Re:リバイアサン
銅板を加工し終わったゼント達はシェリーらとケイラ工房の休憩室でお茶を飲みながら一息ついていた。ゲンジは工房の方でプレス型の準備に忙しく動き回っていた。
「いや、この日本茶は美味しいな!」
「ゼンさんに気に入っていただき嬉しいですわ。」
シェリーが嬉しそうに、ゼンの飲み終わった茶飲にお茶を注いだ。
「オナシティにいる頃は記憶に頼って日本茶のようなものを作ってみていたけど、これは本物じゃな!」
この世界にも茶ノ木はあるが、育て方や製法によって当然ではあるが味が変わるのだ。TVで見たお茶の作り方を思い出しながら作っていたゼンでは、残念ながら美味しいお茶を作れなかったのだ。
「ええ、前世がお茶職人方が丹精込めて茶ノ木から育てて作ったお茶ですから。」
「やっぱり、ゼンさんも異世界転生者だったんですね。」
「ああ、そうじゃシェリーさん、あんたもじゃろ。」
「私は微妙に違うんですね・・・これはここだけの話ですが、私は異世界転生者の曾祖母の転生なんですよ。」
「ほう、そいつはなかなか珍しいのう。」
「本当にここだけの話にしてくださいね、父母に知られると親子関係が面倒になりますので。」
「まあ、そりゃあそうじゃろうな。色々と教わった祖母が今は娘だなんてさぞやりにくかろうな。」
「ええ、絶対に言わないでくださいね!」
「まあ、言ったからといって儂のメリットには何もならんからいうことは無いわい。」
「そう言えば転生者と言えば、そこにいるミュウも転生者じゃぞ。」
「ミュウさんもそうなんですか!それは気が付きませんでした。」
「我か?そうだ、元はゼンやゼントと一緒に暮らしていた猫だったぞ。」
「そうですか・・・・ん?ゼンさんとゼントさんは一緒に暮らしていたのですか?」
「そうじゃ、ゼントは儂の孫じゃよ。」
「えーっと、少しまとめさせてください。一緒に暮らしていたゼントさんが異世界転移者で、そのゼントさんがゼンさんの前世の孫で、ミュウさんが飼い猫で前世で一緒に暮らしていたということですね?」
「そうじゃよ。」「そうだ。」
「す、凄い巡り合わせですね。」
シェリーはゼン達の奇跡的な関係に呆れていた。そもそも異世界転生や召喚などほとんどないのに、同じ家族がここに揃っているというのだ。
「もしかしてヴェルスさんも転生者ですか?」
シェリーはお茶菓子の羊羹を食べているヴェルスの方を見て尋ねた。
「私ですか?私は転生者ではありませんよ。私は元「いやあヴェルスは違うよ、はっはっはっはっ!」」
元女神だなどと言いそうになっていたのでゼントが急に会話に割って入ったのだ。
『元女神だなんて言ったら駄目じゃあないか。』
『ご、ごめんなさい。』
念話で誤っているのにヴェルスはてへぺろしている。おいおい、とゼントは念話で突っ込みを入れていた。
「そういえば、ゲンジさんも転生者なんですね。」
ゼントは誤魔化そうと話題を変えたのだ。
「まあ、転移者であるゼントさんにあんなことを言えばお分かりになりますよね。その通り、彼は転生者です。それに私が雇っている人たちは元お茶農家の方を含めて転生者は全部で23人います。知り合いまで合わせれば50人近くおりますね。」
「それは凄いですね。よくそんなに会うことが出来ましたね。」
「ええ、これは曾祖母の代から始めたことで、前世の記憶を持っている人はそのことを皆隠そうとするんですけど、やっぱりあちらの世界の知識を生かしたくなるのでしょうね、こちらの世界では物珍しい事を始める方がいるんです。曾祖母は記憶からこちらの世界には無く、あちらの世界にあった食べ物や道具等を売っている人を見つけると、巧みに話しかけて相手が転生者であること確信を持つと、今度は自分も転生者であることをカミングアウトするんですね。そうやって曾祖母は転生仲間を増やしていきました。公にはなっていませんが『転生者の会』何て言うのも出来ているくらいなんです。」
「そうなんですか、ところでシェリーさんの曾祖母はなんで転生者を探していたんですか?やはり同士に会いたかったんかな?」
「それもありますけど、曾祖母はあちらの世界の技術をこちらに生かすことで住み良い世界を作りたかったんですね。それは今の私も同じです。」
ゼント達がそんな話をしていると、急にゼントに聞きたくない念話が届いた。
『あるじー!いま良いかー!』
『どうせ良いって言わなくても話すつもりだろ!』
『そうじゃー、今ガメちゃんと会ってるんじゃが、ちょっと力を貸してくれんか?』
『・・・・そのガメちゃんにもコントローラが埋まっているのか?』
『そうじゃよ!』
『はぁー、まあ仕方ない、乗りかかった船だから行ってやるよ。』
『頼むー!』
ゼントは如何にも嫌そうに話始めた。
「ばあちゃん、またリバイアサンの所にいってくるわ。」
「今度はガメちゃんつう奴か?」
「ああ、そうだ。」
「ゼントさん、気をつけてくださいね。」
ヴェルスが心配そうにゼントを見た。
「ああ、じゃあ行ってくるよ。」
そう言うと、ゼントはまるで糸が切れた操り人形の様にぷつっと動かなくなりソファーの上に横になった。
「え、ゼントさん、どうしたんですか?リバイアサンってゼントさんが追い払ったのではないのですか?」
「ゼント兄ちゃん、大丈夫!」
シェリーとサリーはゼントが急に動かなくなったのを見て、心配してゼントの所に駆け寄ったが、周りの皆は全く心配する気配が無く、呑気にお茶を飲んでいるのだ。
「み、皆さん。ゼントさんが急に倒れたのに何でそんなに平気でいられるのですか?」
「ああ、それは一種の癖みたいなもんだから放っておけば元に戻るから心配せんでも大丈夫じゃよ。」
「「そ、そうなんですか?」」
癖と言われても、こんな癖、あちら世界でも見たことないけど。シェリーはそう思いながらも皆が余りにも心配しないのでタオルケットをゼントにかけてやり様子を見ることにした。
ゼントが意識を失ってから10分程すると。
ぱぁ——————!
ゼントが急に輝きだしたのだ。
「い、一体何が起きたんですか!?」「ゼント兄ちゃん大丈夫。」
シェリー達は驚いて固まっていた。
「ふむ、この間のとはちと違うのう。」
ヴェルスがゼントに近寄り額に手をあてた。
「これはリモートされている向こう側から魔力が流れ込んでいるようです。」
ゼントの発光がさらに強くなると、ゼントの両肩付近にそれぞれ違う模様がひとつづつ浮き上がり、それが服の上から吸い込まれるようにゼントの肩に消えて行くと発光が止まった。
パッとゼントは目を開くと上半身を起こし頭を抱えて一声を上げた。
「うーん、しくじったか。」
「何じゃい、コントローラを壊すのを失敗したのか?」
「いや、壊すのもガメちゃんを蘇生させるのも成功したんだけれど・・・・。」
「なんじゃいそれならよかろう。」
「いや、非常にまずいことになったんだ。」
「何があったんじゃ?」
ゼントの絶望的な顔に皆が不安になっていた。
「あいつら、俺が油断しているうちに強制的に従魔になりやがったんだ!」
「「「「「へっ??」」」」」