王宮
宿でウイリアムさんに転移装置等の事を報告した次の日の朝、ゼント達は王宮の前に来ていた。
「いや、本当にデカいな。」
ゼントは城壁を見上げて思わず声を上げた。
城壁は石積みで高さは30mくらいあり、城壁の上に見張りの騎士らしき人影が歩いているのが見える。城壁の上には所々に見張り台があり、そこには騎士が常駐しているようだ。デーモンオークやリバイアサンが出現したためか、見張りの騎士たちは頻繁に見張り台との間を往復している。
「よう、またせたな。」「おはようございます、ゼントさん。」
ウイリアムとリーナが馬車から降りてきた。
今日は二人共昨日のラフな姿ではなく、貴族然とした服装をしていて、ウイリアムは黒に金の縁取りがされた上着を羽織っており、リーナは青いロングドレスを着ていた。
うん、リーナさん青いドレスが似合ってるな。ゼントが鼻の下を長くしているとヴェルスに背中を小突かれ、何故かブルーもゼントの頭を突いてきた。
いや、何するよ、もう!
「今日は会うのは宰相と騎士団長それとカール教授だ。まあ、気さくな人たちばかりだから余り緊張しなくていいぞ。」
いや、緊張なんてしてないですよ。ゼントはそう言いながらも右手と右足を同時に前に出しながらウイリアムらの馬車と一緒に城門の右側にある通用門から城内に入って行った。
通用門を抜けると右側にゆっくりと曲がる轍のついた石畳の道があり、城と城壁を繋ぐ通路の下のアーチ状のトンネルを抜けるとそこは馬車置き場になっていた。貴族達の馬車が所狭しと駐車されており、御者達の詰め所もある。
馬車置き場を過ぎて少し行くと屋根がある場所があり、貴族達はそこで馬車から降りており、まるで大きなホテルの様な感じだ。
ウイリアム達が馬車から降りるとゼント達は衛兵によるチェックを受けてから城内に入って行った。長い廊下を歩いていくと、ある部屋の前でウイリアム達は止まり、ノックして中の返事を待ってからドアを開けた。
「よう、ウイリアム!時間どうりだな。」
部屋の中の一人の男性がその場所に似合わない異様な気さくさでウイリアムに声をかけてきた。
「時間を守るのが私のモットーですから、ロッコール宰相。」
ウイリアムはロッコール宰相を見ながらにやりとし、リーナは両手でドレスの端をツ枚淑女の礼をしていた。
一方、余りの気さくさに呆気に取られていたゼント達は宰相という言葉を聞いて急いで礼を取っていた。
「ああ君達が白銀の翼か、そんな固くならなくてもいいから、頭を上げてくれ。」
「私がこの国の宰相を務めているロッコール・アポタイズで、こっちが騎士団長のキエフ・ライツだ。」
「キエフ・ライツだ、宜しく。」
「自分は白銀の翼のゼント・タナミと言います。」
「我はミュウ・マオ!」
「私はヴェルス・ビーナと申します。」
「儂は・・・。」
何故かゼンだけが顔を上げずに下を向いていた。
「銀髪のエルフ・・・・まさか貴方様は!」
キエフの顔がゼンの顔を覗き込むように凝視していた。
「ああ、そうじゃよ、久しぶりだなロコールとキエフよ、大分出世した様じゃの。」
「「ゼン・タナミ様!」」
ゼンが顔をあげると二人共ゼンの方に駆け寄って行った。
なんだ、ばあちゃんと二人は知り合いなんだな・・・でも何でばあちゃん嫌そうなんだろう?ゼントは不思議そうに3人を見ていた。
「私は何て運が良いのでしょう。生きている内にゼン様に会えるなんて。」
「ああ、ゼン様まさかこの場でお会いできるとは。貴方様に鍛えていただいた若かりし頃を思い出します。お美しいお姿、変わりありませんね。」
ふーん、キエフさん騎士だからばあちゃんに鍛えられたのか。
「あの頃は妻がいるにも関わらず、貴方の美しさと華麗な剣捌きに、心がきめいてしまっていましたよ。」
ロッコールさん、それはまずいでしょう・・・。しかし、ばあちゃんモテモテだったんだな。
「えーい、お前らそんな話をしている場合じゃあないじゃろー!」
「「は、はい申し訳ありませんでした!」」
ばあちゃんの一喝にデレデレ顔の二人が背筋を正していた。
「すまない、少し昔を思い出したもので。皆さん座ってください。」
「ところで、カール教授はどうしたんだ?」
「ああ、遅れるから先に話を進めてよいとのことだ。」
全員が席に着いた後、ゼントは昨日ウイリアムに話したことをロッコール達に説明し始めた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「「SSクラスのモンスターが61匹だと!!」」
