14.修練場
数日後。
「なるほど、それで妾を呼んだというわけか」
修練場へと向かう道中、僕はマオにことのあらましを説明すると。
マオは納得したと言った表情でそう呟いた。
「うん、魔法が使えればなにかと便利でしょ? 召喚以外も使えるようになればなって思って……ちょっと怖いかもしれないけれど上手くやるから我慢して」
「まぁたしかに昨日の今日でまだちょっと怖いが……背に腹は変えられまい」
「お姉ちゃんに任せてねマオちゃん‼︎」
「まぁ、あの様子じゃ気取られてる様子も微塵もないしのぉ」
自信満々に胸を張る姉ちゃんをみて、安堵したように息を漏らすマオ。
そんな気苦労に気づくはずもなく、姉ちゃんはというと僕たちの隣で興奮気味にはしゃいでいる。
僕たちとのお出かけがよほど嬉しいようだ。
「あぁ、ユウ君のお友達と四人でお出かけなんて、なんだか私、今すごいお姉さんっぽいことしてると思わない!?」
「え、そうかな?」
弟の友達とお姉さんは一緒に遊びには行かないんじゃ……と思ったが当然のことながら姉ちゃんは聞いていない。
「そうだよ!感動だなぁ……私もやっとお姉ちゃん力が高まってきたってことだもん‼︎ よーし、お姉ちゃん張り切っちゃうんだから‼︎」
「お姉ちゃん力ってなんじゃ? ユウ」
「さぁ……溜めるといいことあるんじゃない?」
「ふむ、お姉ちゃん力。魔術の一種か、それとも神秘、いや錬金術の可能性も……てのじゃじゃ?」
「さぁマオちゃん、修練場にレッツゴーだよ‼︎ 時空魔法でも重力魔法でも小惑星落としでもなんでも教えてあげちゃうんだから‼︎」
考え事をするマオの手を姉ちゃんは不意に取って瞳を輝かせる。
どうやら僕と同年代の魔法使いということで厄介な姉の本能を刺激してしまったらしい。
「ふ、普通に初級魔法が使えるようになればいいんじゃけれど‼︎?」
「えー! それじゃあもったいないよ‼︎ それだけの魔力があるならロマンを求めないと」
「ろ、ろまん? なんじゃそれ、美味しいのか?」
「美味しいところは持っていけるよー‼︎」
和気藹々と話すマオと姉ちゃん。
話が噛み合っているかといえば疑問だが、最悪の出会いが嘘だったかのように二人は一見仲が良さそうにならんで歩く。
なんだかんだすべてを受け入れるその懐の深さは、流石魔王様と言ったところだろうか。
まるで本当の姉妹のように話す二人に、僕はほっと胸を撫で下ろす。
と。
「で? マオはわかるけれど、なんで俺まで連れてこられてんだよ……仕事あるんだけど」
少し遅れてついてきていたフレンが声をかけてくる。
相変わらず気の毒になるほどの仏頂面だ。
「人がたくさんいるところに行くんだし、何よりマオはあんな感じだろ? 何かあったときは君の口先が必要になると思ってね……まぁ、本体は余計だから最悪口先だけ来てくれればよかったんだけど」
「んなことできるか‼︎ 引きちぎれってか!?」
「ははっ、冗談だよ冗談。それよりも、あのマオの服すごい似合ってるけれどどうしたの?」
「あ? あんなボロボロでペンキまみれの服で外なんて歩かせたら孤児と間違えられて騎士団に連れてかれちまうだろ? だから俺が作ってやったんだよ」
「フレンの手作りなんだ……あれ」
黒色のレースに赤いフリルの付いたワンピース型のドレスは、おそらくそこら辺の仕立て屋では手に入らないほど凝った造りであり、思わず声が漏れる。
意外と器用なんだよな……フレンって。
「んだよ、男が裁縫できちゃ悪いのか?」
「いや、純粋にすごいなって思って」
「マオみたいな奴を拾うのもあいつが初めてってわけじゃねえからな。必要に
迫られて習得しただけだっての」
不貞腐れるようにフレンはそう言うが、服を褒められたのが嬉しかったのかその表情は満足げだ。
本当、素直じゃないんだから。
「なんじゃ? 妾の服の話か?」
そんな会話をしていると、話が聞こえたのかマオが振り返り自慢げに僕たちの前で服を見せつけるように一回転をする。
脇の部分と背中の部分がよく見えるようになったドレス。
このデザインはつまりフレンの趣味ということになるが……いい仕事をするものだ。
「うん、よく似合ってる」
「おぉ、お主もそう思うか勇者‼︎ そうであろうそうであろう? この服のために、金髪に体を色々と触られたり紐っぽいもの巻き付けられたりしたが、なに、服の対価と思えば安いものよ‼︎」
「触られ……紐……騎士団さーーん‼︎」
「ちょおおおぉ‼︎ ちがっ、誤解だ‼︎?」
「……フレン君、その、お姉ちゃんえっちなのはいけないと思うの」
「採寸だっつーの‼︎? なに変なこと抜かしてくれてんじゃマオこのやろー!?」
「おや、そうだったのか? 妾てっきり其方が妾の魅力にやられて森の狼さんになったのかと思ったぞ」
「意図的かてめぇ‼︎? 恩をあだで返しやがって、この妖怪胸壁‼︎」
