守り人の試験
「お前たちは、どこからの侵入者だ?」
「えっ……」
レノの表情は笑みの形を崩さない。しかしその目からは否応ない殺気のような圧を感じる。
僕はやっと気づく。彼は最初から僕たちのことを、対立する勢力、あるいは外部からの「侵入者」ではないかと疑っていたのだ。
このままじゃまずい。僕は意を決してレノの顔を真っ直ぐに見つめる。
「僕たちは、そのブラッドを倒しに来ました。これから僕の言うことを、信じてくれますか」
レノは僕の話を最後まで聞いたあと、ほう、と息をついた。
「つまり、お前らは、未来から来たと……。未来ではこの世界はブラッドに滅ぼされて、人間はだれ一人、いなくなってしまう、と……」
「……僕たち以外は」
「うーん……」
レノは太い腕を組んで俯き、低いうなり声をあげる。
「ちょっとにわかには信じがたい話だなあ……」
「ですよね……」
スバルの時のように、激昂されないだけましだと思わなければいけないだろう。
しばらく考え込んでいたレノはやがて顔を上げ、言った。
「じゃあ、証拠を見せろ」
「え……」
彫りの深い顔立ちが、真剣な眼差しで僕を見つめてくる。
「お嬢ちゃんの力で、時間をさかのぼってきたんだろ。なら、何かわかりやすい形でお嬢ちゃんの力を見せてくれよ。そしたら信じてやる」
「えっと、それは……」
僕は思わず目をそらす。
スバルの街でのことを考えると、ノエルは力を使うための体力を使い切ってしまっていて、今は時の旅人の力を使えないはずだ。
僕がおずおずとそのこと切り出そうとするのと、
「えい」
軽快なかけ声が聞こえたのは同時だった。
ひと呼吸あとに、ざぶざぶ、という派手な水音と、寡黙で屈強そうな男たちの野太い悲鳴が響き渡る。
「親方!!親方!!この子供が!」
「魚を海に捨てました!!」
「俺たちが苦労して採った魚です!!」
驚いて見ると、ノエルがけろっとした表情で、魚が入れられていたのであろう水槽を海に向かってひっくり返していた。
「な、なにしてるんだよ!?」
僕は素っ頓狂な声を上げてしまう。
「僕たち今、この人たちに命握られてるんだよ……!? 怒らせて、海に突き落とされでもしたら……!」
「まあまあ。見ててよ」
何が「まあまあ」なんだ。男たちは目をむいて拳を固めて、僕たちをにらみつけているではないか。
にこにことしているノエルはギュッと目を閉じて、顔の前で祈るように両手を組む。
「なんだなんだ………?」
突然の行動に当惑する男たちを前に、ノエルはわざとらしく「はぁぁぁぁぁっ!」と気合のおたけびを上げる。
しばらく沈黙が漂う。
聞こえるのは風と波の音だけ。
ノエルがそっと目を開けるのと、男たちが上ずった声を上げるのは同時だった。
「お、親方……」
「魚が……」
「元通りです……」
立派な口ひげの一人がレノのそばまで来て、水槽が元あった場所を指さす。レノは言葉を失っていた。
「時の旅人の力で水槽の時間を巻き戻したのか……。力がまだ残ってたのか、ノエル……!」
ノエルは笑みをこらえきれないようだ。
「そう。前回みたいに力を使い切って倒れちゃったら、肝心な時にユーマを助けてあげられないと思って、今回は少しだけ時の旅人の力を温存してみたの。どう? すごいでしょう?」
「すごいよ!」
ノエルの手を取ると、ノエルは満面の笑みを浮かべる。そのまま二人で踊りだしてしまいそうだ。
レノを振り返る。困ったように眉を下げて腕を組んだまま僕たちを見つめている。
「まあ、仕方ないよな、合格だ。認めてやるよ」
そしてレノはまた大口を開けて笑った。
「ブラッドから町を守るっていう共通の目的がある以上、これからお前らは俺たちの立派な仲間だ」
「ほんとですか! ありがとうございます!」
「おう! ちゃんと働けよ、下っ端!」
レノは白い歯を見せた。




