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01.姉ちゃんはいつも勝手にいじってくる

「あっ……うぅ、ね、姉ちゃん‼︎ だめだよそれ……そ、そんなにいじったらおかしくなっちゃうよ‼︎」

 

風に青々と揺れる平原に太陽の光を映す果ての見えない巨大な湖。

のどかな昼下がりの街道に……僕の喘ぐ声が響きわたる。


湖の淵を沿うように走る馬車の中……。

こんな昼間から僕は大事なものをアンネ姉ちゃんにいじられている真っ最中だ。


「大丈夫大丈夫、心配しないでユウ君。お姉ちゃんに全部任せて……ね?」


姉ちゃんが手を動かすと、ねぷねぷという不思議な音が響き渡る。

もうこれで何度目だろう……こうして姉ちゃんにいじられるのは。


「へ、変な音出ちゃってるよ‼︎ ネプネプって、こ、こんな馬車の中で‼︎ あっ、そ、それ以上は、こ、壊れちゃうから‼︎?」


「大丈夫、この程度じゃ壊れないから……ほら、もう少しだからね、もうちょとねぷねぷってしようね?大人しくしててねぇ……ほーら、もう少しで終わるからねぇ」


モノを通じて、僕の体が変化していくのがわかる。

少し姉ちゃんが手の動きを早くすると全身に電気が走ったかのような感覚が全身を巡る。

体が別のものに作り替えられていくような感覚に、思わず声が漏れてしまう。


「あっ……だ、ダメダメ‼︎ それ以上は……変になる‼︎ 変になるからあぁ……あっ、あっ、あぁッ……へ、変に……なっちゃったぁ」


「うふふ、はーい。いーっぱい変になっちゃったね。偉い偉い……これでまた頑張れるね?」


「うぅ……ひ、ひどいよ姉ちゃん。こんなにたくさんいじって……元に戻らなくなったらどうするのさ」


「大丈夫よ、その時はお姉ちゃんがいつでもネプネプして元どおりにしてあげるから……ほら、それより見てユウ君、改造完了・・・・だよ?」


「え? あぁうそ……こ、こんなにおっきくなっちゃったの!? あ、あんなに小さかったのに」


「小さいのも可愛いけれど、やっぱり男の子だもの……おっきい方がかっこいいでしょ?」


「そ、そんなぁ……」


満足げに語る姉ちゃんに僕は呆然とそれを見つめることしかできない。

姉にいじられ大きく膨らんだ僕の大事な大事なその……。



ーーーーー勇者の剣を。



「はいこれ、改造の内容ねー……見た目は大きくなったけれど、重さ自体は変わらないから、振り回すだけで良い分むしろ扱いやすくなったんじゃないかなー?」


のんきに姉ちゃんは、改造完了いじりおわったした勇者の剣のステータスを映した羊皮紙を僕に手渡してくる。


─────────────────────────────────


【改造された勇者の剣】Level 100

 攻撃力 100

 防御力 50

 魔法   0

 強度  ――

 スキル 龍属性特攻ドラゴンスレイヤー

 解説:賢者により幾度も改造された勇者の剣の成れの果て。今回の改造でスキルが龍属性に対し8倍ダメージ2回攻撃に変更された。


─────────────────────────────────

「ああっ‼︎? な、なんてことしてくれたんだよ姉ちゃん……見た目だけならまだしもスキルまで勝手に弄って……さっきまで【全体攻撃】のスキルだったはずなのに、なんで【龍属性特攻】なんて使いにくそうなスキルに改造してるのさ‼︎ 毎回毎回‼︎ 僕の大事なモノを勝手にいじらないでよ‼︎」


「あ、あれれ‼︎?もしかして気に入らなかったユウ君?でもでも、ドラゴンだけに最強の力を誇るって、男の子にとってはロマンだしかっこいいでしょ?お姉ちゃんそっちの方がユウ君が喜ぶと思って……それにほら、今からドラゴン退治のクエスト受けにいくんだしちゃんと役にも……」


「たしかに最終目的はドラゴン退治だけど、巣を作ってる神殿の周りはゴーレムが守ってるんでしょ? そうなったら汎用性のある【全体攻撃】の方が強いに決まってんじゃないか」


「え、そうだったっけ……」


 姉ちゃんは慌てたようにクエストシートをみると「あ、ほんとだ」なんて惚けた声を漏らした。


「姉ちゃん……またろくに確認もせずにクエスト持ってきたな?」


「だ、大丈夫だよ‼︎ ゴーレムはお姉ちゃんがなんとかするか︎ら、 ユウ君は最後にその勇者の剣でどっかーんって格好良くドラゴンを退治しちゃって‼︎ ほら、格好いいでしょ?勇者っぽいでしょ?」


「むっ……」

 

