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09.魔王様ひろっちゃいました

「……じ、時空屈折による斬撃の分身じゃとぉ‼︎ そ、そんなのもはや究極魔法アルティメットスペルの領域ではないか‼︎? そ、そ、そんなふざけた力の剣なんてこの世に一つしか……まさかお主‼︎?」


 何やら背後の少女が叫んでいるが耳に入らない。


 今僕の中にある感情は。


「……き、きもちいいいいぃ」


 それだけだ。


 巨大な剣でドラゴンの首を跳ね飛ばす爽快感……筆舌に尽くしがたいこの高揚感。

 これが姉ちゃんの言うロマンか。

 

 ごめん姉ちゃん。正直ロマン、甘く見ていた。


「お?」

 

ドラゴンが倒れると勇者の剣は役目が終わったと言うように輝きを消し、ただの鋼の剣へと戻る。


「お主……その力勇者の……」



「えほっ、ごほっ……おいおいおい、龍属性に特攻とかなんとか言ってたけれど、すげー威力だな」


「あぁフレン、無事だったんだ」


「えと、あのじゃな……」


「無事だったんだ? じゃねーよ! お前あのアイテム効かねえって分かってて俺に打たせただろ‼︎? 囮にしやがって鬼か!」


「囮にしたのはお互い様だろ? お前のおかげで僕は安全にドラゴン退治ができた、ウインウインの関係さ」


「おーい」


「ふざけんな何がウインウインだ、あと少しで俺ぁドラゴンに頭から丸かじりだったんだぞ‼︎? 俺が死んだらどうするつもりだったんだてめえー」


「……あの……のじゃ」


「その時は、親友を失った悔しさを胸に秘めてまた明日から頑張るつもりだったよ」


「こいつっ……お前のこと親友とか吹いたけれどあれ嘘だ。 やっぱお前なんか嫌いだ、このサイコパス勇者」


「それはよかった僕もだよクズ情報屋。 明日もよろしく」


「あぁ、こちらこそな」


 悪態を垂れながら握手を交わす。

 誰にも理解されないだろうが、そこには僕とフレンの奇妙な友情が……。


「おいお前らぁ‼︎ 何妾を無視して戯れあっておるのじゃあ‼︎ こっちむけぇ‼︎」


 ふと背後から声が響く。

 正直忘れていたがそこにはドラゴンに襲われていた少女が不機嫌そうに立っていた。


「あ、ごめん置いてけぼりにして。 怪我はない?」


「へ、あぁ、まぁお陰さまで……じゃなくて!! 貴様その剣、その力、勇者じゃな‼︎?」


「え? あぁまぁ……一応勇者だけど」


「やはりか……ぐぬぬ、よもや完成をしていたとは……となれば妾の取るべき行動は……」


 僕の返答に少女は考えこむようにぶつぶつと独り言を始める。


「怒ったかと思えば何独り言ぶつぶつ始めてんだよロリっ子。助けてもらっておいて礼の一つもないのかよ」


「フレン、見捨てようとか言ってたのに偉そうじゃない?」


「ばかっ‼︎? それは今言わなくてもいいだろうが、それに俺だって……」


「死ねええぇ!!」


「ってのわああああぁ‼︎?」


 会話の最中、少女は懐に隠し持っていたのか短刀を振り上げるとフレンに向かい斬りかかる。

 回避はしたが、その気迫と殺意は本物でありよほどご立腹のようだ。


「てめえコラ何しやがる‼︎」


「やっぱり見捨てようとしたの怒ってるんだよ。 ほら、早く謝ってフレン」


「なんで助けてやった俺が謝らなきゃならんのじゃ‼︎」


「フレンは見てただけだろ?」


「注意引いてやっただろ‼︎? 何さらっと俺の功績帳消しにしてんだてめえ‼︎」


「面倒臭い奴だなぁ、小さいことをネチネチと」


「よーしてめえら歯ぁ食いしばれ、お前ら二人に飛び蹴りかましてやる。女だろうとロリッ子だろうと男女平等主義者の俺は手加減なしで全力でぶちかますかんなオラ‼︎」

 

