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姉妹②

 話はサリー達がケイラ商会の戻ってきた頃に遡る。


「お姉様!ただいま!」


「おかえりなさい、お父様、サリー!」


 シェリーは抱き着いてきたサリーの頭を優しく撫でてやった。


「ね、ね、お姉様聞いて!」


「なんですかサリー、そんなに興奮して。」


「私ね、運命の人にあったのかもしれないの!」


「本当!良かったわね!」


 シェリーは満面の笑みを浮かべるサリーに微笑みを返した。


「ね、ね聞いて!姉様、その人の名前は———、『ゼント』さんって言うの!」


「え?・・・・・ゼントさん?」

  

 シェリーは急に真顔でサリーに質問を始めた。


「そ、それって黒目黒髪、中肉中背で見ていると何かホットするような、癒される様な感じの人?」


「癒されるかどうかは知らないけど、黒目黒髪、中肉中背って所は当たってるわ。」


 サリーは真剣な顔で聞いてくるシェリーを不思議そうに見つめた。


「それで貴方はその人と何処で知り合ったの?」


「王都に戻る途中の平原よ、野盗に襲われていたのを助けてくれたの!彼ってすごいの!Aランク冒険者がかなわなかった野盗達を目にも止まらぬ速さで退治してしまったの!それに一緒に居たお姉さんも綺麗で凄かったの!エクストラヒールを無詠唱よ、無詠唱!!」


「ねえサリー、もしかしてその二人が所属している冒険社パーティって『白銀の翼』って言わない?」


「え?何で姉さんなんで知ってるの?姉さんにも予知の能力があるの?」


「ええ、良く知ってるわ、私とお父さんもその『ゼントさん』に助けられたのですから。」


「なに?助けれたって?何があったの?」


 今度はサリーが真剣な顔でシェリーを見つめていた。


「あれは一昨日の晩のこと、お爺様とニッティグリッティ商店に行った帰りでした。日が沈み辺りが薄暗くなった頃、突然デーモンオークが出現したのです!」


「デ、デーモンオーク・・・お姉ちゃん良く生きてたね・・・。」


「ええ、護衛の冒険者達が全て殺されてしまい、私もお爺様も恐怖で身動き取れない状態でした。」


「そんな時、颯爽とあの人『ゼントさん』が現れたのです。ゼントさんは右手を失ってまでも私達を守ってくださり、転移してギルドまで私達を逃がしてくれたのです。」


「え!ゼントさん右手失っちゃったの!?」


 サリーは驚いてシェリーの両肩を強く押さえてゆすっていた。


「ええ、でもお連れの方のエクストラヒールで右手は復活されていました。」


「よ、良かった。そようよね、あの女神みたいな人がいるんですもの。」


 サリーはホットした表情を見せたが、直ぐにハッとしシェリーに質問した。


「そうだ、デーモンオークはどうなったの!」


「もちろん、ゼントさんが倒してくれたわ、残念ながら私はその場にはいなかったけれど。ゼントさんの活躍をこの目で見たかったわ。」


「そう、姉さんの運命の人もゼントさん何だ。」


「ええ、そうよ。サリーはゼントさんを独占したいの?」


「そんな事思っていないわ。それにゼントさんには女神みたいな彼女がいるし。」


「それってヴェルスさんのことね。あなたは知らないかもしれませんが、ゼントさんはハーレムパーティを組んでらっしゃるんですよ。」


「ハーレムパーティ?」


「あら、知らないの?男一人に女性が数人で組んだパーティの事よ。今王都で結構はやっているのよ。」


「まだ、他にもライバルがいるって事?」


「ええ、猫耳が可愛い、獣人特有の凄い運動能力のミュウさん、それに銀髪の美しいエルフの剣聖のゼンさんよ。」


「3人もライバルがいるんだ!」


「そう、でもそれは考え方しだいよ!ライバルなんて考えないで、あの人たちと家族になると思えばよいのよ。あんな素晴らしい人達と家族になるんですよ!(注1)」


 注1:既にゼントを射止めた気になっている。


「そうね、私もヴェルスさんと家族になれたらと思っていたのよ。でも、あの人達は皆凄い能力スキルを持っているのでしょう。私達があの人達の中で上手くやっていけるのかしら?(注2)私達普通の女の子でしょう?」


