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黒船襲来

 夜明け前の薄暗いビヨンド湾、靄の中に朝の漁をする漁船の灯りが点々としていた。


 その中の一艘に定置網を引き揚げているゲンが仲間の漁師がいた。


「昨日は大漁だったのに、今日は一体どうしたんだ。」


「ああ、雑魚すらかかないっておかしくないか?」


 二人がぶつくさ文句を言いながら網を上げていると、急に周りが暗くなった。


「お、何だ、何が起きたんだ!」


 ゲンが後ろを振り向くとそこには大きな黒い船影があり、その船はありえない速度でビヨンド港に向かって進んでいた。


 二人がその巨大な船に気を取られていると、二人が乗っている船が急に大きく揺れだし、二人共船外に放り出されてしまった。


「ぷふぁっ! 何つうデカい波なんだ。」


 ゲンも仲間も何とか船の端につかまり辛うじて難を逃れることが出来たのだ。


「黒船? いや、あれが噂に聞く魔道船というやつか?」


 ずぶ濡れの状態でゲンは黒船が消えた彼方を呆然と見ていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ゴード王、オーマ国の黒船が先程ビヨンド港に入港しました!」


 王の執務室に駆け込んで報告をしたのは宰相のロッコールであった。


「そうか。」


 ゴード国王スタンは、ロッコールの報告を意外と冷静に受け止めた。


「ラウスの娘の予知は的中したということですね。」


 スタンはロッコールの言葉に頷くと、ゆっくりと立ち上がり王城の窓からビヨンド港を見つめた。


「で、彼らは 5日も早く到着したことをどう弁明しているのかな?」


「はい、もういい加減な言い分で、魔動船のテストを兼ねて出港したところ、想像以上に早くついてしまったとのことです。」


「ふむ、こちらの間者の話では、あの船がオーマ国を出港したのが昨日の朝、普通の帆船では5日もかかるところを一日で到達するとは、魔動船とは大したものだ、示威行動としては凄い効果だな。」


「はい、それで彼らは予定より早く来てしまって申し訳ないので、通商交渉の準備が出来るまで船にとどまるが、先に王に謁見して今回の非礼を詫びたいと申しています。」


「成る程、通商交渉の準備が出来るまで、あの船を係留して示威行動をしようと言うのか?それとも勇者のパフォーマンスでも見せてくれるのかな?」


「陛下、その様な冗談を言っている場合ではございません。」


「まあ、今更慌てても仕方がない。ラウスの娘の予知ではこ今日から二日以内に何かとてつもないことが起こると言っているのだろう。ゼント君の対策前に来られてしまったんだ、腹をくくるしかないだろう。」

「彼らの謁見を受け入れると伝えよ!」


 ロッコールは今にも卒倒しそうに青ざめていたが王の命に従い執務室を後にした。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 黒船がビヨンド港に入港して生きた頃、ケイラ商会でゼント達は朝食をとろうとしていた。


 ガチャン!


 「な、何!この魔力・・・・!」


 ヴェルスはホットミルクが入ったカップを床に落として割ってしまったのだ。

 

 顔は青ざめ、がくがくと震えている。 


「ふ————つ!」


 ミュウは獣化して毛を逆立てて戦闘態勢に入っていた。


「これは、洒落にならん魔力だなあ。」


 ゼントも思わず木刀を構えており、肩にとまっているブルーも戦闘態勢になった。


『一般人ニハ感知出来ナイヨウ、上手ク隠蔽サレテイマス。主達ノヨウニ優レタ魔力感知能力があれ感知可能デスガ、コノ隠蔽術デハ全容ヲ感知スルコトハ困難デス。』


「ふむ、おそらく軽く魔王を超えとるじゃろうて。これがオーマ国の勇者の魔力かい?」


 ゼンは落ち着いているようだが、村雨の束に手をかけている。


「勇者と言うことは勇人の魔力か? 彼奴はこんな化物じみた魔力を持っているの?」


「おそらく転移した場所を高濃度のE魔素で充満させたのでしょう。オーマ国が勇者を召喚する時によく使う方法です。」

「多量のE魔素を転移時に吸収したのでE魔素を保有できる上限がとんでもない値になっているのだと思います。」


「俺が高空に転移して大量のC魔素を吸収したのと同じといことか?」


「そうです。あ、この魔力は彼だけでのものではありません。彼の傍にも凄い魔力の塊があります。あれはおそらく彼のオリハルコン持っているオリハルコンの剣だと思います。」


 ヴェルスは少し落ち着きを取り戻して、この異常な魔力の源をスキャンしたのだ。


「オリハルコンの剣にそんな魔力を溜め込むなんて、どんだけの魔剣士を倒したんだ?」


「ふむ、確かに凄い魔力だのう、おそらくガメちゃんを越えとるな。」


 ゼント達が皆緊張しているのに対してリーは意外と飄々としていた。流石に1000年も生きていると少々のことには動じないようである。


「気になるなら皆で行ってみればよい。儂が留守番しとくよ。」


「それなら、リー頼むよ。・・っと、その前にちゃんと飯を食わないと。」


「ああ、そうじゃ。腹が減っては戦はできないと言うからのう。」


 ゼントとゼンは急に落ち着きを取り戻し朝食の焼鮭を再び食べ始めた。この二人にとっては勇者よりも食事の方が優先するのだ。


 ヴェルスは割ってしまったカップの後片付けをした後、シェリーに港に出かけることを連絡してきた。


「さあ、準備は出来たから港に行こうか。ムーブで一気に行ってしまおう。」


 そう言ってゼントがムーブを使おうとすると、ゼンが制止した。


「まてい!そんなことをしたら彼奴らにこちらの戦力を教えているようなもんじゃぞ!」


「えっ?なんで?」


「そんな事も分からんのかい!お前は当たり前の様にムーブを使っておるが、ムーブが使えるのはSランククラスの魔法使いじゃぞ。ムーブを感知できる奴がいれば、いや、間違いなくおるはずじゃから、Sランクの魔法使いが様子を見に来たと大声で言っているようなもんじゃ。」


