ケイラ姉妹
【サリー・ケイラ】
「お父さん、やっと王都に着きましたね。」
「ああ、もう直ぐ店だ。」
私の名はサリー・ケイラ10才、私はケイラ商会を営んでいるラウス・ケイラの次女として生まれました。
私は生まれながらない二つの『特殊能力』を持っていました。一つは『未来予知』でもう一つが『強運』。何故スキルと言わずに『特殊能力』かといいますと私には魔力が全く無いのです。魔力が無いのにそんな事が出来る筈が無いという人は多いかもしれませんが、私を含めて、私の家族は皆その事実を目の当たりにしているので、信じるしかないという状態なのです。
ここでもう少し私の特殊能力についてお話しますと、未来予知とはいっても、完全に予知できるわけではありません。何となくというレベルで、100%を当てることが出来ないのです。また、強運といっても何となく良い方向に向かうというだけで、賭け事などで100%勝つという事もありません。それでもこの能力は商売をやるうえでこの上ない力となることから、お爺様やお父様からの期待が大きく、私には少々重荷になっております・・・・。
その日、私は父と一緒に赴いた隣の領の支店からの帰り道でした。隣の領といっても馬車で片道2日はかかるので結構な距離になります。
今回は私の予知では野盗に襲われる可能性が高いことが分かっていたため、お父さんに頼んで『青嵐』というAランク冒険者のパーティを雇ったのです。当然強運の方も働くはずなので安心しきっていたのです・・・・ところが。
乗合馬車がぬかるみに嵌まって困っている所を護衛の人達が助けようとした時、馬車と繁みの中から突然盗賊達が現れ、護衛の人達に襲い掛かってきたのです。
乗合馬車は盗賊達が偽装したものだったのです。Aランクの冒険者パーティとは言え、不意を突かれたため抵抗する間も無く次々に盗賊によって倒されていきました。
盗賊は冒険者パーティの人達を倒すと今度は私に刃を向けてきました。私の特殊能力『強運』も運命には贖えなかったかと、その時は死を覚悟したのです。
ところが、私に刃が届くことは無く、私に切り付けてきた盗賊は目に見えない”何か”に吹き飛ばされたのでした。それから他の盗賊達も目に見えない何者かに、次々に倒されていくのです。私には一体何が起きたのか分かりませんでした。まさか、私の『強運』が奇跡を起こしたの? いえ、『強運』スキルで奇跡など起きたことがありませんし、そんな事など考えられません!
本当にほんの一瞬で全ての盗賊が倒れると、そこに若い男の人が木刀を持って盗賊を見ながら立っていました。
この人が私を助けてくれたんだ!私は直ぐにそのことを悟り、男の人に声をかけようと起き上がろうとすると、女神の様に綺麗なお姉さんが突然目の前に現れ、私が立つのを手伝ってくれてました。そして、その男の人に行ったのです「ゼントさん、女の子は無事ですよ!」と。ところがその言葉を聞くと男の人はまるで糸が切れたように倒れてしまったのです。
女の人は倒れた男の人に駆け寄ると、男の人を抱き上げた後、着ていたケープを地面に敷いて男の人を寝かせていました。
その後、私は奇跡をもう一度目の当たりにすることになったのです。
女の人は倒れた人の前に立ち両手を広げると、何の詠唱も無く彼女の体が光輝き出し、それが倒れた冒険者たちを覆ったと思うとアッという間に全員の傷が塞がったのでした。
あの魔法はエクストラヒールに違いありません!それを無詠唱で大勢の人達に同時に使えるなんて!!王都の大賢者と言われる人でもできないのに!!?
私は女神様でも見ているような不思議な気持ちになっていました。
その後、父がお礼を受け取ってほしいと言っているのに、何とその女の人はお礼を断ったのでした。
その後、女神の様な女の人は倒れた男の人を心配して、急いで男の人と共に転移魔法で行ってしまいました。
あの男の方、とても強くて、黒い髪の毛もエキゾチックで、何より他の冒険者と違ってスマートな体形はとても格好良かったです。魔力を使い果たしてまで私を守ってくれたのですね、まるで勇者がお姫様を守る様に! 倒れて横になっているお姿に母性本能がすくすぐられて・・・、ももう我慢できません、ジュルルッ・・・・・あ、いえそんなはしたない、私はまだ10才ですよ、そんな事考えるわけないじゃあないですか。でも、別れ際にキスゲ————ット!
は、話を変えましょうね。あの美しい女性の魔法、とっても凄かったです。無詠唱であんな大魔法を使われるなんて・・・・魔法で金色に輝くお姿はまるで女神様のようでした。本当、憧れてしまいます。あんな美人で優しい方が私のお姉様だったら良いのですが・・・・あ、いえ今のお姉様が美人ではないとか、優しくないとか言っているわけではありませんよ、もちろん!
