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12.仲間との戦い

「へ?」


薄暗い路地の中……みればそこにはこちらを睨む二つの赤い瞳があり、白銀に光る鈍い牙が、殺意を隠すことなくこちらに向けている。


 闇の中、勇者の剣が危機を知らせる様にうっすらと青白く光り輝く。

……それは、目前にいるそれがただの犬ではなく魔物であることを告げていた。


「魔物? なんでこんな町中で‼︎?」


「どっからか迷い込んだのか? まずいな……警報が鳴ってねえって事はまだ誰にも気づかれてねえって事だ。 ここで仕留めねえと被害が出るぞ」


「やるしかないね」


「いけるか?」


「問題ないよ……て言いたいところなんだけど、この剣が青白く光る時って大体格上の魔物なんだよね……」


「おいおい、それって……」


【ぐっるるるるああ‼︎】


 品定めが終わったのか、僕たちの会話を待つはずもなく魔物は牙を剥いて僕たちに突進を仕掛ける。

 白銀の毛並みに、人一人ならば頭から丸呑み出来そうなほどの体躯。

 たとえ魔物で無かったとしても街で暴れなんかしたら大騒ぎになりそうな怪物である。 


「でかい……フレン、下がって‼︎」


 おまけに、突進速度はこの辺りに生息する犬型の魔物とは桁が違う。


慌ててフレンを突き飛ばし、歯を食いしばって魔物の顔面目掛けて勇者の剣を横になぎに振るう。


【ぐるうああああ‼︎】


 正面からの渾身のカウンター。

 道幅の狭い場所からの攻撃であったことも幸いし、綺麗に刃はその首を捉える。


 だが。


「んなっ‼︎?」


 甲高い音が響き……勇者の剣は受け止められる。

 

 ありえない話だが、目の前の魔物は振り抜かれた刃に噛み付いて攻撃を受け止めたのだ。


「なななっ‼︎? なんちゅー犬ころだよ‼︎?」


 フレンの驚愕に僕は思わず後ずさる……だがこれは間違いだった。


 魔物は剣から力が抜けたのを悟ったのか。

 口から剣を離し、そのまま無防備な僕の体に突進をする。


「ぐあっ‼︎?」


 牙こそ立てられなかったものの、腹部に獣の腹が命中し僕は道の反対側まで吹き飛ばされる。


「ユウ‼︎?」


「大丈夫……ごほっ……こいつ、強いだけじゃなくて頭もいい……」


「ちょっ、何やっとるんじゃユウ‼︎? ドラゴンにやったみたいに、また時空ねじ曲げて攻撃すれば良いじゃろう‼︎? あれなら一撃じゃろうが‼︎」


「はは、ごめんマオ、言ってなかったんだけど、あの力姉ちゃんの改造の力で、ドラゴン以外には使えないんだよね……正直、改造がないとそんなに僕って強くないんだよ……」


「な、なんじゃとおぉ?」

 

【ぐうっるるらあ‼︎】


 悲鳴に近いマオの叫びに、呼応する様に魔物は僕に更なる追撃を仕掛けてくる。

 受け止められないほどの速度ではないが……防戦一方でなかなか反撃に転ずることができず、勇者の剣で魔物の攻撃を弾き続ける。


「くっ、このままじゃまずいな……ねえマオ、魔王だったならこの魔物の弱点とかわからない‼︎?」


 魔物の攻撃を耐えながら、背後にいるマオに問う。

 自分でも、悪くない案だとは思ったのだが。


「えっ……ええぇ‼︎?そんな無茶な、妾すっごいたくさんの数の魔物を従えていたのだぞ‼︎? そんな魔物の一匹一匹の特徴なんて覚えてられるか!? 幹部とか、四天王とか側近とか、それならわかるけど……みんな前の勇者にやられちゃったし」


 その希望はあっさりと打ち砕かれた。


「つまり魔物についてはなんもわかんねえってことじゃねえか‼︎? 本当使えねぇな‼︎」


「わ、妾は魔法学専門じゃったの‼︎ ……あ、で、でもでも、あの魔物ではないが、幹部の一人に獣人はいたぞ? 動体視力とか聴覚とか嗅覚みたいな体の感覚が鋭い分、身体能力は高いんだけど、強い匂いとか音とかに弱かったせいで……勇者の光魔法【閃光弾フラッシュバン】であっという間に無力化されてだな……」


「いや、いま幹部の話をされても……」

 どうしようもない……そう呟こうとしたその時。


「獣人……いや……まてよ……まてマオ‼︎ それだそれ‼︎」


 フレンは何かを思い付いたかの様にマオに向かってそう叫ぶ。


「ふぇ‼︎? そ、それって?」


「最初にあった時の、あのバカみたいな魔力放出、今すぐあれをやってくれ‼︎」


「ま、魔力放出って……魔力練り上げても妾魔法使えないぞ? そもそもあれは相手に威厳を見せつけるただのパフォーマンスでじゃな……」


「そんなこと分かってるわ! いいから早く‼︎?」


「な、なんじゃかよく分からんが……あぁもう、やればいいんじゃなやれば‼︎」


 そういうと、マオは最初に出会ったときの様に膨大な魔力を練り上げる。


 「っ……‼︎?」


 瞬時にあたりに充満する魔力に、前の時の様に一瞬視界が揺らぐ。

 正直こちらの行動が阻害されるだけなのでは……と疑問に思ったが。


【ぐがが……がふっ、げう】


 驚くことに、揺らぐ視界の中、目の前で魔物が苦しそうにもがき横倒しになった。


「なっ……」


「やっぱり‼︎獣型の魔物は聴覚や嗅覚みたいな色んな器官が俺たちより敏感だっつーなら、当然魔力酔いも俺たち以上にダメージを負うはずだと思った通りだ‼︎ あっはははは、ざまあみろ犬っころ! さあやっちまえユウ、止めをさ、さ、……げぼぉ゛え゛」


