約束
そこで、目が覚めた。
「……!!!」
がばりと布団をはねのけて飛び起きると、びっしょりと全身に汗をかいているのがわかった。
「大丈夫……?」
隣のベッドで寝ていたノエルが、心配そうにこっちを見ている。
時計の秒針が進むかちかちと規則的な音が、やけに大きく聞こえた。壁にかかった古ぼけた時計にちらりと目をやる。真夜中の二時だった。
「ごめん、起こしちゃった……」
「ううん……」
私もなんだか眠れなかったから、とノエルはかぶりを振る。
「うなされてるみたいだった」
「そうかな……そうだね」
僕は硬いベッドに仰向けに倒れ込む。
「嫌な夢を見てた……」
「どんな夢……?」
「みんな、どこかに行っちゃう夢」
「……」
たぶん、ノエルは僕に何か言葉をかけようと、じっとこちらを見つめているだろう。
暗闇で天井を見上げたままでも、それを感じることができた。
ねえ、ノエル。
「君は、……」
ここにいてくれる?
言いかけて、口が止まる。
こんな思いを言葉に託すのは、とても身勝手で、わがままなんじゃないかと思った。
それでいて、なんだかとても気恥ずかしい願いのような気もした。
だから、
「私は、ここにいるよ」
ノエルがそう言ってくれたとき、とても、びっくりした。
「君がどんな君でも、私は君のそばにいる」
まるで僕の考えていることを全部見透かしているみたいだ。
暗闇でノエルの顔ははっきりとは見えないけれど、優しい顔で微笑んでくれているに違いないと思った。
「約束するよ」
部屋が真っ暗でよかった。
きっと今の僕は、とても情けない顔をしている。
「やっぱり、ノエルは魔法使いみたいだ」
「へへ、なにそれ」
こんなにも、どうしようもなく、心が温かくなる。
どうしようもなく、君に、そばにいてほしいと思う。
「ありがとう」
そう言うと、
「おやすみ」
と返ってくる。
僕はまた目を閉じる。
夢は見なかった。




