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不穏

 リチャードが深酒をした翌日、のケイラ商会。


 ゼントはシェリーと一緒にケイラ工房に出かけようとしていた。


「あれ、今日はリチャードさん、休みですか?」


 いつも出掛けに声をかけてくるリチャードがいないのでゼントは思わずシェリーに聞いたのだ。


「ええ、今朝リチャードから体長が悪いので休むって電話で連絡がありました。彼が体調を崩すなんてとても珍しい事なんですよ。」


「へーそうなんだ、酒でも飲みすぎたんじゃないの?」


「彼はかなりお酒に強いって聞いてますけどね。」


「じゃあ、食べすぎたんじゃないの?」


 ミュウが会話に割って入って来た。


「流石に、ミュウとは違うだろう。」


「ゼント、我を何だと思ってるんだ!」


「いや、はははは。」


 笑ってごまかすゼントであった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ゼント達が工房に入って行くとゲンジが嬉しそうに奥から出てきた。


「ゼントさん、こんにちは。依頼の品は出来てますよ。」


 ゼントはゲンジに挨拶をするとゲンジと共に工房の奥に入って行った。


「これでどうですか?」


 ゲンジが指さした机の上には綺麗にメッキされた皿状の物がいくつか置かれていた。

 皿は銀色をしたものと金色をしたものが2種類、それぞれオーラ工房製の看板の色に合わせてあった。


「すっごく綺麗に出来てますね。」


「そうだろう!」


 ゲンジは凄く嬉しそうにンメッキされた金属の皿を一つ手に取ってゼントに渡して説明を始めた。


「ゼントさんが作った銅板は変形させない方が良いとおっしゃっていたので、圧入ではなく、にかわで張り付けてあります。」


「凄い!しっかりくっ付いている。」


「こいつをケイラ工房が作ったという看板に張り付けるのにもにかわを使うのですが、それには特製のこのにかわを使います。」


 ゲンジはそう言うと赤い色をした液体が入ったお椀を棚から取り出して液体に刷毛を突っ込んで持ち上げた。赤い色の液体は粘度が高く、刷毛にべっとりと付いてきた。


「この赤いにかわには魔石の粉末が練りこんであるんですよ。」


 ゲンジはそう言うとその辺の小さい鉄板を手に取ると赤いにかわを塗りつけてから別の鉄板にくっ付けた。


「このままだと直ぐにはがれちまうんですが、軽く魔力を込めるとあっという間に引っ付くんです。」


 ゲンジがそう言うと鉄板と鉄板の間にあるにかわが一瞬輝いた。


「さあ、これでよし。どうですか?」


 ゼントは二つの鉄板をゲンジから受け取ると引きはがそうと力を入れてみた。


「んぐ!がっ・・・・。」


「本当だ!瞬間接着剤みたいだ!」


「そうでしょう、これならゼントさんの要望にピッタリでしょう!」


 もう、ゲンジのどや顔が止まらなかった。


「それじゃあ、後はこれをミュウのお父さん達に手伝ってもらって看板にくっ付けるだけだね。お父さん達っていつ来るんだっけ?」


「とーちゃんは明後日来る予定だよ。」


 ゲンジを信じていなかったわけでは無いが、金属製の皿が期日に間に合わない可能性もあるので無理に早く来てもらうようには言っていなかったのだ。それでもオーマ国の大使が来るのが、一週間後なので十分余裕を見た予定だった。


「それじゃあこの皿を転送装置の看板にくっつけるのは三日後の晩にしよう。」


「そう言う事ならゼントさん、今晩は飲みにでも行かないか?美味い日本酒が飲める店があるんですよ。」


 ゼントは二つ返事でゲンジの提案に賛成し、二人はその店の料理の話をし始めてしまった。


 二人の話が盛り上がった頃、一台の馬車がケイラ工房の前に急停止した。

 馬車の中から出てきたのはサリーで、大急ぎで工房の中に駆けこんできた。


「姉さん!、ゼントさん!」


 サリーは息を切らしながらも話始めた。


「オーマ国の大使が明日来るんだ!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 時は二日ほど遡り、オーマ国王城内勇者専用訓練場。


 訓練場は半球形をしており、壁や天井、床にまで四角い穴が多数開いていた。


 訓練場の中央にはオーマ国の勇者ユートが立っていた。


 ユートが目を瞑ると、無音で周囲の穴から複数のダガ―が飛び出しユートに襲いかかってきた。


 ユートが横っ飛びで避けるとダガ―は進行方向を変え、再びユートに向かってくる。


 ユートはオリハルコンの剣を抜くと一振りで無数の光の刃を出し、一瞬で追尾してきた全てのダガ―を撃ち落とすと、今度は宙にジャンプした。

 一瞬、ユートがジャンプした場所の床や頭上から複数のダガ―が飛び出し、ユートに襲いかかるが、ユートはオリハルコンの剣で全てのダガ―を弾き返して床に着地した。


「お見事ですユート殿、少しよろしいですか?」


「はい、何でしょうか?」


 ユートは椅子に掛けてあるタオルを取り汗を拭きながら、毒々しい紫色の液体の入ったコップを手に取りべリスの前まで歩いてきた。


「ゴード国に行く際の護衛の件ですが、急な話で申し訳ありませんが、明日になりました。」


「そうですか、僕は構いませんが、何で急に早まったのですか?」


「どうもゴード国内の軍隊の動きが活発になってきているようで、良からぬことを画策しているのではないかと間者から連絡がありました。本当に困った国ですよ。」


 べリスはわざとらしくため息をついてみせた。


「そうですか、奴らが準備を整える前に意表を突いて訪問しようということですね。」


「まあ、そんなところです。」


「じゃあ俺は部屋に戻って荷物をまとめます。」


 ユートはそう言うと毒々しい紫色の液体を一気に飲み干し、訓練場から出て行くと別の通路から第二王女のセリナが訓練室に入って来た。


「あれ、ユートさんはどちらですか?」


 べリスはセリナに臣下の礼をしてから話始めた。


「セリナ王女様、ユート殿の訓練の見学に来られたのですか?ユート殿でしたら明日のゴード国訪問の準備で部屋に戻られましたよ。」


「え?訪問が早まったのですか?」


「はい、その事についてですが宰相のリッチー様がセリナ様に話があると言っておられました。お会いになっていませんか?」


「私は所用で少し外出していて出先から戻ってきたところです。リッチーは今執務室ですか?」


「はい、今の時間でしたら執務室にいらっしゃると思います。」


「そう、それなら私から伺います。」


 セリナはそう言うと訓練場から出ていった。


 一人訓練場に残ったべリスはただニヤニヤと笑っていた。

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