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ケイラ工房

「影! 私はラウスを呼んで来いと言ったのだぞ!」


 宰相ロッコールの前にはニコニコと満面の笑みを浮かべている姉妹と腰を90°近くまでまげて平謝りしている影がいた。

 今部屋にいる重鎮は宰相だけで国王や騎士団長はゼントらと今後の対応いついて話し合った後に席を外していた。


「申し訳ありません。私がラウス殿と話している所にら・・・・いえ、ラウス殿がメッキの話ならシェリー嬢が適任だと推奨していただきましたので連れてまいりました。」


 ロッコールは娘達を見ると、諦めたように話始めた。


「ラウス家の秘蔵っ子と言われている娘達か・・・・まあ、良かろう。ゼント君、彼女たちに説明してくれたまえ。」


「「セントさん、よろしくお願い致します!!」」


「は、はい。」


 ゼントは二人の勢いに気圧されながらも、転移装置の妨害方法を説明した。


「成る程、銅板を成形したものの上にメッキした鉄板を接着するんですね。これだと薄い鉄板をプレスでお椀状に成形してその中に銅板を軽く圧入した方が良いですね。銅板の形はただの〇で良いのですか?」


 シェリーのてきぱきとした対応と金属加工の知識に驚きながらもゼントはこのやり取りを楽しんでいた。


「ただの〇でも転移を妨害だけならできるんだけど、ちょっと細工をしたいんだ。」


「正確な形をかいていただけますか?」


「ちょっとここでは難しいので実物の銅板で作りたいんだけど。」


「いきなり銅板を成形するんですか?」


「ああ、そのつもりだよ。」


 シェリーは不思議そうな顔をしながらもゼントの要望を了承した。


「それなら、この後私の工房に来たいただけませんか?」


「ああ、良いけど、鉄板の成形とメッキはどのくらいで出来るんですか?」


「いつまでに必要ですか?」


「彼らが行動を起こすのは正確には分からないんだけど・・・。」


 ゼントが答えに困っているとサリーが急に会話に入って来た。


「奴らが行動を起こすのは再来週の水曜の朝よ。」


「そう、それなら1週間で仕上げないと、プレスは試作型でやりましょう。」


「待ちなさい、何で彼らの行動を知ってるんだ!影、お前が話したのか!?」


 ロッコールは、2週間後の月曜にオーマ国からの通商交渉のため大使がやってくることはまだ王宮でも一部の人間しか知らないはずなのにサリーからこの日付が出たことに驚いたのだ。


「いえ、私はその様な情報は出しておりません。」


「その黒いおじさんは何も言ってないよ。これは私の予知能力でから、気にしないで。」


 気にしないでって言っても・・・何でそんな能力持ってるんだ!とでも言いたげにロッコールは分かったと言ってため息を吐いた。


「それじゃあ、ゼントさん、これから私の工房に参りましょう。」


「私も行く。これからの日程を国王に報告せねばならんからな。」


「でも、その恰好ですと・・・リチャードに悟られる可能性がありますね。」


 ロッコールを上から下まで貴族然とした格好をしているので、工房の出入りをした場合余りにも目立つのだ。


「ロッコール宰相、申し訳ありませんが、平民服に着替えていただけませんか?」


「いや、今すぐには平民服は準備できんぞ。」

 

 ロッコールは困惑してシェリーを見た。


「そうすると俺もまずいな。」


「そうですね。私も屋敷に戻らないと。」


 ウイリアムとリーナもお互い見合って残念そうな顔をしていた。


「しょうがない、影、彼らについていって経過を報告しなさい。」


「御意!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ゼント達は、ロッコールやウイリアム達と分かれて王宮の馬車乗り場に来ていた。


