RE:RE:リバイアサン
醤油工場を後にしたゼント達はシェリー達と同じ馬車に乗ってケイラ商会に向かうことにした。
「一緒の馬車で行ってもリチャードさんに怪しまれませんか?」
ゼントが心配そうにシェリーを見るとシェリーは心配無用と言う顔で答えた。
「大丈夫、というより一緒の方が良いのです。リチャードにはゼントさん達と醤油工場に行くと言って外出してきたのですから。まあ、それもサリーの予知能力があったからできたんですねどね。」
「そうだ、ゼントさん醤油工場に行った証として亜空間から醤油を一本出しておいてくださいね。」
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「ただいま戻りました。」「ただいまー。」
シェリーとサリーを先頭にケイラ商会に入って行くとリチャードが店の奥から出てきてサリーたちを出迎えた。
「お嬢様、おかえりなさいませ。」
リチャードはシェリー達に対して軽く頭を下げた後、ゼントがルンルン気分で醤油の一升瓶を持って店に入って来たのを見て、何であんな臭いものを・・・と顔をしかめて呟いていた。
シェリーはゼント達を父ラウスの書斎まで連れて行くと、部屋に居たラウスは立ち上がり、ゼント達に深々と頭を下げた。。
「白銀の翼の方々ですね、先日は私と下の娘の命を助けていただき、さらには父と上の娘の命まで助けていただいたとか、本当に何とお礼をしてよいかわかりません。」
「あ、お礼はもういただきましたら。」
ゼントは満面の笑みで醤油の一升瓶をラウスの前に突き出した。
「いや、それだけでは。」と言うラウスに対してゼントは「これで十分です。」と、暫らく押し問答が続いたが、結局ゼント達が王都にいる間にラウス達の護衛代金を割り増しするという話で落ち着いたのだ。
ゼント達はウイリアムから王都にいる間はケイラ商会の護衛をすることについて許可を貰っていた。王都一の商会の主だったものたちが立て続けに襲われたことについて王宮は看過できないと判断したのだ。
「護衛の話を受けてくれて本当にありがとう。」
ラウスはゼントの右手を両手で掴んでお礼をしていた。
「ゼントさん達にお願いがあるのですが、我が家に住み込みで護衛をしていただけませんか?」
「そうよね、モンスターなんかが現れたら家に居ても安全じゃないもの。」
シェリーの言葉に、サリーも賛同した。
「んー、どうしようかな、既に宿には1週間の予約を入れているんでね。」
「そうだ、緑の牧亭のおばちゃんに悪いよ~。」
シェリーは二人の顔を見てから話し出した。
「宿の代金はケイラ商会で立替えしますし、こちらにお泊りになってもプライベートは保証しますので、問題ありませんよ。」
ゼントはシェリーの言葉に一瞬ドキッとした。それというのもミュウは単純にアマンダに悪いと思っているのだが、ゼントはここで夜の営みをやるのは流石にまずいと思っていたのだ。
「それなら問題ないかな。アマンダおばちゃんの料理は食べに行けばいいよね。」
ゼントはミュウの答えにかくかくと頷いていた。
「それじゃあ、誰かが出かける時は二人護衛について、残りの二人が店に残るということにしようか?」
「まあ、それが無難じゃろうな。」
「ええ、そうしていただけると助かります。」
ゼント達の護衛が決まったことでシェリー上機嫌だった。
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「暇だなー!」
「そうだなー!」
「そうですね。」
「そうじゃな―!」
「キャウ―!」(うん、暇!)