「我々、騎士団全てを動員しても1,2匹倒せれば御の字だというのに・・・。」
「君達白銀の翼でも数匹がやっとだろう。君達がこの国にいてくれたことが不幸中の幸いだが・・・それでも王都が壊滅するのを防ぎようがない!」
「最近のオーマ国の動きが怪しいという情報を密偵から掴んでいたが、これ程とは・・・・・。」
ロッコールとキエフは二人共頭を抱えて絶望的な顔をしていた。
「非常に申し上げにくいのですが、ゴード国に企みはおそらくこれだけではありません。」
ゼントの言葉に二人共無言でゼントの方に向き直った。
ゼントがリバイアサンの話をすると二人はさらに絶望的な顔をしてやっとの事言葉を絞り出していた。
「・・海のSSいやSSSに近いモンスターまで操っていたというのか・・・・。」
「あいつ等は我が国を壊滅させようというのか・・・・。」
絶望から二人共完全に黙り込んでしまった・・・。
「まあ、ゼント君達が絶望的な顔をしていないんだから、何か策はあるんでしょうね?」
「カール教授。」
カール教授は飄々としながら部屋に入ってくると空いている椅子に座った。
「ゼント君、聞かせてもらっていいかな?」
「ええ、まずはリバイアサンの方ですが、コントローラと言うモンスターを操る魔具を破壊したので、もう脅威ではありません。それに・・・。」
ゼントは言葉を詰まらせた後話を続けた。
「それに、リバイアサンは今は俺の従魔になっていて今は別のSSクラスモンスターがコントローラに操られていないか確認してくれています。既にケンちゃんというSSランクモンスターのコントローラを壊す事に成功しています。」
「「「・・・・・・・。」」」
3人は目を見開き、口をあんぐりと開けたまま凝固していた。
「い、いやゼント君は規格外だとは知っていたが、リバイアサンを従魔にしてしまうとは・・・。」
「いや、まあ勝手に彼奴が従魔になったんですが・・・。」
「ところで『ケンちゃん』って何なんだね?」
「すみません、リバイアサンがそう呼んでたので、『ケンちゃん』は『クラーケン』ですよ。」
「ク、クラーケン・・・またSSSに近いモンスターか・・・ま、まあそいつもコントローラと言うのを破壊したんだね?」
「ええ、そうです。次はリバイアサンには『ガメちゃん』という友達がコンローラを取り付けられていないか確認してもらっています。」
「あ、ああSSランクモンスターの友達の輪と言ったところか・・・。」
ゼントはカール教授と反応の違いに違和感を感じていた。いつもならこんなことでも飄々としているはずなのだ。
「それじゃあ、次は転移装置対策について話をします。」
「なんだって、転移装置の対策まで考えてあるのか!」
いや、カール教授、なんか喋り方全く違うよ。
(見タ目ハ似テイマスガ、年齢ハカナリ若ク、別人デス。)
やっぱそうね。どうしようか?
(悪意ハ感ジラレマセンノデ、コノママ話テモ問題ナイトオモワレマス。)
それからゼントは転移装置の対策方法についてカール教授の様な人に説明をした。
「ほう、そんな対策方法があるのか。」
このカール教授もどき、完全に素で話をしてるな。
「ええ、メッキをする技術が必要ですが、それさえあれば奴らが事を起こした時に防ぐことが可能です。」
「それなら、ケイラ商会にやってもらえばよいだろう。ケイラ商会の店主を呼んできてくれ。」
「は、はい閣下!」
ん?今返事をしたの宰相のロッコールさんだよね?このおっさんその上の人?
「あ、ケイラ商会はこの後行く予定なんですが・・・。」
「なに、ケイラ商会なら大丈夫ですよ。直ぐに私の配下の者を使いに出します。」
「えーっと、それじゃあ出来れば大番頭のリチャード・ケスさんはパスしてください。」
「どういうことですか?」
ロッコール宰相がゼントの方を不思議そうに見ていた。
「確信は無いのですが、あの人は転送装置の事を知っているみたいなんです。」
「「「「何だと!」」」
「ええ、自分がケイラ商会に言った時にメイドの娘がデーモンオークが出現した時の状況を話そうとしたのを2度もじゃまされたのが引っかかってるんですよ。」
「ほう、それは重要なことだったのか?」
「ええ、転送装置が複数の看板から構成されているという事実のヒントになる重要なことでした。」
「よし、それじゃあ内密に店主を呼んでこよう。」
ロッコール宰相が指を鳴らすと、背後に影の様な人が突然出現し、宰相の話を聞くと忽然と消えて行った。
い、今のって忍者か?