「さあ、こちらの馬車にお乗りください。」


 ゼント達の前には馬車が2台準備されていた。


「あれ、これに乗って行けばロッコールさんも目立たなかったんじゃないですか?」


「あ、そうですね。馬車を1台増やしたのを忘れていました。まあ、影さんがいらっしゃるから問題はないでしょう。」


 シェリーはゼントの疑問に白々しく答えていた。本当は宰相などと言う貴族のお偉いさんを一緒に連れて行きたくなかったし、少しでも邪魔者を減らしたかったのだ。


 ゼント達は馬車に乗り王宮の通用門を出ると、王宮の壁沿いに走ると、王宮の北側からさらに北に向かいケイラ工房に到着した。


「私がこの工房長の『ターナカ・ゲンジ』です。」


 30歳ぐらいの碧眼で茶髪を短く切った男がゼントに握手を求めてきた。


「俺はゼント・タナミです。」


 ゼントが握手をし、パーティの全員が自己紹介を済ますと、ターナカはゼントに言った。


「私の事は『ゲンジ』って呼んでください。」


「はい、『ゲンジさん』ですね。」


 ゼントが何も違和感なく、ターナカの提案を受け入れると、何故かターナカの目がキラリと輝き仰々しそうに言い放った。


「ゼントさん、貴方は異世界転移者ですね!」


 え!?ゼントは驚いて少し後ずさりをするが、ゲンジ続けた。


「そう、貴方は異世界転移者であり、出身は日本で間違いありませんね!」


 何で分かったんだ!そんな顔をしているゼントの疑問に答えるように男は話続けた。


「そう、この世界ではセカンドネームで呼んでくれと言うのは異質なことで、普通の人あは『何だこいつは。』という目で見るに貴方は違和感なく受け入れた。そう、ゲンジが私のファーストネームだと感じ取っていたのです。」


「は、はぁ・・・。」


 ゼントは初めは驚いたが、今は少々呆れながらゲンジの話を聞いていた。


「セカンドネームが前に来るというのは日本の特徴であり、この国では珍しい黒髪に黒目と正に身体的特徴も正に日本人そのものですからね。」


 ターナカは完全にどや顔になっていた。


「えーっとそれでゲンジさんは、日本人の異世界転生者ということですね?」


「な、何故それを・・・。」


 今度はゲンジは目を丸くしながら後ずさりをした。


 いや、外観がこの国の人間で、そこまで日本を知っているなら分かるわ・・・。ゼントはこいつは面倒奴だと思って呆れていた。


「はいはい、お二人共日本の話は後にしてください。ゲンジさん銅板を準備してください。」


 シェリーが呆れたような顔でゲンジを見て指示を出した。


「あ、はい、お嬢様、何ミリ厚ですか?」


「ゼントさん、どのくらいがご入用ですか?」


「えーっと2ミリ位の銅板ってありますか?」


「2ミリなら在庫がありますよ、直ぐに持ってきます。」


 ゲンジは工房の奥に入ると1m四方の銅板を抱えて戻って作業台の上に鉄板を置いた。


「これでいいかい?」


「このままだと作業台を傷付けてしまうので、下に傷がついても良い板を敷いてもらえませんか?」


 いや、何だお前ここで加工しようってのか?そう言いながらもゲンジは厚めの板を持ってきて銅板の下に置いてくれた。


「それじゃあ、始めます。」


 ゼントは銅板を上から突き刺すように木刀を構えると銅板の10cmぐらい上に切っ先を立てて目を瞑り集中した。

 木刀の先端が少し輝きだしたかと思うと一瞬で辺りが白く見えなくなるほどの輝きを放った!


「よし、上手くいった!」


「いや、上手くいったって!お前何を・・・・これは?」


 ゲンジはゼントが何をしたのか全く分からなかったが、木刀の切っ先の下の銅板に何やら模様が刻まれている事に気が付いたのだ。


「ちょっと待てよ。」


 ゲンジは銅板の端を少し上げて模様の下に隙間を作ると、模様の部分を指でデコピンをしてみた。


 スルッ カラン カラン バラバラ。


 1m四方の銅板から円形の部分が抜け落ち、それに刻まれていた細かい模様の部分が綺麗に抜け落ちていったのだ。


 ゲンジは血相を変えて工具箱からノギスに似たものを取り出すと円形の銅板の外径を測りだすと驚愕の声を上げた。


「こ、こいつは!綺麗な円になってる!0.1mmのずれも無いぞ!それにこの模様!まるでフライス盤で精密加工したみたいに綺麗にくり抜かれている!」


 実際ゼントは0.0001mmの精度で切り抜いたのだが、残念ながら彼の測器では0.1mmが限界だったのだ。それでも彼を驚愕するには十分の結果だった。

 この精度はコネクトによるガイドとゼントの魔力制御の賜物のであった。ゼントはソウリの森で彷徨っていた時、少しの魔力で最大限の効果が得られる様にトライアンドエラーを繰り返してこの能力を手に入れたのだ。


「ゲ、ゲンジさん、念のため確認しますが、これを複製することはできますか?」


 シェリーは無理とは思いながらもゲンジに聞いてみた。


「無理!無理!無理!無理!無理!無理!無理————!!」


 ゲンジはまるで北〇神拳の様に叫び続けながらも何度も首を振り続けた。


「それじゃあ、銅板の加工は全部俺がやりますね。」


「た、頼む!」


 ゲンジが涙目になりながらゼントに頭を下げた。


 それからゼントは銅板の加工を始めた。最初は一枚づつくりぬいていったのだが、後半では面倒くさくなったのか4枚一度にくり抜いてゲンジを驚かしていた。

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