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再会と

 書のブラッドは実体を持たないため、おそらく何かに取り憑かなければ危害を加えることができないのだろう。

 だから、この町のブラッドクローンを利用して、街を破壊しようとしている。

 このブラッドにとって、この街というのはまさに願っても見ない格好のターゲットだったというわけだ。


「おいチビ!後ろ!」


 スバルの声が飛んでくる。僕は槍を振り回し、飛びかかってきたカエルの姿のブラッドクローンを辛うじて吹き飛ばす。


「やっぱり危なっかしいなお前……」

「誰のせいだと思ってるんですか。あとチビっていう呼び方はやめてください」


 スバルは口をへの字にして肩をすくめる。


「これ、持っとけ。槍一本じゃ心許ないだろ」


 彼がリュックサックから取り出したのは、大量の銃と短剣。


「これって……」

「対ブラッド用の武器だ。この街で独自に開発された、警備システムにも使われてる対ブラッド技術が応用されてる」

「こんなものどこで手に入れたんですか?」


 スバルはフッと鼻で笑って腰に手を当てた。


「俺が何のために毎度毎度工場に忍びこんでたと思ってるんだよ」

「まさか工場から盗んできたんですか!?」


 工場では国防設備だけでなく、そんなものまで開発されていたのか。

 とはいえ、盗みなんて全然威張れることじゃない。そんなのただの盗賊だ。

 僕の非難をよそに、スバルはさらに胸を張る。


「ああ、技術をな」

「え?」


 技術を、盗んだ?


「レシピは工場にあった。それを盗み見て、俺が作った」

「自分で対ブラッド用の武器を……?」


 博識で薬の調合に長けているうえに、そんなことまでできるのか。


「スバルさんって案外すごい人なんですね」


 お前割と失礼なこと言ってんのわかってんのか、と頭を小突かれる。


「まだまだたくさんあるから、お前はそれ使え」


 僕にくれるぶんの武器をボディバッグに詰め込んでもなお、スバルのリュックサックはパンパンに膨らんでいた。これを背負って走っているスバルの体力もすごい。さっきから感心させられてばかりだ。


「とっとと行くぞ!」


 スバルはまた走り出す。僕もそれを追う。

 雪のしんしんと舞う真夜中の闇の中を、僕たちは全力で走る。僕の頭の中には、さっきの書のブラッドの言葉がこびりついていた。あの奇妙な声がどんな声色だったのかはもううまく思い出せない。でもあの声は確かにこう言っていた。


 自分は、最強の『使い魔』だと。


 使い魔。最強の。


 書のブラッドは、何かに『使われて』いる?

 書のブラッドだけじゃない。ブラッドは、何かに『使われて』いる?

 いったい、何に。

 ブラッドをすべている存在がいる?

 だとしたら、ブラッドが生まれた原因は、そこにあるかもしれない。

 


「ユーマ!!」


 薬屋の中に入り込んだ、ワニのようなブラッドクローンの胴を紅石ごと真っ二つに切り裂いた瞬間、涙声のノエルが僕の胸に飛び込んできた。

細い体をそっと受け止め、泣きだしそうな声のノエルに小さく「ごめんね」と謝る。


「もう置いていったりしないから」


 スバルの方を振り返ると、ちょうど彼も、おばあさんの前に立ちはだかっていた足が六本ある犬のブラッドクローンを撃っていたところだった。

 幸い、ノエルもおばあさんも無傷のようだ。壁際に追い込まれて尻餅をついていたおばあさんは、杖を使ってゆっくりと立ち上がり、僕とスバルに尋ねた。


「いったいどうなっているんだい」


 静かで落ち着いた声色だったから、僕も冷静に事情を説明することができた。工場で見たこと、ブラッドクローンのこと、そして、昨日図書館で知ったこと。


「この襲撃はチャンスかもしれません。ブラッドクローンは普通のブラッドよりもずっと弱い。だけど、性質は普通のブラッドと同じです。だから、ブラッドクローンを倒すことで、僕とノエルの紅石の力が戻ってくるかもしれないんです」


 現に、おばあさんの家に戻ってくるまでに何匹かのブラッドクローンを倒して来た中で、少しずつ力が湧いてくるあの感覚があった。今ならノエルを守りながらでもなんとか戦えるだろう。ノエルも一緒に行って、この街のブラッドクローンを倒し続けたら、力は元通りになってまた過去に進めるはずだ。


「おばあさん、僕はこの街を守って来ます」


 おばあさんは僕の目をまっすぐ見て頷いた。


「ああ、任せたよ」

「ノエル、一緒に来てくれる?」


 ノエルは僕の左手を繋ぎ、笑いかけてくれる。

 スバルも銃をくるくると回して前に進み出た。


「俺も行くぞ」

「スバルのこと、頼んだよ」


 おばあさんが僕の肩にぽんと手を置く。


「行ってらっしゃい」


 その瞬間、家の中に人が入ってきた。


 その目は、不気味に紅く光っている。


「おい、お前誰だ! そこで止まれ!」


 スバルの声に全く反応しない、若い屈強そうな男は、僕たちには見向きもせず、真っ直ぐにおばあさんの方へ突き進んできた。


「おい待てよ、ばっちゃんに何する気だよ」


 男を止めようとした僕の体は、いつの間にか侵入していた別の男に後ろから殴られて床に倒れていた。なすすべもなく、おばあさんは紅い目をした男たちに連れ去られていく。


「あれ、アランさんとジェイクさんとライムさんと、それに……」


 僕と同じように床に倒されているスバルが悔しそうに床を拳で叩いた。


「全員、この街の人たちだった……」

「書のブラッドに操られてるのかな。ユーマたちが工場で見た研究員の人みたいに」


 ノエルの右の瞳が不安げに揺れる。


「あの人たちの目……なんだかすごく怖かった」

「紅く光ってたよね」

「うん、でもそれだけじゃない。あの光の奥の、あの人たちの目。怒りなのか、恐怖なのか、わからないけど、自分ではコントロールできないくらい、途方もなく大きな感情に突き動かされてるみたいだった」

「早くばっちゃんを探さないと……! ちくしょう! あいつら、どこ行きやがった……」


 スバルは苛立ちを隠せない様子で低く呻いた。


「ばっちゃんはこの街一番の物知りだ……書のブラッドが何か企んでやがるかもしれねぇ……!」


 僕たちは薬屋を飛び出し、吹雪に変わり始めた冷たい夜の底へと駆け出した。

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