「それじゃあ、ラウスが来るまで今回の一連の事件について君達の意見を聞かせてくれないか?」
「その前にじゃ、まだカールのふりをするつもりかえ?」
ばあちゃんがカール教授の様な人を睨みつけた。
「・・・・まあ、ゼンさんには適いませんな。ばれていましたか。」
「ああ、儂もそうじゃがそこのゼントも分かっておるぞ。」
「え?」
驚いたようんな顔してるけど、あれでカール教授のふりをしていたつもりなの?
「ええ、話ぶりから別人だと分かっていました。」
「そうか、わしもまだまだだな。騙すようなことをして済まなかった。私はスタン・フォン・ゴード、この国の国王をしている。君達が萎縮しないよう、カール教授のふりをしていたのだがね。叔父上の様に動じないのは難しいな。」
スタン国王は、髭とメガネとカツラを外して名乗りを上げた。
いや、これって探偵物とかでないか?と思わず突っ込みを入れたくなるのをゼントは堪えた・・・・と、とりあえず臣下の礼ってやつやらんと。
ゼント、ミュウ、ヴェルスは慌てて臣下の礼を始めた。
「ああ、こうなるのが嫌だったのでね。まあ、リラックスして椅子に座ってくれたまえ。」
ゼント達は再び椅子に座り話を始めた。
「私達の意見で良いのですね?」
「ああ、屈託のない意見を聞きたい。」
「まず、デーモンオークを出現させたのは、ケイラ商会の大旦那と娘のシェリーを暗殺するためだと思いますが、それで秘密裡に準備していた転送装置が明るみになっては元も子も無いですよね。」
「ああ、それはそうだな。」
「彼奴らには絶対に分からないという自信があったのでしょう。デーモンオークなら転移後に彼らを瞬殺するのは容易いことです。それで直ぐに転移させて戻してしまえば何が起こったのか全く分からないでしょうね。」
「そうか、確実に暗殺出来る方法を選んだということか!」
「そうじゃ、こいつがあれを倒さなければ何が出現したかも分からなかったじゃろうな。」
ゼンがゼントの頭を軽く小突くとゼントが鬱陶しそうにゼンの拳を払った。
「ばあちゃん、もう!」
「それから、ライバイアサンの出現じゃがな。リバイアサンを出現させることで、デーモンオークが出現したことから注意を逸らそうとしたと考えるのが妥当な所じゃな。ビヨンド橋を破壊することで兵力を分断するというおまけ付きでじゃな。あの橋が破壊されれば嫌でもそちらの注意が向くからのう。それでスタンビートの前触れではないかと思わせてしまえばめっけものという所じゃな。」
「まあ、それも徒労に終わったがのう。」
「成る程そういう考えもあるのか。」
「ところでスタン、この後奴らはどう出てくると思うかのう?少なくともデーモンオークを多数出現させるだけでこの国を滅ぼせるんじゃぞ。」
ばあちゃん、国王呼び捨てにしてるよ!顔見知りなんだよね?昔な何があったんだ?
「そこが難しいところだな。オーマ国は勇者を召喚し、軍備力なら我が国を超えておるからな。ただ、奴らが欲しいのはこの国の経済力だから壊滅的な状況にはしたくないだろう・・・彼らが我が王都にオーラ商会を興したのもオーマ国に資金を送るためだからな。」
やっぱオーラ商会ってオーマ国絡んでたんだ。ゴード国もちゃんと諜報活動してるね。
「それじゃあ、彼らはどうするつもりじゃ?」
スタン国王は少しの沈黙の後にゆっくりと口を開いた。
「まず彼らはこの国で人為的なスタンビートを起すのは間違いないな・・・。」
「それから、彼らの力、そう勇者によってそれを鎮めることによって我らに恩を売り、よしんば我が国を属国にしようと考えるのが妥当だな。」
いや、それって勇人は奴らに良いように使われているだけじゃね?
「2週間後に我が国との通商に関する交渉に彼らの使節団が来る予定だ。その時に決行するつもりだろう。」
「2週間後!もうほとんど時間がないじゃあないですか!偽装部品は間に合うかな。」
「それを何とかしてくれるのがケイラ商会だろう。」
スタンはにやりと笑って見せた。 いや、だから御上って怖いんだよね・・・ケイラ商会頑張って。ゼントは心の中でケイラ商会を応援した。