「ぎゃあぁ‼︎? こんなところで吐く奴があるかばかあぁ‼︎」


 魔力酔いの最中に大声を出したせいで景気良く吐瀉物を撒き散らすフレン。


……どこまでも格好のつかない奴である。


「だけど……助かった」


 そんな悪友に僕は苦笑を漏らしながらも剣を構える。


【く、くぅうん……くうぅん】


 ふらふらと立ち上がりながら、文字通り尻尾を丸めて逃げようとする魔物。


「悪いけど、これで終わりだ‼︎」


 それに僕は飛びかかり、その首へと剣を突き立てる。


 悲鳴も断末魔もなくただ肉を貫く音のみが黄昏時の街に響く。


 貫かれた魔物は動かず……勇者の剣は輝きを消すことで魔物の死を教えてくれた。


「ふー……なんとか倒せたみたいだね、二人とも怪我はない?」


「お陰さまでな……口の中が酸っぱいけど」


「あ、ちょっと近づかないでいただけます?」


「本気で傷つくからやめろそれ‼︎?」


 フレンから距離を置いてから剣を鞘に納めると。

 マオはどこか興奮した様子でこちらへと走ってきた。


「ふっふーーん‼︎ 妾の魔力のおかげで勝てたのだ、感謝するが良いぞユウ‼︎」


「お前、全然作戦の趣旨理解できてなかったくせになんでそんな自慢げなの?」


「何を言うか‼︎ 妾がおらなんだらお主ら二人は死んでおったのだぞ? 妾のおかげなのじゃからもっと妾を褒め称えるが良い‼︎ 意外と結構喜ぶから‼︎」


 役に立てたことが嬉しかったのか、マオは喜びを表現する様に飛び跳ね。


「あ、マオそんなに飛び跳ねたらあぶな……」


―――びちゃ


「あ゛……」

 

勢い余ってマオはフレンの吐瀉物を踏んだ。



「ま、まぁ何はともあれお疲れ様……二人とも」


「本当……なんだったんだあの獣」


「まぁなんでも良いではないか、野良の魔物の出どころなんて考えたところでせんなきことであろう?」


「まぁ、そりゃそうか……ってか……お前泥だらけだぞユウ」


「フレンこそ冷や汗かきすぎたんじゃない? 酸っぱい匂いするよ」


「え、まじ? ……うわ本当だ」


「妾も埃まみれペンキまみれで散々じゃ、早くどこかで湯あみがしたい」


「同感……とりあえず、早いとこマオを送り届けて帰ろっか」


「そうだな。 そういえば、魔王様は帰るとこあんのか?」


「もちろん、ちゃんと宿はあるぞ……馬小屋だけど」


「馬小屋だぁ? おいおい……女一人で泊まる場所じゃねえってのそんなところ、危ないだろ?」


「む、むぐぐ……じゃがお金もないし」


 フレンの言葉にマオはしゅんと項垂れる。

 その様子にフレンはしばらく考える様な仕草をした後。


「あーもぅ……ったくしゃーねぇなぁ、ほれ」


 ため息を漏らしてマオに鍵の様な物を投げて渡す。


「ほえ? なんじゃこれ」


「近くの貸家の鍵だ……ぼろくて借手が付かねえからお前に貸してやる。多少雨漏りするけど、まぁ馬小屋よりかはマシだろ。それと、明日仕事も見つけてきてやるから……もちっとまともな服かえるぐらいには割りのいい仕事をな」


「金髪……良いのか? 妾魔王ぞ?」


「そんなボロっちぃ魔王様なんて怖くもなんともねえよ……家賃踏み倒すなよ」


 不貞腐れる様なフレンの言葉に少し呆けたような表情をした後、マオは嬉しそうに微笑んだ。


「そうか、怖くないか……。ふふっお主、やっぱりいい奴かもなフレン」


「え゛ぇ?……さっきまであんな喧嘩してたのに、マオ、君よくちょろいって言われない?」


「なんだとユウ? 妾魔王ぞそんなわけなかろう? 特に妾、人を見る目には自信があってだな……」


「……人を見る目がある奴は、ペーパーナイフ売付けられねえんじゃねえのか?」


「じゃからその話は蒸し返すな金髪ー‼︎」


「あはは……」


 口喧嘩をしながら、他愛のないことを話し合いながら僕たちは夜の近づく街を歩く。

 

 それはなんだか、冒険帰りの冒険者みたいで。

 

 この三人と旅ができたらきっと楽しいんだろうな、なんて心の中でふと思うのであった。


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