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第七十二話

 「えっ?結婚?!」


瞬に、普通の人間と寿命が違う事を話さなきゃ……そう思いながらも中々言いだせずにいた週末、瞬と一緒に招かれた犬神族居城の一室で、私と瞬の結婚が認められたと聞かされた。

部屋には、幽霊状態だった時に見た、四天王と呼ばれるイケメン達が勢揃いしている。


「いや、ちょっ!どういう事か説明して!」


いきなり決められた話に、瞬へ詰め寄る。


「年明けすぐ、皆に許可を求めておったのだ。四天王は、皆の総意が無ければ婚姻出来ぬからな。」

「って事は……」

「我と紫の婚姻が、正式に認められたという事であるな♪」


あるな♪って……ど、どうしよう……


瞬は満面の笑みを浮かべ、喜びを隠しきれないようだ。


「いや……でも、みんなは、私が高倉の子孫だって知ってるの?」


私が疑問を口にすると、国宝級イケメンの颯さんが答えてくれた。


「ちゃんとみんなには説明してあるよ~!それに、石が何百年も見つかっていない状態で、今更関係無いって♪」


っていうか、勾玉は私の背中に埋め込まれてあるんだけど……


にこやかな颯さんに対して、残りの短髪マッチョ系イケメンと長い黒髪の美形イケメンの二人は、渋い顔をしている。

二人のうちのマッチョ系イケメンが、渋々といった感じで、口を開いた。


「まぁ、石が見つかったとしても、将来に渡って、犬神が責任を取ると言うのでな……」


えっと……この人は確か、雪妖族の人だっけ?確か、涼さんって言っていたような……そしてもう一人の美形イケメンは、確か烏天狗族の翔さん……二人とも心から祝福している感じには見えないけど……


私の戸惑いを感じ取ったのか、颯さんが明るい声を上げる。


「これで結婚も承認されたし、瞬も年貢の納め時だね♪」


年貢の納め時って……その言い方、喜べないんだけど……


「大丈夫であるぞ!もう紫以外に抱く事は無いであろうしな♪」


瞬……みんなの前で宣言されると、恥ずかしいんだけど……


「そもそも、手付けもまだでしょう。」


美形イケメンの翔さんが、ボソッと呟く。


あはは……やっぱりみんな分かるんだね……

それよりも、全員が納得した承認では無さそうだけど……


私の戸惑いに気付いていないのか、美形イケメンの翔さんの言葉に反応した瞬は、ガバッ!と私を横抱きにして、立ち上がった。


「うわわっ!」


驚いて、咄嗟に瞬の首に抱きつく。


「紫。皆に承認された事であるし、これで遠慮無く手付け出来るな♪」

「いや、ちょっと待って!」

「これ以上は待たれぬな♪」


そして瞬は、みんなに向き直って、堂々と宣言をする。


「では、我らは先に失礼するぞ!紫に手付けをせねばならぬからな♪」


なっ!何て事を、ここで宣言するのよっ!


「紫ちゃん、頑張ってね~♪」


颯さんが、ヒラヒラと手を振っている。


が、頑張るって、何をっ?!頑張らないといけないものなの?!


そんな動揺をしている間にも、瞬は私を横抱きにしたまま、お城を飛び出していく。


「瞬!ちょっと待てって!」

「これ以上は何も待たれぬな♪」

「いや、マジで!」


手付けで頭が一杯らしい瞬は何処吹く風といった感じで、私の制止の声にも構わず、妖狐族の屋敷へ走り戻っていった。





 瞬は、妖狐族屋敷の離れの部屋へ入ると同時に、私をベッドへと下ろして、覆い被さるように見下ろしてきた。


「紫……一生大事にするからな……」


瞬が私の頬を優しく撫でながら、甘い声で囁いてくる。その声と心地よい手に、抵抗する事を忘れそうになる。


「私は……」


って、いや!長生きすることを言わないと!