あの二人がもし、婚約してたりして、そこで私があのお方の2番目の妻になれば、そうすれば私はあのお姉様とも姉妹に・・・・なんか違うような?結婚していなかったら、愛人?それはちょっと、恋敵? それはもっと嫌だし・・・・家族!そう家族ですわ!私があの人たち家族になれたら何て素敵なんでしょう。
未来予知、確かにこの能力は少々重荷になっておりますが、今日ほどこの能力を嬉しく思ったことはありません。だってあのお兄様とお姉様に明日会えること予知してくれているのですから。
馬車が商会に到着すると、私は元気良く「ただいま!」と言いながら店の中に入って行き、大好きなシェリーお姉様に抱き着きました。
【シェリー・ケイラ】
私の名はシェリー・ケイラ、ケイラ商会の長女です。私の曾祖母が異世界からの転生者だと5才位の頃に聞いて、『転生なんて、そんなことは無い。』と全否定したことがありました。ところが、私が8才の時に階段から落ちて頭をしこたま打った時、5才の頃のあの発言が間違いであったことがわかりました。
事実、皆が言う通り私は曾祖母の生まれ変わりでした・・・・最初に脳裏に浮かんだのは死ぬ間際に見た若き日の祖母の泣き顔でした。
そもそも普通の5才の子供なら、転生を信じても全否定することなんて子供っぽくなかったので後から考えれば納得できる事でしたが・・・。
さらに、その時知ったのが曾祖母が異世界からの転生者であるということでした。彼女がこの世界でやってきた奇抜アイデアは異世界の知識だったのですね、大おばあ様ずるいです!・・・って私か?
ゴホン!まあ、大おばあ様は大おばあ様で、私はシェリー・ケイラで別人です。私がずるいわけではありません・・・・でも、折角ある知識を使わないというのは勿体ないですよね?と言うことで私は異世界の知識と大おばあ様の知識をフル活用しながらお父様のお仕事を手伝っています。
ちなみに私のやり方は大おばあ様とはちょっと違っています。大おばあ様は異世界で『商社』と言う大きな店で働いていた時の知識を役立てていましたが、その知識はケイラ商会という形で実現していますので、今更役に立つことはあまりありません。そこで私は”他の”異世界転生者や転移者の知識を使うことを思いつきました。
この世界ですが、異世界転移者は珍しいのですが、転生者は意外と多くいるのです。この事は大おばあ様の時に既に気が付いていたのですが、大おばあ様は商会を起こすことに忙しくて、そういった人達の知識を生かすことが出来なかったようなので、それだけがどうも心残りだったようでした。
でも、転生した今はラウスが・・・・ゴホン、お父様が商会を仕切ってらっしゃるので、私は自由に転生者を探し出すことが出来たのです。転生者を探し出すには、大おばあ様の生きていた時の生活習慣や食べ物の知識を使いました。そう、この世界にはないけど異世界にあった食材を探している人や、異世界にしか無かったはずの習慣をしている人たちを探しだすのです。それから転移者ですが、この国にはあまりいない黒目黒髪の人は転移者の可能生が高いのですが、流石にまだ会ったことがありませんでした。この世界、特にこの国の人達は金髪、銀髪は当たり前で赤や緑やはてはピンクまで様々な色をしているのですが、黒目、黒髪はこの国、いえ、この世界でも珍しいのです。
ちなみに私はピンクがかった銀髪をしているのですが、前世の記憶が蘇ってから、鏡を見るたびにとても恥ずかしく感じる様になったのです。というのも前世の記憶では”コスプレ”とかいって、黒髪の上にかつらをつけて架空の世界の人達の真似をするという行動で、余り一般的な方々はやっていなかったようなのです。最もそういうことを向うの異世界の方がやっているということは、もしかしたらこちらからの転生者がいるのかもしれませんね。
話はそれましたが、私は異世界からの転生者を探し出してその人達の持っている記憶から異世界の技術を聞きだし、この世界に再現するということをやっているのです。透明度の高いガラスやメッキなどが正にそれなのです!そうやってこの世界の生活を豊かにしていくのが私が大おばあ様だった時からのライフワークなのですね。
先程は転移者にはまだあったことが無いと申し上げましたが、どうも昨日デーモンオークの襲撃から助けたくださったゼントさんが転移者ではないかと私は睨んでいます。黒目、黒髪という特徴が正に転移者のそれでしたし、この世界に転移した者は転移時に異能を授かるという話があり、昨日は一人でデーモンオークを倒しているのですから、異能を持っているのに違いはありません。それに異世界の調味料である”醤油”を食べて懐かしがっていることからも九分九厘転移者と言ってよいでしょう。さらに一緒にいたゼンさんというエルフの女性ですが、この人も醤油を懐かしがっていましたね。異世界にはエルフはいないらしいので、この人は転生者の可能性が高いでしょう。この二人、どんな知識や技術を持っているのかとても興味があります・・・興味があると言えばゼントさんの黒目、黒髪でさっぱりした顔立ち、彼を見ていると本当に落ち着くんですよね!この世界は基本的には西欧諸国い近い顔立ちをしているので掘りが深くて濃いんですよ~、しかも髪の毛の色は何でもありなので、家族の顔を見ていても落ち着かないと感じる時があるくらいです・・・・・それに比べてゼントさんの顔、私にとっては癒しです・・・・うう、もう我慢できません、ジュルルッ!
す、すみません、はしたないことをしてしまいまして。ま、まあ慌てなくても護衛の依頼をしているので明日には返事をもらうことになっていますし、彼の今回の任務を依頼されたカール教授には了解を取っていますので、良い返事がもらえることでしょう。
あ、いまお父様の馬車が着きましたね。お迎えに参りましょう。
私が店の中ほどまで行くと、妹のサリーが嬉しそうに駆け込んできて私に抱き着きました。