 騒ぎ立てるフレン。

しかし少女はそんな脅しに無言で片手をあげると。


「ほぉ? 随分と吠えるではないか、駄犬が」


―――――空気が凍った。


「‼︎?」


 全身に電流が走るかのような感覚と同時に、視界が揺らぐ。

思わず息を大きく吐き出すと、どろりと溶けた鉛が肺から這いずり出るような錯覚を覚える。


 強大な魔力の放出を受けた際に起きる体調不良……魔力酔いの症状。

 

 これ自体はしょっちゅう姉ちゃんの魔力を浴びている僕にとっては珍しいものではないのだが……だからこそ目前の少女がありえない存在であることをはっきりと理解させる。


 放出された魔力量は姉ちゃんと同等、いや……それ以上の魔力量だった。

 

「な、なんだよこのデタラメな魔力……」


「くははは‼︎ 妾を前にしてその遠吠え、勇敢さだけは褒めてやろう‼︎ だがこの魔王、マオリーシャ・シン・ウロボロスを前にしてその愚行は寿命を縮めたのみであることをここで教えてやろう」


 そういうと少女は、依然大量の魔力を放出したまま。


 短刀を構える。


「……ん?」


「ま、まままままま‼︎? 魔王おおおおおぉ‼︎??? う、嘘だろ!? だって今ドラゴンに襲われてたのに……いやまて、まさかそれさえも俺たちを嵌める罠だったのかよ‼︎」


「ふぇ‼︎? あ、えと……ふ、ふはははは‼︎ そ、そぉだ! 全ては我がたなごころの上! 勇者よ、この魔剣ラグナロクを前に、その短い生涯に幕を閉じよ‼︎ もしくは魔王の力に恐れをなして二度と命とか狙わないようにするがいいよ‼︎ ふふふ、ははははは‼︎さあいくぞ、そして知れ‼︎」


「くく、来るぞユウ、マジで来るぞあれ‼︎?」


「世界に、平和は、訪れないのじゃ‼︎」


 全力疾走でこちらに向かい短刀を振り上げる少女。


「わあああああぁ‼︎ き、きたああああ‼︎? 勇者様ああぁお助けええぇ‼︎?」


「たああああぁ‼︎」


 掛け声と共に少女は僕とフレンを同時に両断するぐらいの意気込みで一閃を振るうが。


 −―――ぽきん。


「おっと……」


勇者の剣にてその一撃を受け止めると、なんとも虚しい音がダンジョンに響いた。


「なっ、ぐっ……妾の愛刀の一撃を恐れずに容易に受け止めるとは……さすが勇者の剣‼︎我がラグナロクも喜びで咽び泣いて……ってあれー‼︎? 折れておる、折れておる何で‼︎?」


「いや……愛刀って言うけどそれ、装飾派手なペーパーナイフだし……そんなのを全力で回避するのフレンぐらいだよ」


 カラカラと音を立てて足元に転がってきた刀身を拾い上げると〜お土産用〜とはっきり文字が刻印されていた。


「……なん、じゃと……すり替え、お主一体何を‼︎」


「いや、なにもしてないけれど」


 何やら難しい言葉を魔王は発するが。 

 

当然のことながら僕たちは何もしていない。


最初から最後まで魔剣ラグナロクはペーパーナイフだった。


「ぺ、ペーパーナイフだあぁ‼︎? いやいや、だってあの魔力だぞユウ、あんなすごい魔力を持つ魔王がペーパーナイフだなんてそんなこと…………まじだ」

 

 僕から折れた刀身を奪うと、フレンは顔を真っ赤にして僕と刀身を何度も見比べる。

 

「……勇者様、お助けぇ」


 ちょっと煽ってみると、フレンの顔がゆでだこよりも赤く染まる。


「お、おま、ば、バカにしやがって、じゃなくて、ペーパーナイフバカにすんなよ‼︎? さ、刺さったらあれだ、ペーパーナイフだって人殺せんだぞ‼︎?」


「はいはい……」


素直に剣と見間違えたって認めればいいのに……という言葉を押さえ、僕は剣を構えて魔王へと向き直る。


 ペーパーナイフでの攻撃を仕掛けてきたとはいえあれだけの魔力、まだ油断は……。


「え? な……ほ、本当になにもしておらぬのか? そ、そんなバカな……だって、だって店の店主これ、伝説の魔剣だって。妾だから買ったのに……」


「あっ……(察し)」


「おいこらなんだそのかわいそうなモノを見る目は‼︎? 分かったよ偽物なんだなこれ! もう分かったからそんな目でもう見るでない! いやもう本当分かったから、その目を止めるのじゃ……っていうかお願いやめろください!」