『暇デスネー!』
ゼント達はケイラ商会の護衛を買って出たのだが、外出しない時は特にやることも無く暇なのである。
「コネクト周囲の状況はどう?」
『周囲ニ不審者ハ見ラレマセン。』
「儂は、お客に混ざって武器でも見てくるぞい。」
ゼンはそう言うと部屋を出ていった。
ゼントは相変わらず暇そうにソファーでだらけているといきなり頭に声が響いた。
『主ーっ!こいつれどうするかのう?』
「なっ、リバイアサンか!?」
ゼントは驚いてソファーからずり落ちてしまった。
『そうじゃー、儂じゃー!』
「っ・・・、こいつって、どいつだ?」
ゼントはソファーからずり落ちた時にしこたま打った頭を押さえていた。
「儂の目の前におる人間どもの事じゃー。」
「ちょっと待て、すぐにリモートするから!」
ゼントがリモートでリバイアサンの視覚に変わると、目の前のボコボコに殴られた数人の男が倒れていた。
「こ、これお前がやったのか?」
『ああ、そうじゃ。儂が人に化けて主の所まで行こうとしていたら、こいつらが『一緒にお茶飲まないか?』って絡んできたんじゃ。
今時『お茶飲まないか?』なんて誘うやついるか?死語だろう?まあ、ここは世界が違ったか。ゼントはリモートしながらぶつぶつと呟いていた。
「それで、お茶飲まないかくらいで何でこいつ等はこんなボコボコになってるの?」
『我はこ奴らを無視してこの道に入ってきたら、奴らがニヤニヤしながら我の尻を触ったり胸を触ろうとしたからじゃ。』
「ここって、裏路地じゃないか!」
リバイアサン(ゼントリモート中)は辺りを見て呆れていた。
「おまえ、見た目が若い女性なんだから、こんな所に入ってきたら襲われても仕方ないじゃないか。」
『でもこの道が主の所に行くのに一番近道じゃったんじゃー。』
リバイアサン(ゼントリモート中)が頭を押さえていると、少し離れた所が騒がしくなってきた。
「あの路地ですよ、保安官の兄ちゃん、あそこで兄貴たちがボコボコに・・・。」
「どうせ、お前らが路地に引き込んでいたずらしようとしたんだろう?お前嘘だったらしょっ引くからな!」
どうやらこいつ等の仲間が保安官を連れてきたようだ。
「やば、どうする。このままだと逮捕されるぞ!」
『主、後は任せたぞい!』
「あ、こらリバイアサン逃げるな!」
リバイアサンは意識を閉じて逃げてしまったのだ。
「んーっとどうするか。
バイアサン(ゼントリモート中)が悩んでいる間に声がどんどん近くなってくるのだ。
「・・・・・つ、よし、証拠隠滅!」
「保安官、あの女だぞ!」
気が付いたら保安官は既にリバイアサン(ゼントリモート中)のすぐそばまで来ていたのだ。
「えーっとお嬢さん、ちょっと話を聞かせてくれないか?」
証拠隠滅に夢中だったリバイアサン(ゼントリモート中)は保安官の声に驚いて素っ頓狂な声を上がた。
「は、は——い、何でしょうか?」
リバイアサン(ゼントリモート中)が笑顔で振り向くと、保安官は言葉を失ってしまった。そう、リバイアサンは人間に化ける時ヴェルスを参考にしていたので凄い美人なのだ。
「・・・・・。」
「御用が無ければおれ・・私は失礼しますね。ほほほほ。」
リバイアサン(ゼントリモート中)がとぼけて立ち去ろうとすると、我に返った保安官が口を開いた。
「あ、ああ、少し待ってくれ。この男の仲間が貴方にボコボコにされたって訴えてきたんだが・・・・。」
「そ、そうだ!この女が兄貴たちをボコボコにしたんだ。」
リバイアサンがボコボコにした男たちの子分らしき男をゼントは思わずガン見してしまった。な、なんだこのアニメから出てきたみたいな男は。逆三角形の細長い顔についたデカい鉤鼻、その鼻の下に付いた横に細長いちょび髭、とても実在の人間とは思えない・・・。
「おい、黙ってないで何とか言え!」
男の声に我に返ったリバイアサン(ゼントリモート中)は大げさに辺りを見渡しながら答えた。
「なんですか?ボコボコって?何処にボコボコされた男がいるんですの?」
「ほ、ほれ、そこにおるがな!」
男が指さした方には先程リバイアサンがボコボコに男たちがいびきを立てて眠っていた。
「この男たちの事を言っているのですか?」
「そうだ・・・あれ?え?何で?何がどうなったの?怪我の一つもないぞ??」
そう、リバイアサン(ゼントリモート中)は証拠隠滅のためエクストラヒールで男たちの怪我を直していたのだ。それにも関わらずリバイアサン(ゼントリモート中)はしれっと言った。
「この男達、酒でも飲みすぎたんですかね?私に絡んできたと思ったら急に寝ちゃったんですよ。」
「なんだ、そうだったんですか。呼び止めてしまってすみません。」
「ほら、お前やっぱり嘘じゃあないか! ちょっと詰め所まで来てもらおうか。」
保安官は男の襟首を掴見上げ、連れて行こうとした。」
「それでは、私は失礼しますね。」
リバイアサン(ゼントリモート中)軽く頭を下げてその場を立ち去ろうとすると。
「あ、ちょっと待って。」
リバイアサン(ゼントリモート中)がドキッとして振り向くと、保安官が頬を赤く染めて少しもじもじしながら話し出した。
「あの、今度良かったら食事でも行かないですか?私は港の保安官詰め所で働いていますので、近くまで来たら顔を出していただけませんか?」