「あ、ああそういうことか。」


「そうじゃ、まあ、いきなり事を起こすとは無いじゃろうから、歩いていくぞ。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ゼント達が港に来ると、港は黒船見たさの野次馬でごった返していた。


「くそ、全く見えないぞ!」


 ゼント達が野次馬達の後ろで右往左往していると、上の方から声が聞こえた。


「ゼンさん、こっちこっち!」


 声の方を見ると、建物の上で漁師のゲンが手を振っていた。


「ゲンよ、なんでそんなところにおるんじゃ?」


 ゲンがいるのは漁業協同組合の建物の屋上だった。


「俺は漁業協同組合の会長やってるんですよ!おいらが許可出しますから皆で上がってきてください。ここからなら良く見えますよ!」


 ゲンの言葉に甘えてゼント達は漁業協同組合の屋上に上がって行った。


「あの黒いのがオーマ国の船かい?」


「ああ、そうだ。今朝漁をしていたら近くを凄い勢いで通るもんだから、大波が来て危うくおぼれ死ぬ所だったんんすよ。本当にとんでもない船ですぜ!」


 ゲンは忌々しそうに黒船の方を見た。


「あの船、マストが一本も無いんじゃない?」


 ミュウが黒船を指さして不思議そうに言った。

 この世界の一般的な船は帆船なので帆を張るマストがついているはずなのだが、この船には無いのだ。


「確かに、マストも無ければ煙突や排気口も無いじゃないか!どうやって動くんだ?」


 ゼントは蒸気機関やディーゼルエンジンがついているのではないかと思ったのだが、それに必要な煙突や排気口も無いのだ。


「あれは魔動船です。魔石の魔力を推進力に使用しているので帆は必要ないのです。」


「魔道車とおなじってことか。」


 ヴェルスの説明にゼントが頷いた。


「やっぱりあれが魔動船だったんか。噂には聴いていたが見るのは初めてだぜ!」


 ゲンが興奮気味に声を上げた。


「お、城からの使いが来たようじゃな。」


 港に数台の豪奢な馬車が入ってきて黒船に近い桟橋の所に近づいていった。

 それに呼応するように、黒船からはゆっくりと動き始め、桟橋に接岸接岸させ、階段を桟橋に降ろしてきた。

 桟橋の前まで来ると馬車は停止し、中から数人の男たちが出てきて黒船の方に歩いていった。


 黒船からは数名の護衛の騎士らしき人達が降りた後、外交官と思われる男、次に美しい衣装を纏ったいかにも高貴な女性が降りてきた。


「あれは、きっとオーマ国の第2王女だと思われます。」


 ヴェルスの説明にゼンが首を傾げた。


「ふむ、王女を連れてきたということはオーマ国としてはこの外交交渉に相当力を入れているということじゃが、王女のいるところで事をおこすとは考えにくいのう。」


「でも、サリーは予知してるんだろう?」


 ゼントは王女がいることに疑問に思いながらもサリーの予知を信じていた。


「まあ、そうじゃがな。お、勇者のお出ましじゃ!」


 王女に続いて剛剣を背中に刺した剣士が船から降りてきた。


「ま、間違いない。勇人だ。」


 ゼントは小さく呟くように言い放った。


 黒船から降りてきた人たちが馬車に乗り込むと馬車は白に向かって移動を始めた。


 ゼントが食い入るように馬車を見ていると急に念話の声が聞こえた。


(ゼントか!? 良かった生きていたんだ!)


(お、お前は勇人だよな?)


(ああ、そうだ。俺は勇者ユートだ!)


(お前、自分から勇者って言って恥ずかしくないのか?中二病か?)


(本物の勇者だからな、恥ずかしがる必要なんてないさ。俺は異世界転移で理想の職を手に入れたんだ!ああ、お前を巻き込んだしまったことは申し訳なく思っている。でも、そうやって元気にしているってことは、お前もそれなりのチート能力を手に入れたんだろう?)


(まあ、冒険者として生きていくくらいにはね。)


(冒険者か?うまくやっていけてるのか?)


(まあ、ぼちぼちやっているよ。それよりお前はここに何しに来たんだ?)


(俺は王女の護衛だよ。こんな魔族と組んでいるような国に来るんだ、勇者の護衛が必要だろう。)


(魔族?お前何を言っているんだ?この国は魔族となんて組んでないぞ!)


(ふん、冒険者風情に何が分かる。忠告しておく!お前はこの国を離れた方がいい!俺のいるオーマ国んて最高だぞ!俺が口をきいてやろうか?どうせお前は異世界人なんだからこの国に未練があるわけじゃあないだろう?)


(そんなことは無い!俺はこの国の人達に色々お世話になって来たんだ!)


(そうか、俺は忠告したからな!)


(おい、勇人!まて!)


 その後、勇人からの返事はなかった。

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