 顔を真赤にして騒ぐ魔王……殺気も敵意も完全に消え失せており、僕は警戒を説いて剣を鞘にしまった。


「……なんか、色々と可哀想な奴だな」


 ぽつりと溢れたフレンの言葉。

肯定も否定もしないで、僕はうろたえる少女に声をかける。


「……えーと君、その、色々と大丈夫?」


「ええい、その雑な気遣いが余計に傷つくわ‼︎」


「あ、ごめん」


「やめて‼︎? もう妾に、優しくしないで‼︎ 妾も魔王じゃ、破れ去ったならば生恥を晒すつもりはない! 貴様も勇者ならさっさと妾を殺せばよかろう‼︎」


「いや……殺すつもりはないんだけど」


「んなっ‼︎? 貴様らもしや妾の美貌にあてられ、ここが人目のつかぬ暗がりだというのを言いことに、妾に【自主規制】や、【禁則事項】みたいなことをすると言うつもりか‼︎?

ナイス! バディな! 妾の美貌に当てられて‼︎」


「ははっ鏡見てから言えよな貧にゅ……ってぶほぉあ‼︎?」


嘲笑うかのようなフレンの顔面に少女の飛び膝蹴りが突き刺さり、フレンはゴロゴロと床を転がった。


「誰が、発育不全の妖怪胸壁むねかべじゃこらあぁ‼︎」


「そ、そこまで言ってねえよ‼︎? 自覚あるなら無理な背伸びすんじゃねえ貧乳‼︎」


「まだ言うか貴様! 妾はこれから大きくなるんじゃぁ!?」


「けっ、お前のその身長タッパじゃもう希望は……あ、ちょっ‼︎? まって、顔‼︎ 顔殴るのやめて‼︎? お婿に行けなくなるからあぁ‼︎」


「ちょっとフレンいい加減にしてよ、話が先に進まないだろ?」


「お前は俺の仲間だろ‼︎? もうちょっと俺を助けるとかしなさいよ!? 親友だろ?!」


「???」


「本気で首傾げんじゃねーよ‼︎」


 しばしボコボコにされるフレン。


やがて気が済むまで殴り終えたのだろう、少女は肩で息をしてこちらに振り返る。


「ふー、ふー‼︎ ともかく! 妾は勇者に負けたのだ、殺される覚悟は出来ておるわ!妾を殺して名声でも富でも手に入れりゃいいじゃろバーカ! もうどうだっていいわ‼︎

どこにいっても野良犬みたいに追い回されて、三日三晩寝ずに働いて手に入れた剣も偽物だし、挙げ句の果てには貧乳って馬鹿にされるし!?妾が一体何をしたっていうんじゃ‼︎みんなそんなに妾が嫌いか! だったら殺せば良いじゃろ‼︎ ほら殺せ、お望み通りまな板の上の鯉じゃ、さっさと殺していけ作りにでもなんにでもすれば良いじゃろうがばーか‼︎」


「だから、どっちかってーとお前は鯉じゃなくてまな板そのも……」


「しねええええぇ‼︎」


「うぎゃああああぁ‼︎?」


 泣きじゃくりながら馬乗りになってフレンをボコボコにする少女。


 よくみればフレンを殴るその腕は細く、体は痩せ細り全身ボロボロで……とてもじゃないが放っておける様子ではない。


「うぐっ、ひっく、うえええぇえぇん……なんでみんな妾をいじめるのじゃああぁ」


 ぐったりと動かなくなったフレンの上で、子供のように泣きじゃくる姿は、魔王というよりもどこか昔の自分を見ているようで。


「……ねえ……もしお腹減ってるなら、うちでごはんでも食べてかない?」


 気がつけば僕は、そんな言葉を魔王に向けてそんな言葉を投げかけていた。



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