「なんじゃとぉ、やるのか垂れ目金髪ぅ‼︎」
相変わらず仲がいいのか悪いのか、睨み合い火花を散らす二人。
そんな様子を姉ちゃんは楽しそうに笑みをこぼす。
「ふふふっ、二人は本当に仲良しさんだねぇ」
「僕には今にも取っ組み合いの喧嘩が始まりそうに見えるけれど」
「喧嘩するほど仲がいいって言うでしょ? お姉ちゃんちょっと羨ましいな」
「羨ましい?」
「ほら、ユウ君と私、あんまり兄弟喧嘩ってしないじゃない? 基本私がユウ君に怒られるばっかりで」
「自覚があるなら少しは変な行動を慎んでよ姉ちゃん……」
「あーでも、しっかり者の弟に叱られるのもお姉ちゃんって感じがするし‼︎? 兄弟喧嘩をするのも捨てがたいわ‼︎ うううぅ、どうしようユウくん‼︎?」
「姉ちゃんうるさい」
「くはっ‼︎? 辛辣なユウくんも可愛い……本当、私お姉ちゃんでよかった」
本当、一人でも勝手に楽しそうだなこの姉は……。
「一応ギルドが管理してる施設だよ。世界各地に設置されていて、ギルド関係なく誰でも使えるから国営とよく勘違いされるんだけれど、本当はSSSランク冒険者のアーノルドが作ったギルド、アームストロングが管理運営している施設なの。詳しい経緯は情報屋のフレン君のほうが詳しいんじゃないかな?」
「そうなの? フレン」
「まぁ、俺も全部を知ってるってわけじゃねえが。もともとアームストロングって団体はギルドじゃなくて冒険者の育成と支援を目的とした小規模団体だったのさ。初めは細々と西の片田舎で運営をしてはいたんだが、当時団体のトップだったアーノルドが魔王軍幹部を倒して有名になってからは、支援団体を利用する客が激増……結果、需要に応えるためにギルド登録をして全国に波及させたらしい」
「なんでギルド登録を?」
「ギルドになると、所属者数に応じて国から援助金と施設の提供を受けられるようになるのと、魔王軍幹部を倒した人間が始めた新規のギルドともありゃ、投資をしたがる人間も多くいるだろうと踏んでの事さ。アーノルドは冒険者としての腕だけじゃなく、経営者としても腕が立つからな……思惑通り、アームストロングは世界で5本の指に入る大ギルドにあっという間に成長をしたというわけさ」
「……なんか、色々とすごい人だってことはわかったけれど」
「そもそもじゃが、支援団体のトップが魔王軍幹部倒したって所がわけわからないんじゃけど、支援じゃないじゃん。最前線で殴ってるじゃん。その団体、誰も支援って言葉辞書で調べたことないのか?」
「あはは……アーノルドは少し変わった人だから、というよりSSSランク冒険者はみんな一癖も二癖もあって……だからちょっと苦手なんだよね」
苦笑いを浮かべてぽつりと呟く姉ちゃん。
「あんたも十分変わりもがっもごっ……」
それにたいし余計なことを言おうとしたフレンの口をそっと閉じて話を続ける。
「苦手、ということは、アーノルドさんはこの街にはいないんだね」
「うん、アーノルドは隣の国の人だし、ここは中規模程度の修練上だから、滅多なことがない限りアーノルドは来ないから安心して大丈夫だよユウ君‼︎」
「そうなんだ」
変わり者と姉ちゃんは言うが、魔王軍幹部を倒したのだから腕は確かなのだろう。
ちょっとあってみたいなとも思ったのだけれど……姉ちゃんのこの様子だと簡単には会うのは難しそうだな。
「あ、見えてきた! あの建物が修練場だよ‼︎」
そんなことを考えていると、姉ちゃんは目の前にあるドーム型の建物を指差す。
中規模、とは言ったもののそこには大広場ほどの大きさの建物。
今までは何かの工場かと思っていたけれど、これが全て冒険者のための施設だったとは。
「なんだ中規模という割には随分と大きいでではないか」
「まぁ、銀色の翼とメイドリーヘブンに次いで三番目にでけえギルドだからな。中規模とは言ってもそれなりの大きさにはなるだろうな」
修練場に到着をすると、姉ちゃんは慣れた手つきで入り口の扉に手をかけて手招きをする。
「はい、ここが入り口! 私は中の人たちとも顔馴染みだし、おねーちゃんがみんなにユウ君を紹介してあげるね。それじゃあ、たのもー……ってあれ?」
外枠を朱色に塗られた木製の扉を姉ちゃんは勢い良く開ける……と。
「んんんんーーー‼︎ いいYO‼︎ すんごくいいいいい‼︎ もっと、もっと私を叩くんだ、その鞭がその力が私の上腕三頭筋をプルプルさせるんだYOOOOO‼︎」
「「「ハイ‼︎ 兄貴‼︎」」」
そこには、海パン姿で四つん這いになった筋肉もりもりマッチョマンの変態。
そしてその周りを複数で取り囲み鞭で叩く男たち。
そんな想像すらしていなかった光景に……僕たちは(姉ちゃんも含め)茫然と立ち尽くすことしかできなかった。
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