表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/85

第八十四話

 その日の夜、私達は同じベッドで横になっていた。

何をする事もなく、瞬はただただ私を離さないと言わんばかりに抱き締めている。

ふと手に違和感を感じて、月明かりに手をかざしてみた。想像したとおり、手は少し透けている。


私の身体を一年前に……


モンスター達の治療と同じように、心の中で念じてみる。

だけど、状況は変わらない。やはり身体は限界に近付いているようだ。


「ねぇ、瞬。お願いがあるんだけど……」


暖かい腕に包まれたまま、そっと瞬を見上げる。


「ん?何だ?」

「私が死んだ後、背中に埋め込まれている勾玉を壊して欲しいんだけど……」

「勾玉をか?」

「うん。もしかしたら私の従妹とか、その子供にも同じ力があるかもしれない。その人達に勾玉が渡れば、私や紅姫のような思いをするかもしれない。それは避けたいんだ。」


瞬は何かを考えるようやや合間を空けて、口を開いた。


「恐らくその勾玉には、強力な術が掛かっておる。簡単には壊れぬぞ。」

「瞬の力を持ったとしても無理なの?」

「酷い(おなご)であるな。残りの妖力を我に使えと言うのか。」


そう言いながらも、瞬の声は優しい。まるで喜んで引き受けるかのようだ。

だけど、その言葉に違和感を覚えた。


残りの……妖力……?


「ちょっと待って!そんな事をしたら、瞬は……」


瞬まで死んでしまう……


「気にするでない。我のように妖力が強い者は、元々寿命が短いのだ。平穏に過ごしたとしても、我の残りは四十年くらいであろう。それっぽっちの月日であっても、紫の居らぬ世に何の未練も無い。」


悲しい歴史はこれ以上繰り返して欲しく無い……こんな思いをするのは、私で終わらせたい……

でも、瞬にこれ以上の負担は掛けられない……


思わず目を伏せる私とは対照的に、瞬は笑みを浮かべて私の顔を覗き込んでくる。


「なぁ紫。我は嬉しいのだ。」

「……嬉しい?」

「美子に先立たれた颯は、深い悲しみに打ちひしがれておった。亡くなって百年以上経った今でも、時々無理に笑顔を作っておる事がある。」


人間である美子さんは、もう亡くなっていたんだ……

そうだよね……普通の人間なら、とっくの間に寿命が尽きているもんね……


「それとも紫は、また我に置いていかれる悲しみを味わえと言うのか?」

「そ、そんなつもりは……」

「ならば勾玉は我が壊す。良いな。」

「……本当にいいの?」

「あぁ、構わぬ。その代わり紫は三途の川を渡らずに、我を待っておってくれぬか?共に川を渡ろうぞ。」

「うん……ありがとう……」


私は今、瞬に"死ね"という最悪な返事をした。

だけど二人の間に、悲壮感は無い。むしろ一緒に旅立って行ける事を喜んでいる。


「紫……我は今、最高に幸せであるぞ。」

「うん……私ももう一度瞬と一緒に居れるなんて思わなかった……」


自ら顔を寄せて、瞬に口付けをせがむ。それに答えるよう、瞬もすぐに応じてくれる。


「愛……してる……」


今まで伝える事が出来なかった言葉が、吐息と共に溢れていく。

その言葉を聞いた瞬は、ガバッ!と私の身体を引き離した。


「瞬……?」


瞬は何かを耐えるよう、顔をしかめている。


「身体に負担を掛けたら……紫は……」


瞬は私の身体の心配をしているんだ……

だけど、限られた残り少ない時間、何も思い残したくない……最期までわがままでごめんね……


瞬の頬に手を添えて、そっと撫でる。


「瞬、お願い……私を抱いて……」

「だが……」

「最後にもう一度、瞬に愛されたい……もっと瞬に触れたい……」

「本当に良いのか?」

「今、すごく幸せ……だから瞬の手でもっと幸せにして……」


お互いの目を見ながら、どちらからともなくゆっくりと指と指が絡み合っていく。その先は、愛される幸せしか知らない。

姿を消して二百五十年も想い続けてくれた瞬の深い愛が、重ねられた唇を伝って流れ込んでくる。


「んっ…………瞬……」


互いの服を脱ぎ捨て一糸纏わぬ素肌が触れあうと、その愛情は全身に降り注がれ、瞬の頭を掻き抱く。


「紫……もっと…………」


傍にいる事を実感出来るよう、お互いの名前を呼び続ける。


何て幸せなんだろう……

何の罪悪感も無く、ただひたすら大好きな人に愛されるという事が……

想いのままに、愛を伝え合うという事が……


「まだ……もっと……欲しい…………」


身体の中でうごめく鼓動が激しさを増していく。二百五十年分の想いをぶつけ合い、お互いを求めていく。


このまま溺れていたい……瞬の腕の中で永遠に……


もう離れない……そんな想いを伝えるよう、いつまでも肌を重ね合った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