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いちばん星


「ちょっと外の空気でも吸いに行かないか」


 レノは僕たち二人に声をかけた。

 すでに眠そうに目を擦っていたノエルは家に残し、僕はレノと二人で外に出る。

 何を話すわけでもなく、僕たちはしばらく夜の港町を並んで歩く。


 黙っていると、やがてレノがそっと口を開いた。


「意地悪なこと聞くかもしれないけどさ。……お前たちの目的を果たすのは、町が滅びてからでも遅くはないんだろ? ……別にこの町を守ろうとしてくれなくても、ブラッドさえ倒せればいいや、って、そうは思わないのか?」


 確かにそうなのかもしれないなと思った。そんなこと今まで考えもしなかったから、深く考え込んでしまう。


 想像してみる。苦しみ命を落としていく人々に、手を差し伸べることなくそれを無感情に見ているだけの自分の姿。ブラッドを倒して過去に飛ぶ、という目的しか追求しない自分の姿。


 確かに、過去を変えてブラッドのいない世界を実現できたら、見捨てた人々も最終的には救われる。


 だけど、そこを割り切ってしまえば、僕は大切な何かを失ってしまうような気がした。それはいい考えとは思えなかった。


「もう目の前で誰かが死ぬのを見たくないんです」


 僕は答える。


「僕の村は、ブラッドに襲われて、なくなりました。僕以外、みんな……死んだと思います。母さんも父さんも、妹も死にました」


 レノは「そうか」とだけ応えた。


「最後の街が滅びる瞬間も、見ました。僕は何もできなかった」

「そんなに幼い歳で……。つらかったな」

「はい……。だからもう、これ以上、そういう光景は見たくないって、思います」

「そうか……だから、世界中の人たちを守りたいって言ってたんだな」


 レノは暗い海に目を向けた。そしてぽつりと言う。


「だけど、時には何かを選ぶことも大切なんだ」

「選ぶ、って……?」


 僕は聞き返す。

 レノは淀みなく答える。


「すべてを守りきることは、できないわけじゃないけど、とても難しいことだ。人間は完璧じゃないから、どんなに強いやつでも、守るものが多すぎると必ず何かを取りこぼす」


 レノは歩きながら、夜の空を仰ぐ。


「見ろよ。星が綺麗だ」


 レノにつられて見上げた夜空には、帳に針を刺して開けた穴から差し込む光みたいな星が無数に瞬いている。


「海の上は水蒸気が多いからな、星が見えるのは珍しいんだ」


 レノはそう教えてくれた。


「俺がいちばん好きな星は、北にあるいちばん明るいやつだ」


 「ほらあれ」とレノが指をさす。


「あの星は一年中あの場所からほぼ動かない。だから、船乗りはあの星を頼りに進むべき方角を知るんだ。なんの目印もない海の上じゃ、あの星が命綱なんだ」

「だからあの星がいちばん好きなんですね」


 確かに、同じように光る数え切れないほどの星々の中で、その星だけがひときわ明るく輝いている。

 レノは視線を戻す。


「さっきの話だけどさ、取りこぼしたものが、自分の中で一番大切なものだったってこともありうるわけだ。俺の場合は、家族。赤の他人が大勢救われるけど家族は救えない、なんて選択、俺はしたくない。……この街の船乗りはみんなそうだ。みんな、『この町を守る』ことに全力を注いでる」


 僕の頭の中には、先ほどの、ミチの屈託ない言葉がこびりついている。


 ――「海の向こうの人たちは守らなくてもいいんじゃないかって思うよ」


 レノはやっと、隣を歩く僕の顔を真っ直ぐに見た。


「だからユーマ。本当に守りたいものを選ぶ強さも、必要なんだってことを、覚えとけ。残酷なこと言ってるのはわかってる。だけど俺にとっては、俺たちにとっては、大事なことだ。自分の中で、何が一番大切か見極めろ」



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