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第七十一話

 瞬のお父さんの葬儀も終わり、妖狐族も落ち着きを取り戻してきた頃、いつものとおり仕事をこなしていると、後輩から話し掛けられた。


「日向さんって、いつも爪を綺麗にされていますね~。何処のネイルサロンに行ってるんですか?」

「えっ?」


後輩は私のデスクに軽く腰掛け、私の手に注目している。


「だって、ジェルネイルなら、伸びてきたところが目立っちゃうけど、日向さん、いつも綺麗ですから。」


確かにパソコン仕事だから、爪を強化する為に、定期的にネイルサロンには通っている。だけど最近行って無い事に、後輩の指摘で気付いた。


言われてみれば、爪がほとんど伸びて無い……どういう事?!


「あ……えっと、これは……」


言葉に詰まっていると、後輩は勝手に解釈してくれたのか、何かを思い付いた素振りをした。


「分かった!自分でやってるんですね!伸びてきても、すぐに直せますもんね~♪」

「あ……ま、まぁね。」

「流石は先輩です♪カッコいい彼氏がいると、女子力も高いですね!」

「あは……あはは……そ、そうでも無いけど……」


に、苦笑いしか出来ない……

それよりもしかして私、成長が止まった?ま、まさかね……


ふと思い出すのは、勾玉が埋め込まれてずっと封印されていた鬼塚部長の事だ。


鬼塚部長、約四百年の間、あまり見た目が変わってなかったよね……封印の影響があるかもしれないけど……

まさか、私も何百年も生きる?!普通の人としてあり得ないじゃん!

もし普通の人間の私が何百年も生きたら、勾玉を持っている事もバレてしまう……


後輩が去っていった後も、呆然と自分の爪を見つめ続けた。





 「日向さん、少し宜しいですか?」


話し掛けられる声に、はっ!と我に返ると、天鼠部長が手招きをしていた。


「あ、はい!」


急いでデスクから立ち上がり、天鼠部長に続いて、空いているミーティングルームへと入る。すると天鼠部長はすぐに声を潜めてきた。


「何かありましたか?」

「えっ?な、何って……」

「先ほどから、顔色が優れないようでしたので。」

「そ、そんな顔色をしていましたか?」

「ええ。かなり分かりやすく……」


そんなに分かりやすく、態度に出ていたかな……

そういえば天鼠部長は、私が勾玉を持っている事も、鬼塚部長が封印されていた事も、知っているよね……ちょっと聞いて見ようかな……


「あの……」

「はい。」

「さっき気付いたのですが、私、爪が伸びていない気がして……何か勾玉の影響があるのなら、鬼塚部長のように……」


成長が止まってしまった……頭では分かっているのに、それ以上を口にする事は出来なかった。


「……状況は理解しました。」


私が全てを語らなくても、天鼠部長には分かって貰えたみたいだ。そして、一つの提案をしてくれた。


「私の知り合いに、モンスター専門の医師がいます。一度そこで調べて貰ったらいかがですか?」

「も、モンスター……ですか?!」


わ、私って、モンスターの領域なの?!


想像を越えた提案の方に、頭を殴られたような大きな衝撃を覚えてしまう。

私の衝撃を察したのか、天鼠部長は宥めるように、笑顔を向けてきた。


「本来は我々のような日本に住むモンスター専門の医師ですが、我々と結婚した人間も通いますよ。産まれてくる子供が人でない姿であれば、人間の病院が大騒ぎになってしまいますからね。」

「そ、そうなんですね……」

「なので、勾玉の事は黙っておいて、細胞の成長を調べて貰いましょう。勘違いなら、それで安心できますからね。」

「そ、そうですね……」


モンスター……モンスター……私はモンスター状態……


その衝撃的な言葉を頭の中で理解する事も出来ないまま、勤務時間が終わるとすぐに、怪しげなビルの地下室へ連れて行かれた。





 「細胞診の結果ですが……」


医者がゆっくりと口を開く。

地下室で待っていたのは、美華と天鼠部長の結婚披露パーティーにも来ていた、フランケンだった。


この人、医者だったのね……ってか、頭から生えてる太いネジ、どうなってるんだろう……


医者のフランケンは、簡単な問診で症状を聞き出した後すぐに手際よく私の指先を少し傷付けて、細胞の欠片を取り、すぐにシャーレに乗せて、怪しげな震える機械の上に置いた。

そして、一時間くらいで結果が出るというので、そのまま病院とは言い難い、薄暗くコンクリート剥き出しの部屋で、待っていたのだ。


「……どうでしょうか?」


再び呼ばれた診察室らしき部屋の中、ゴクッと生唾を飲み込み、医者からの説明を促す。

フランケンシュタインの医者は、言いにくそうに口を開いた。


「貴女の成長は、普通の人間の十分の一程です。つまり、普通の人間が10年老ける間、貴女は1年しか老けません。そして、その影響かもしれませんが、細胞の修復能力が格段に速くなっています。」

「……えっ?!ちょ、ちょっと待って下さい!普通の人間が後60年くらい生きるとして、私は600年生きるんですか?!」


私の言葉を聞いたフランケンシュタインの医者は、ははっ!と苦笑いをして、また説明を始める。


「原理としてはそうなりますが、その前に元々人間である貴女の身体が持たないでしょう。せいぜい長生きしても2~300年だと思いますよ。」

「そ、そうですか……」


思った以上に、長生きはしないもんだな……

って、いやいや!充分、異常事態じゃん!


突き付けられてきた事実に呆然としていると、天鼠部長が気遣わしげに話しかけてくる。


「大丈夫です。瞬さんなら、全てを受け止めてくれますよ。むしろ、愛する女性が長生きすると聞いて、喜ぶのではないでしょうか。」

「……」


確かに瞬は、喜んでくれるかもしれない……でも、勾玉を持っている事がバレれば、瞬と一緒にいる事さえも出来なくなるかもしれない……


頭の中は、目まぐるしく否定的な言葉しか浮かんで来ず、呆然としたまま返事をする事が出来なかった。




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