 注2:既に家族になったつもりでいる。


「それは大丈夫よ!ゼントさん達は冒険者として見ると突出した能力を持っているけど、経済観念が余りないの。命を助けくれたのにお礼はいらない何て言うのよ。」


「そうね、私達を助けてくれた時もお礼は要らないって言ってたわ。」


「そう、ゼントさん達の足りない経済観念を私たちが補ってあげるのよ。」


「そ、そうよね、お姉ちゃん!私達なら、出来るわ!」


「そう、ゼントさん達が怪我とかして冒険者稼業が出来なくなっても私達ケイラ商会がゼントさん達を養ってあげられるのよ!(注3)」


 注3:完全に家族になったつもりいる。


「やったね!お姉ちゃん!」


「ゼントさん達には王都での護衛依頼をしたので、その返事で明日にはこちらに来て下さる予定なのよ、そこで将来の話をしましょ!(注4)」


 注4:もう完全に家族になったつもりいる。


「あ、でもお姉ちゃん、ちょっと耳を貸して。」


「何、なんの話?」


   ・・・・・


「え?本当なの? 貴方の予知って時間までは分からなかったんじゃあないの?」


「ええ、今まではね!でもゼントさんに会ってから絶好調なの!もう何でも予知できそうなくらいね!」


「そう、それじゃあ明日、お父さんの執務室でね!」


「うん、分かった!」


 満面の笑みを浮かべながら各自の部屋に戻っていく二人を不安そうに見つめる父ラウスがそこにいた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 時は変わって翌日のラウスの執務室。


 溜まった書類に目を通していたラウスは誰もいない執務室でいきなり声を上げた。


「何の御用ですか?」

 

「流石ですね、私がいることに気が付くなんて。黙って侵入して申し訳ありません。」


 ラウスの前に全身黒ずくめの男が突然現れ、頭を下げた。

 

「まあ、何度かお会いしているので分かりますよ。貴方が来られたということは急ぎの用事が出来たということですね。」


「お察しが良いですね。」


「それじゃあ、大番頭のリチャードを交えて話を伺いましょう。」


「いえ、それはお待ちください。彼には気が付かれないよう。この部屋には防音と忌避の結界を張っています。今は誰もここには入ってこれません。」


「彼はケイラ商会の大番頭だぞ、長年我が家に務めてくれている彼を忌避するとはどういうことだ!」


 ラウスは不機嫌そうに男を睨んだ。


 男はラウスの怒りを気にすることなく無表情に淡々と説明を始めた。


「あのお方にはオーラ商会いえ、オーマ国の間者の疑いが持たれています。」


「な、なんだと!」


 一瞬でラウスの顔色が変わった、彼が間者なら・・・・。ラウスの胸によぎるものがあった。確かにメッキの技術を含めて、ケイラ商会の機密事項が何度かオーラ商会に漏れているのだ。今まで『リチャード』に命令してさんざん調べたが間者を特定できなかったのだ。


「わ、分かった。このまま話を聞こう。そこに座ってくれ。」


 ラウスに言われて男が椅子に座ろうとした時。


「「お父様お待ちください、私達にもそのお方の話を聞かせてください!」」


 執務室のドアを開けて娘二人が乱入してきたのだ。


「えぁー?」


 素っ頓狂な声を上げたのはなんと黒装束の男だった。ラウスの睨みに全く動じることなく淡々と話をしていた男が目を真ん丸にしてシェリー達を見ていた。


「いや、その、あれ?おれ、結界はったたはずじゃあ??」

 

