魔王勇者
そう、俺は勇者だった。勇猛果敢に魔物たちをなぎ払い、さらわれた姫を助けるために魔王の城へと進むのだ。
「よくぞここまでたどりついたな、勇者よ」
「姫様を返せ、魔王!」
魔王との戦闘である。俺は魔王を斬りつけ、必殺技を使う。魔王も俺を殴りつけ、魔法を使う。
激闘の末、俺は魔王に勝利した。
「これまでだ、魔王。正義は勝つのだ」
魔王の喉頸に剣の切っ先をつきつける。
「そうだお前の勝ちだ、勇者よ。だがお前は私を殺してどうしようというのだ?」
「姫様を助ける」
「姫様を助ける?ただそれだけのためにここまで来たというのか?」
魔王が嘲笑うかのように言う。
「そうだ。お前のような悪は滅さねばならないのだ」
「悪?私が悪とはよくぞ言ったものよ!」
俺は剣を、魔王の右肩に刺した。
「お前が悪以外の何だと言うのだ!」
肩を刺された魔王は痛みを押し殺したように言う。
「私からすれば私は正義だ。今まで私のしてきた事すべてが正義であるのだ」
「なら俺が悪だと?」
「正義の反対が悪だと思うか?正義の反対は、これもまた正義なのだ。確たる悪など存在しないし、またそんな正義も存在しないのだ。正義の対が悪などとは、真に稚拙な考えよ」
俺は魔王の左肩を突き刺す。
「よく喋る魔王だな。その減らず口、切り裂いてやろうか」
「まぁよく考えてみる事だな。魔王と言う絶対悪を失ったらどうなるかを。魔王と言う悪がいるからこそ人々は団結し、協力していられるのだ。絶対悪を失った世界は見苦しいぞ。人が争いはじめるぞ。それでもお前は私を殺すというか?」
「だったら、俺が魔王になってやるよ」
魔王の喉に剣を突き刺した。レベルが上がった。
それから俺は姫様を助け出し、国に凱旋した。
王室に呼ばれ、栄誉を称えられた。褒美の1つとして名剣を姫様から受け取った。
その剣を鞘から抜き出し、前に立っている姫様の喉頸に突き刺した。王室は一瞬静まり返った。どうやら状況が飲み込めないようだ。
国王が叫ぶ。
「勇者め気が狂ったか!」
続々と兵が現れ、俺を取り囲む。それを俺は片っ端から殺していく。勇者をなめるなよ。お前らがこの国に引き篭もっている間、俺はずっと戦っていたんだぞ。レベルが違うんだよ、雑魚が。
そして最後の兵を殺した。
「どうしてしまったというのだ、勇者よ。お前はいつから悪に染まってしまったのだ?」
国王が震える声で尋ねてきた。
「俺が悪だと?俺はいつだって正義だ!」
国王を殺した。レベルが上がった。
母国を制した俺は隣国に手を出した。引き篭もりが勇者に勝てるわけもなく、いとも簡単に制圧できた。そんな感じで10のほどの国を征服した。
そんな事をしたせいか俺は魔王を呼ばれるようになっていた。悪い気分ではなかった。むしろいい気分だ。
20、50、100とどんどん国を征服していった。
そして全世界の国をすべて征服した。そのとき俺は魔王ではなく、王と呼ばれていた。
悪で始まった事が、正義になっていた。
俺は王。魔王ではないのだ。
誰もが崇め、讃え、尊敬する王なのだ。
俺が正義だった。
正義は俺だった。
これは揺るがない事実だ。
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