちゃんは炎に包まれながらも立っていた。


『へへっ。おら耐えたぞ!』


 ガメちゃんが放ったファイボールがホーリーランスの威力を削ぎ落していたのだ、全身黒焦げになりながらもガメちゃんはしっかりと立っていた。


「ヴェルス、ミュウ、ばーちゃん、ラオさん!街の人達を救助してくれ!俺はリーとユートを止めてくる!ブルーは俺と一緒に来てくれ!」


 ガメちゃんがホーリーランスを受け止めてくれたおかげて街の被害は最小限に済んでいるが最初のファイアランスの破片も含めて至る所で火事が発生しているのだ。


「分かりました。救助が終わったら私達も直ぐ向かいますから、ゼントさん、絶対無理しないで下さいね!」


 ヴェルスが心配そうにゼントの手を取った。


「そうだ、ゼント絶対に無茶するなよ!」


「お主は次期クーマオ族の長なんだからな。無理する出ないぞ!」


「儂も一緒にいこう。救助じゃ儂の力は余り役に立たんからな。それにほおっておいたらお前は無理するじゃろうて。」


「分かった無理はしない。ばーちゃんは一緒に来てくれ。」


 ゼントはそう言うとブルー、ゼン、リーを連れてムーブで転移していった。


「よし、お前らも俺と一緒に来い!街の人の救出に行くぞ!」


 ラオが声をかけるとクーマオ族の皆が気勢を上げた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ゼントがガメちゃんの前に転移すると2撃目のホーリーランスがガメちゃんの目前に迫っていた。


「ブルー頼む!」


「キャウー!(分かった。)」


 ブルーはホーリーランスの向かって超高速で飛行し、ホーリーランスのすぐ脇を斜めに横切るとホーリーランスは軌道を変え真上に向かって飛び始めた。これはブルーのスキル慣性制御と重力制御によりよるものだ。本来ブルーは勇者が使うホーリーランスの軌道制御や速度制御の役目として異世界から召喚されたのだから、こういった芸当はお手の物なのだ。


カッ!


 ビヨンド湾の上空で巨大な閃光が煌めいくと花火の残骸の様な炎の筋が幾重にも降りてきた。


「3撃目が来る!」


 今度はゼントがガメちゃんの前に転移し、ヴェノの翼を広げた。


「ガメちゃん、飛べ!」


『・・・・・』


 ガメちゃんは最初の一撃で意識がもうろうとしていてゼントの言葉に反応が無い。


「早く!!」


『はっ、わわがった!』


 ガメちゃんは、両手、両足、首を引っ込めると足を引っ込めた所から猛烈勢いのガスを噴き出し上空へと飛んでいった。


 ゼントはそれを確認すると、目前に来ている3撃目のホーリーランスに大上段から木刀を振り下ろした。


 ホーリーランスは魔動船の前方の海面に向かって軌道を変え、海面激突した。ホーリーランスの持つ膨大な熱量は凄まじい水蒸気爆発を起こし、100mを越える水柱が出現させた。


 魔動船は巨大な水柱が引き起こした大波に翻弄されながらも辛うじて沈没を免れていたが錨は抜け沖にまで流されていった。


 一方ゼントは水柱の影響をもろに受け、一瞬天地が分からない状態になり、海面へと落下していった。


「主——!」


 リーが龍の姿に戻り落花するゼントを水面すれすれで口で受け止めた。


「あ、ありがとう、リー。」


 ゼントが体勢を立て直しリーの頭近くに立ち上がるとブルーがゼントの肩に戻ってきた。


「キャウ―!」


「よし、ユートを止めに行くぞ!」

 

ゼント達は沖まで流された魔動船に向かって行った。



「あー全く、あいつら完全に儂のことを忘れとるな。」


 波止場に取り残されたゼンがゼント達が沖に向かって行くのを眺めながら愚痴っていた。


「まあ、よいか。儂が相手をしなければならない奴がおるようじゃのう。」


 ゼンはそう言うと、ビヨンド橋を目指して歩いて行った。


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