第七話
「最終確認をしたのか!手抜きをしているから、こんなバグに気付かないんだ!」
会社の部に飛び込むや否や、鬼塚部長の怒号が聞こえてきた。怒られているのは週末にレイアウト崩れを起こした“戦国侍・恋の関ヶ原”の担当者だ。
うわ……鬼塚部長、機嫌悪そう……
飛び火しないよう、こっそりと自分のデスクに座る。
出勤前に買った、お気に入りのコンビニのカフェオレに口をつけた時、ガシッ!と頭を掴まれた。
「日向……出勤しても、俺に挨拶無しか……」
こ、この声は……鬼……
「お、おはようございます……お取り込み中かと思いまして……」
おそるおそる振り返ると、そこにいたのは予想通り引き攣った笑みからブラックオーラがだだ漏れの鬼塚部長……
「ほう……気を遣ったという事にしてやろう……」
「あ、有り難き幸せです……」
「今日の予定は?」
「ひ、昼イチからイベントの打ち合わせです……」
「なら夕方から時間はあるな。空けておけ。」
「何かあるんですか?」
「新ゲームの企画会議だ。」
「はい……ん……?」
し、新ゲーム?!
「……私が新ゲームですか?マジですか?」
「“本気”と書いて“マジ”だ。コンペを勝ち抜けばライターのリーダーになって、動いて貰うからな。」
「や、やったぁ~♪」
思わずガッツポーズ!
「どうせ、彼氏も居ないし暇だろ?プレゼンでは、お前の妄想力を発揮しろよ。」
「うっ……わかりました……」
「頼んだぞ。」
ったく、一言多いっちゅ~の!
でも、前から新ゲームの立ち上げには関わりたかったし、めちゃめちゃ嬉しいかも♪
鼻歌が漏れそうなくらい上機嫌で、昼からの仕事をこなしていった。
「瞬は妖狐族って言ってたよね?他にはどんな種族がいるの?」
「我以外にか?」
「うん。」
アパートの部屋へ戻るや否や、新ゲームの設定の参考にと、メモを片手に瞬へ取材をしている。瞬はちょっと驚いた表情を浮かべながら、少し言い難そうに口を開いた。
「あまり詳しい話を人間に漏らす事は出来ぬが……」
「そうなの?話せる範囲で構わないんだけど。」
「まぁ、紫は我の素性を知っておるから大丈夫であろう。だが、物語の参考にするのであれば、聞いた事そのものを載せるのは、避けれるか?」
「うん。設定以外は妄想だから、大丈夫だよ。」
「妄想かよ……」
瞬は苦笑いをしながらも、瞬の世界の話を色々と教えてくれた。
「前にも話した我の幼馴染みは、犬神族であるな。因みに嫁は人間だ。」
「へぇ。妖怪と人間って、結婚出来るんだ。」
「妖怪……まぁあながち間違いでは無いが、もののけと言って欲しいかな。」
「もののけね……」
瞬の話を聞きながら、メモを取る手を休めずに動かしていく。
「その幼馴染みは、どんな性格?やっぱり瞬と同じように、女ったらしなの?」
「紫……お主、さりげなく毒を吐くな……」
ジト目を向けてくる瞬を、華麗にスルーして話を進める。
「で、どうなの?」
「……無きものにしたな……まぁ、奴は一言で言えば一途だな。ずっと嫁一筋で種族の名前みたく、いつも嫁にじゃれついつおるぞ。」
「へぇ~。」
犬神族はわんこみたいな性格っと……小型犬みたいだと新ゲームのテーマである”癒し”にもぴったりかな……
「他にもいるの?」
「烏天狗族は、腹黒だぞ。水妖族の人魚は俺様で偉そうな奴だ。」
「成る程……」
「雪妖族には雪男と雪女がおるが、言う事と本心が違うようだ。」
「もしかして、ツンデレさん?」
「そのようにも言うな。だが、あいつらは怒らせたら怖いぞ。すぐに氷浸けにしてくる。」
「そ、それは確かに怖いね……」
作った雪だるまが人間になるパターンって、いけるかな……それとも雪ウサギか……
「後は?」
「鉄鼠族、鬼神族、海を挟めばイエティ、猿神……」
イエティって、UMAじゃん……そんな事を言ったら、雪男と雪女も近いものがあるよな……目の前にいる瞬自体が非科学的だし……
いや、だから、深く考えたら負けだってば……
「紫、どうかしたか?」
考え込む私の顔を、瞬が覗き込んでくる。
「な、何でも無いよ!色々いるんだなぁって思っただけ!」
「もののけの中には、人間界に馴染んでおるものも多いぞ。」
「そうなの?」
「案外、紫の近くにもおるやもしれぬな。」
だよね……目の前にいるし……
黙っていれば、最高に綺麗な顔立ちが……
「まっ!仕事の参考になったわ!ありがとね♪」
「対価なら色気は足りぬが、身体で払ってもらうとして……」
ぶっ!
思わず吹き出しそうになる。
「な、何を急に!ってか、何で身体で払うが前提なのよっ!しかも、色気が足りないとか、サラッと毒吐いたよね?!」
「やけにウブな反応をするな。もしや紫は生娘……」
「馬鹿だろっ!暫くご無沙汰なだけだもん!それ以上口を開くと実力行使に出るからね!」
ニヤニヤする瞬の言葉を遮るよう、大きな声を上げる。
「ほう、どうするのだ?夜這いなら歓迎するぞ♪」
「子狐の間に、口を塞いでやる……」
ジロッと睨みながら凄むと、瞬はわざとらしく肩を竦めた。
「お~!怖い怖いっ!動物虐待ではないか!」
「てめぇ……居候の身分だという事を忘れるなよ……」
「りょ~かいっ♪」
絶対わかって無いな……笑いを抑えきれて無いじゃん……
腑に落ちないながらも立ち上がり、今夜もホットドックもどきの夕食を用意した。