「えーっと、考えておきますわ。ほほほ。」
リバイアサン(ゼントリモート中)は引きつった笑顔で答えていた。
リバイアサン(ゼントリモート中)がケイラ商会に向かって坂を上って行くと、リンゴが一個足元に転がってきた。
なんだ?と思って拾うと、今度は数十個のリンゴがどさっと転げ落ちてきた。
「おゎ——————!」
リバイアサン(ゼントリモート中)は咄嗟に瞬速を使い全てのリンゴ落ちていくのを止め、ひとまとめにしたのだ。
「ふぅ——っ、何とかなったな。」
リバイアサン(ゼントリモート中)は坂の上を見ると荷車が横転しており、少女が慌てて荷車を元に戻そうとしていた。
あれか?リバイアサン(ゼントリモート中)は落ちていくのを止めたリンゴをまずは数個持って少女の所に歩いていった。
「はい、これ。」
リバイアサン(ゼントリモート中)は少女が立て直した荷車に持ってきたリンゴを入れてあげると少女は驚いてリバイアサン(ゼントリモート中)を見たが、リンゴが転がり落ちるのを拾ってくれたことが分かり大げさに頭を下げてお礼を言ってきた。その後リバイアサン(ゼントリモート中)は少女と一緒に荷車をリンゴがまとめておいてあるところに押していき、全て荷車にもどしてやった。幸いリンゴにはほとんど傷がついていなかったようだ。
「ほ、本当にありがとうございます!」
少女は再び大げさに頭を下げてお礼をしてきた。
「そうだ、落ちてしまったもので申し訳ないのですが、これを持っていってください。」
少女は数個のリンゴを手に取り、紙袋に入れてリバイアサンに差し出した。
「まあ、気にしなくていいよ。」
「でも、それでは私の気がすみません。」
「えーっとそれじゃあ、一個だけ貰っておくよ。」
リバイアサン(ゼントリモート中)はリンゴを一つ受け取り、その場を立ち去ろうとすると。
「待ってください!」
少女は急に大きな声でリバイアサン(ゼントリモート中)を呼び止めた。
「何?」
「も、もしや貴方様は昨日ビヨンド橋を守ってくれた女神様では?」
「へっ?」
リバイアサン(ゼントリモート中)は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして少女の方を振り向いた。
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「あれ、ゼントさんはまた変な癖の最中ですか?」
ゼント達の控室に入って来たシェリーが白めを向いてソファーでぐったりしているゼントのほっぺを指でつんつんしていた。
「そうですね、もう30分ぐらいこんな感じですよ。」
まったりとしながら紅茶を飲んでいるヴェルスが返答していた。
「これから仕入れ先に出かけるつもりなんですが、ヴェルスさんとミュウさん同行してもらえますか?」
「はい、分かり・・・。」
ヴェルスが返事をしている最中に部屋の中にリバイアサン(ゼントリモート中)部屋の中にムーブで転移して来た。
「は、はぁはぁ・・・・凄いことになったな・・・。」
リバイアサン(ゼントリモート中)は中腰で両手を膝にあてて息を切らしていた。
「ゼントさん、どうしたんですか?」
ヴェルスが突然転移して来たヴェルスによく似た女性をゼントと呼ぶのを見てシェリーは何を言ってるのか分からず困惑していた。
「昨日ヴェルスがビヨンド橋をリバイアサンから守っていたじゃないか。」
「ええ、そうですけど。」
「それで、その様子を見た人達が聖女だ、女神だって騒いでいるんだよ。」
「そ、そうなんですか・・・・でもそれで何でゼントさんが息を切らしているのですか?」
ヴェルスはきょとんとしながらリバイアサン(ゼントリモート中)を見ていた。
「リバイアサンの『人モード』ってヴェルスに似ているだろう、それで俺を見た人たちが聖女だ、女神だって言いながら、店の商品を持ってきて『これを持っていってください』とか『店に寄って行かないか。』とか、言ってくるんだ。走って逃げようとしたんだけど大勢の人に囲まれて、にっちもさっちもいかなくなったんで転移して逃げてきたんだ。」
「そ、そんな・・・。」
ヴェルスはゼントの話を聞いて顔面蒼白になっていた。
「そんな・・・・・・・・・私・・・・私そんなに目が吊り上がっていませ——————ん!!!」
え?突っ込むのそこ? ゼントもシェリーも目が点になり、ブルーが突っ込むように『カー』と鳴いていた。
「ごほん、お取込み中すみませんが、ちょっとよろしいでしょうか?」
「「は、はい何でしょうか?」」
似たような姿形をしたヴェルスとリバイアサン(ゼントリモート中)がシェリーの方を向くと。
「あなた、ゼントさんですよね?」
ヴェルスにそっくりなリバイアサン(ゼントリモート中)をまっすぐに見据えながらシエリーは質問した。
「は、はい。」
「とても言いにくいのですが・・・・ゼントさんって、そう言う趣味があったんですか?」
「「へっ???」」
リバイアサン(ゼントリモート中)とヴェルスは思わず顔を見合わせてしまった。
そう、シェリーはゼントが好んでヴェルスみたいな格好をしているものと思っていたのだ。