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03.姉ちゃんはとっても過保護

 翌日

朝の日差しが上りはじめた早朝。

鳥たちのねぼけた歌を聴きながら身支度を済ませた僕は階段を降りてリビングへと向かうと、いつものように姉ちゃんが朝ご飯を作ってくれている真っ最中であった。


「あ、起きてきた。おはようユウ君」


「おはよう姉ちゃん……今日はコーヒー? 紅茶?」


「うーん、紅茶かな……お湯は沸かしておいたからね」

「了解、ありがとう」


 フライパンを振るう姉ちゃんの後ろを通り、紅茶の葉とコーヒー豆が仕舞われた棚から、要望通り紅茶とティーポットを手に取り、お湯と一緒にテーブルへと運ぶ。


 朝の飲み物を作るのは、家事のほとんどを姉ちゃんが行うこの家で数少ない僕の仕事の一つだ。



「いつもいつも、朝早く一人で起きられて、ユウ君は偉いねぇ」


「そんなことないよ、いつも姉ちゃんにばっかり朝ごはんを作らせてごめんね。 やっぱり、これからは朝食は僕が作ろうか?」


「何言ってるの‼︎ ダメダメ、ユウ君はまだ子供なんだからお姉ちゃんがご飯を作ってあげるのは当たり前なんです‼︎ それにユウ君はちゃんと紅茶を入れるお仕事をしてるでしょ?」


「これだって、僕が頼み込んでやっとやらせてくれるようになったんじゃないか……いっつも姉ちゃんは僕のこと子供扱いするけれど、身長はもう姉ちゃんより僕の方がもう高いんだよ?」


「し、身長は関係ないもん‼︎ 大事なのは年齢だもん‼︎」


「年齢だって二つしか違わないじゃないか」


「いいえ! たとえ一つだろうと数分だろうと、先に生まれたならば姉は姉。 お姉ちゃんは病める時も健やかなる時も蹂躙されている最中であっても、弟を愛し慈しみその存在全てをかけて保護しなければならない宿業を背負うの。つまり、ユウ君がこれからさきおじいちゃんになっても、私がユウ君のお姉ちゃんであることは変わりないってことなんだよ‼︎ そう、だから私がずーっとユウ君を守ってあげるから、ユウ君は何も心配しなくていいし、苦しい思いも辛い思いももうしなくていいの。 わたしが全てぜーんぶから守ってあげるんだから、思う存分笑って生きていいんだよ‼︎」


 クルクルとスープの入った鍋をかき混ぜながら早口で語る姉ちゃんに、僕は紅茶の茶葉を蒸らしながら溜息を漏らす。


「ずっとって……自分の幸せはどうするのさ」


 そんな姉ちゃんの言葉に僕はため息を漏らしながらも席につくと、木の器に盛り付けた料理を配膳しながら姉ちゃんは自慢げに鼻を鳴らす。


「とうぜん、ユウ君が幸せならわたしは幸せだから何も問題はないの‼︎だから姉っていうのは世界で一番幸福な存在なんだから‼︎」


「……相変わらず姉ちゃんの謎理論は理解に苦しむよ」


「全然謎じゃないよ当然のことだよ‼︎」


「はいはい」

 