そう言われ、一騎討ちでドラゴンを討ち取る自分を想像する。


…………確かに格好いいかもしれない。


「ま、まぁ姉ちゃんがそこまでいうなら、今回はこの剣でいいけれど」


「やったー!ほらね、やっぱりお姉ちゃんのやることに間違いはないんだから!」


「でもこれからは気をつけてよ?魔王と戦う時もそんな調子じゃ……」


「大丈夫大丈夫、お姉ちゃんはやるときはやる女の子ですから!」


「どこから出てくるんだよその自信……」


自慢げに豊満な果実を揺らし胸をはる姉ちゃんに僕はため息をつくと、いつもいじり倒されている哀れな勇者の剣を鞘に納めて、外に広がる湖に目を向ける。


この国のどこにいても見ることができる巨大な湖。

〜ハザド〜と呼ばれるこの湖は大陸の三分の一を覆う世界最大の湖にして災害跡地、そして僕と姉ちゃんの故郷である。


三年前にこの大陸を襲った大災害、ブレイブハザード……それにより世界は大きく変わってしまった。


ことのおこりは五年前、勇者により封印されていた魔王が突如復活し、魔物を引き連れ進軍を開始した事件から始まる。


強大な力を持つ魔王の進軍を前に国は、かつて魔王を倒した勇者の復活による事態の早期解決を図った。


だが。


魔法への過信か、それとも死者の冒涜が神様の怒りに触れたのか……。


国を挙げて行われたその儀式は原因不明の事故により失敗。


結果、魔力の暴走により引き起こされた大災害、ブレイブハザードにより大陸の三分の一が一晩のうちに消滅をしてしまった。


僕と姉ちゃんはその災害の生き残り……というよりかは一回死んで生き返ったと言った方が正しいだろう。


当時のことは覚えていないが、姉ちゃん曰く勇者の剣の新たな持ち主として選ばれた僕は二代目勇者として魔王との戦いに繰り出す運命を義務付けられ、同じく賢者となった姉ちゃんとともに魔王討伐のために冒険をする……はずだたったのだが。


「あ、ユウ君お魚が跳ねたよ‼︎ 釣りでもしていこっか‼︎?」


「いや、釣りなんてしてる場合じゃないでしょ……仕事しなきゃ」


「つれないなぁ……折角二人きりでお出かけなのに楽しもうよ」


「観光じゃないんだよ姉ちゃん。ここのドラゴンを倒して、家畜の被害に悩む近隣の村の人を……」


「みてみてユーくん、神殿が見えてきたよ‼︎ おっきくて綺麗ぇ、いいなぁ、わたしもユウ君とあんな神殿でくらしたいなぁ」


「きけよ」


マイペースな姉ちゃんにいつも振り回されるせいで、お世辞にも魔王討伐の旅は順調に進んでいるとは言えない状況。


いやそれどころか初心者冒険者の集まる始まりの街〜ウーノ〜に、もう一年近く滞在している始末だ。


「……はぁ、早く魔王を倒さなきゃいけないんだけどなぁ」


思わず僕はそう漏らすと、姉ちゃんが慌てるように首をぶんぶんと左右にふった。


「ダメダメ‼︎ 魔王っていうのは一番強い最強の魔物なんだよ? 倒すには誰よりも強くなくちゃいけないの。私にも勝てないようなのに魔王と戦えるわけないじゃないの」


「……それはそうだけど、でもせめて幹部を倒したりとか」


「だめです。お姉ちゃんに勝てるようになるまでは危ないことはさせられませーん‼︎ そんなことよりほら見て、あのお城のテラス‼︎ 二人で夜に並んで星とか見たら綺麗そうじゃないかな?お金貯めてあんなお城作ろうよユウ君‼︎」


「そんなことって……はぁ、もういいや」


楽しげに神殿を指さす姉ちゃんにため息を漏らしながら、僕はその指の先に目を向ける。


風に揺られて踊る青色の大平原には不釣り合いな黒色の巨大な神殿。

魔界の神殿とも呼ばれる神話時代から残る遺跡の一つである。


「さーて今回のお仕事はっと……ふむふむ、依頼によるとあの遺跡には巨大な龍が封印されているみたいなんだけど、その封印が最近解かれちゃったんだって……」


「遺跡の封印って、神話時代の魔法でしょ?それが解かれたってことは、やっぱりブレイブハザードの影響かな、姉ちゃん?」


「どうだろう?私神話時代の魔法は専門外だし。ほむほむ、依頼を読む限りここは元々近づくだけで中型ゴーレムがワンサカ襲ってくる危険地帯で、そんなところにドラゴンなんかが復活しちゃったから迂闊に国の騎士団も調査団も手が出せなくて、情報も少ないんだって……なるほど、だから報酬が豪華なのねぇ」


丸めたクエストシートを胸に収納しながら姉ちゃんはそういうと、「あ、ほらみてみて」なんて呑気に神殿を指差す。


見るとたしかに神殿から無数のゴーレムが巣を突いた蜂のように湧き出てくるのが見えた。


「うっわ本当だ、すごい数だよ姉ちゃん」


「よーしクエスト開始よ‼︎ 露払いは私に任せて、ユウ君は馬車を止めてドラゴンが出てくるまで待機しててね‼︎」


「了解」


姉ちゃんは楽しそうにそう言うと、馬車から飛び降りて迫りくるゴーレムに狙いを定めるように杖を構えた。


自分も楽しく、みんなも楽しくなってもらえればいいなと思って書きました!


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