流されそうになる雰囲気を消すように必死に手を伸ばして、瞬が近付けようとする顔を押し退ける。


「良く無いっ!」

「我はもう待てぬ!」

「だから、駄目だって!」

「今度は何が駄目なのだ!」

「話を聞け~~~!!!」


一際大きな声を出して抵抗すると、瞬はピタッと動きを止めた。何とか瞬の腕の中から抜け出し、ベッドの上に向かい合って、正座をする。


「それで、話とは何だ?」

「あのさ……実は……」


ここでやっと勾玉の影響から、私の成長が遅い事、他の人間よりも長生きする可能性がある事を、自分の頭の中を整理するように、ゆっくりと説明をする。

聞き終えた瞬は、少し複雑そうな顔をしながらも、私を安心させるような笑顔を向けて、ふわりと両手で包み込むようにしてきた。


「紫が長生きするという事は、我にとっては喜ばしい事だ。」

「うん……」

「それと同時に、紫自身、人間界での生活も難しくなるであろう。」

「……そうだね。」

「四天王の皆には、我からもう一度話をしてみよう。それと同時に、紫は、もののけ界の宝となる。だが、我とて黙って引き離されることは受け入れぬ。」

「……」


本当に瞬と結婚出来るなら、そんな幸せな結末は無い……だけど、勾玉があるのなら認めて貰えない可能性が高いよね……


不安が伝わったのか、私を包み込む瞬の腕に少しだけ力が入り、私をあやすように髪の毛を梳いてきた。


「大丈夫だ……我には、紫と一緒にこの世界で幸せに暮らしておる姿しか、思い浮かばぬ。」

「……どんな姿なの?」

「紫が赤子を抱き、我が幼子の手を引いておる姿だ。紫の作った”そうせいじ”を挟んだ”ぱん”とやらを弁当にし、皆で出かけようでは無いか。」


パンにソーセージを挟んだだけのお弁当って、お金が無かった頃の話じゃん……出来れば、記憶から消し去って欲しいんだけど……


「そのお弁当、中身を変えてもいい?他にも作れるし……」

「構わぬぞ。そして縁側で桜を見ながら、共に歳を取ろうではないか。じじいとばばあになっても共にな。」

「うん……素敵な夢だね……」


本当に……本当に現実になれば、幸せな将来だな……


「それに……」


瞬の腕の中でほっこりしていると、瞬は更に続けてきた。


「紫は、我に抱かれることは、やぶさかでは無いようであるしな♪」

「……へっ?!」


ほっこりした心がクリアになり、腕の中で瞬の顔を見上げる。瞬はにやりと勝ち誇ったように笑っている。


「い、いや……それは……」

「今しがた、素敵な夢と申したではないか。この期に及んで、嘘とは申すまい。」


うっ……結局私の気持ちなんてバレバレじゃん……


「ま、まぁ……将来的には、そうなる事も……」


恥ずかしさから、段々と語尾が小さくなっていく。


って、顔が熱くなってきたっ!!


「ぷぷっ!紫、顔が真っ赤であるぞ♪」

「う、煩いっ!!」


真っ赤になった顔を見られないよう俯いて、瞬の逞しい胸に顔を埋める。瞬は私を懐に抱きしめたまま、ゴロンとベッドへ横になった。


「次こそ婚姻が決まれば、紫を満足いくまで抱く故、覚悟しておけよ。」

「……へっ?」


満足いくまでって、ど~ゆ~事?!未知の世界だけに、何て返事をすれば正解か、わからないしっ!

い、一体、私は何をすれば……って、聞けないっ!


一人あたふたしていると、瞬がドヤ顔で私の顔を覗き込んでくる。


「心配するでない。紫はただ、我に愛されておれば良い。大切にする故、我に全てを委ねろ。」

「うん……わかった。」


瞬は再び私の頭を自分の胸に抱き寄せて、髪の毛を優しく撫でてきた。その暖かい腕の中で、そっと目を閉じる。


この温もりは失いたくない……何があっても二人なら大丈夫……きっと、思い描く幸せな未来が待っている……


この時は確信していた。決してこの気持ちは、揺らぐ事が無いと……




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