 いつものように他愛のないやりとりを繰り広げながら、姉ちゃんは机の上に朝ごはんを盛り付け、僕もちょうど紅茶を入れ終わる。


「さて、お待たせユウ君……さ、ナプキンつけてあげるね」


「いや、ねーちゃんナプキンぐらい自分で……」


「動かないで……うんうん、じゃあ次はお姉ちゃんが食べさせてあげるね。 スープは熱いからフーフーしようか?」


「姉ちゃん、自分でできるから……」


「で、でもでも、私のスープのせいで、ユウ君が口のなか火傷なんてしちゃったらどうしようって。私、私とっても心配で」


「それぐらい平気だし、自分でご飯ぐらい食べられるよ‼  紅茶もせっかく淹れたんだから……一緒に食べようよ」


「ユウ君、お姉ちゃんを気遣って……なんていい子なの‼︎? う、ひぐ、うぐぅ……私、私姉でよかったぁ」


「もぉ……いちいち大袈裟なんだから」


 本気で感極まって泣き始める情緒不安定な姉に僕はため息をつきながらも、姉ちゃんを対面に座らせて朝食の続きを取ることにする。


「それじゃあ、一緒に食べようねユウ君‼︎ スープ、熱いから気をつけてね?」


「分かってるよ……うん、美味しい」


「本当? よかったー」


 嬉しそうに言葉を弾ませる姉ちゃんに思わず笑みが溢れる。


 こうやって姉弟で他愛のない会話をしながら取る朝食が、密かな楽しみなのは姉ちゃんには内緒だ。


「この前のドラゴンゴーレム退治は久しぶりの大物だったけれども……今日はどうしようか姉ちゃん」


「そうだねぇ、魔物は世界各国では増えてるみたいだけど、ここら辺はあんまり増えてるようには感じないよねぇ……むしろ弱い魔物しかいなくなってるような?」


「それは姉ちゃんがほとんど狩り尽くしたからだって……お陰で僕のレベルは上がらずじまいだよ」


「だってユウ君に危険なことはさせられないじゃない‼︎ それに、一緒に魔物を退治してるんだから経験値はしっかりとユウ君にも入ってるはずだよ‼︎」


「……の割には成長が遅いけれど。やっぱり才能がないのかな」


 壁に立てかけてある勇者の剣を見て、ついポツリと弱音が漏れて出てしまった。


「勇者っていう職業の特質上レベルが上がりにくいのは仕方ないけれども、ユウ君はもともと優しすぎるし、戦いに向いているタイプじゃないからやっぱり先は長いとおもうよ?」


「むぐ……それはわかってるけど」


「もういっそのこと魔王退治なんてやめて二人で静かに暮らさない? 私の魔法とユニークスキル、【改造】の力があれば仕事には困らないし……絶対ユウ君に不自由はさせないから」


 大変だからもう諦めようよ……と、姉ちゃんはそう僕に提案をする。

 

だけどその言葉に僕は口を尖らせて首を横に振った。


「だめだよ……才能がなくても僕は勇者の剣に選ばれた勇者なんだ。魔王を倒して、世界に平和を取り戻さないと……時間がかかるから諦めるなんて勇者のやることじゃない。どれだけ時間がかかったって、強くならないと」


「それはそうだけど……でもお姉ちゃん心配だよ。ユウ君に万が一があったら私……私」


 不安げにしょんぼりと肩を落とす姉ちゃん。

   

 たゆんと机の上に胸が乗っかる。


「……そ、その万が一がないように、姉ちゃんが改造をしてくれるんでしょ?」


 まぁ改造結果や方針に色々と問題はあるとしても、姉ちゃんが僕の勇者の剣を改造することによって非力な僕が通常では出しえない力を発揮できる時があるのも事実である。


 そこは感謝しているつもりだ。


「そうだけど、いつも言うように改造はユウ君の力じゃなくて仮初の力なんだから、過信しちゃだめだからね? だから勘違いしないように定期的に弄って効果を変えているんだから」


「わかってるよ……それで、話を戻すけれど今日はどうするの?」


 お説教臭くなってきた姉ちゃんに僕は口を尖らせて少し強引に話を戻すと、姉ちゃんは少し悩むように腕を組むと。


「んー……あ、そうだ。 ユウ君、今日はクエストはお休みしてお姉ちゃんの買い物に付き合ってもらってもいい?」


 そんなことを提案してきた。


「買い物?」


「うん、久しぶりに二人でデートなんて……どうかな?」


「……ッ」


 悪戯っぽく微笑みながらそう問うてくる姉ちゃんに。

 僕は自分でもわかるくらい顔を赤くして無言で頷く。


 僕はひとつだけ姉ちゃんに嘘をついている。

 いや、隠し事をしていると言う方が正しいか。


 確かに僕は強くなりたい……でもそれは、見ず知らずの他人やましてや世界平和のためではない。


 本当に僕が守りたいのは……本当はたった一人なのだ。


 「やったー」と嬉しそうに笑う姉ちゃん。

そんな笑顔を見ているだけで、僕もつい嬉しくて微笑んでしまう。


 あぁそうさ。

過保護で心配性……最高位の冒険者なのにどこか抜けていて少し泣き虫。

 誰にも内緒の話だが……僕はこんな姉ちゃんに恋をしている。

 

 だから、他の誰でもない姉ちゃんに認めてもらいたい。

 守るべき弟ではなく……一人の一人前の男としてみてもらいたい。

そんな自分勝手な願いを叶えるために……僕は今日も勇者であり続けるのだ。



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