 男は誰も入れない様に部屋の周りに張った結界がまるで無かったかのようにドアを開けけて入って来た姉妹に驚いていたのだ。


「こら、お前たちノックもせずに入ってくるなんてお客様に失礼じゃあないか。」


「いや、そう言う問題ではなくて・・・。」


 王家の裏の仕事を取り仕切っている影の存在である男は、普段より己を律しておりちょっとやそっとの事で動じることは無いのだ。ところが、己の最高スキルを使って展開した結界がその筋のプロフェッショナルに破られたのならともかく、その辺にいそうな女の子達にいとも簡単に破られてしまった事に我を見失ってしまっていた。


「ああ、分かった。二人共直ぐにドアを閉めて中に入りなさい。」


「「はーい!」」


 二人がドアを閉めて中に入いり男に挨拶をすると、男は少し落ち着きを取り戻して二人に話しかけた。


「何であなた方は私の結界を通り抜けることが出来たんですか?」


「お父様、話してもよろしいですか?」


 シェリーは父ケイラの方をちらっと見て了解を求めた。


「うむ、仕方ない説明してあげなさい。」


「私の唯一のスキルなんですが、領域破壊者フィールドブレーカーというレアスキルなんです。このスキルは、ありとあらゆる結界やシールドを無効にしてしまうので、私には何もなかったものになってしまうのですよ。」


「そ、そうですか、レアスキルですか。」


 男は、レアスキルなら仕方ないかと思ったが、何故私がここでラウスに話をしていることが察知されたのか、その理由が理解できなかった。結界が効かないにしても外に聞こえるような声で話をしていないのだ。


「ま、まあ結界が破られた件は分かりました、レアスキルなら仕方ないですね。それでもなぜ私がいるということが分かったのですか?」


「それは、私の能力未来予知でこの時間にここに来れば『ゼントさんに早く会える事』を予知したんです!」


 サリーがどや顔で無い胸を張っていた。


 『 ゼントさんに早く会える事』・・・『 ゼントさんに早く会える事』・・・・『 ゼントさんに早く会える事』・・・・・男の頭の中にはサリーの言ったこの言葉が木霊し続けていた。


「ゼント・・・ああ、確かにあの若者の名前はゼントだった・・・・あの若者に早く会う事・・・たったそのことのために・・・・私の隠密行動が・・・・。」


 男は10歳の頃、結界のスキルを買われて王家召し抱えられた。それから苦節20年、男は絶え間ない自己研鑽により結界のスキルを最高レベルまで鍛え上げたのだ。さらに男は影としての仕事に誇りを持ち、一度たりとも敵に察知されることなく影の仕事をこなしてきた・・・・そう今までは。そんな男のプライドはずたずたになっていた。彼の行動を察知する目的が『ゼントさんに早く会える事』・・・たったそれだけの目的のために彼が影の生命をかけて研ぎ澄ましてきた結界が、隠密行動が、いとも簡単に破られたのだ・・・それでも彼はプロだった。耐え難い現状を容認し、気を取り直して話始めた。


「わ、分かりました。お嬢様方にも話をしましょう。」


 それから彼は、リチャードの事、メッキの事を話し、王宮に至急来てもらうようラウスに依頼した。


「リチャードが間者ですか・・・やっぱり。以前より行動に不信な点がありましたので妥当な所でしょう。」


「へーやっぱりそうなんだ。彼を見てるとなんか嫌な事が起こりそうな感じがあったのよね。」


「証拠が無いのでお父様には黙っていましたが、メッキの技術が漏洩した辺りから彼を疑っていました。それで出来る限り彼には重要なことを話したり頼んだりしないようにしていました。」


 いや、お前ら知ってたんなら言ってよー!ラウスは心の中で叫んでいた。


「それとメッキのことならお父様より私が王宮に言った方が話が早いです。あの事業を立ち上げたのは私ですから。」


「ふむ、確かにそうだな。よしシェリーお前が王宮に行って話を聞いて来てくれ。」


 頷くシェリーを見てサリーは焦って父に懇願した。


「お父様!私の未来予知もきっと役に立つはずです、是非私も王宮に行かせてください。」

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