第六十三話
三日目の朝を迎えた。瞬はずっと一睡もしていない。瞬と違って、空腹も眠気も感じない私は、いたって呑気なものだ。日に日にやつれていく瞬を見ると、こっちが申し訳なくなってくる。
そういえば颯さんは、瞬があまり寝ていないって言ってたよな……人間より体力はあるって言ってたけど、このままだと倒れてしまいそう……
今回の事だって、正妻さんと元婚約者さんの仕業だし、そんなに、瞬が責任を感じなくても……
「瞬、いいかな?」
颯さんの声が部屋の外から聞こえると、瞬は立ち上がり、少しふらつきながら部屋の扉を開ける。
そして、次々とイケメン達が部屋の中へ入ってきた。
うわっ!何?このイケメン揃いは!
一人は短髪で体格の良いマッチョ系、もう一人は黒い長髪で女の人みたいに綺麗な美形イケメン。国宝級イケメンの颯さんに、二次元系イケメンの瞬と四人も揃い、圧巻の光景になっている。
も、もしかして、私、やっぱり今日で死ぬの?神様が、最期に楽しませてくれているとか……
神様、ありがとう……
感動すら覚えて、思わず両手を合わせて四人を拝んでしまう。
そんな私を知る由もなく、四人はベッドの周りに座り、神妙な顔を付き合わせた。
「かまいたちですが、今回の件に関与した者は、全員捕らえましたよ。」
「翔、手を煩わせたな。」
長い黒髪の美形イケメンが瞬に話し掛けると、瞬もそれに応える。
あれ?翔って名前、聞いた事がある……確か、最初に陸さんが来た時、瞬が烏に襲われた事を翔に言っておけって……
って事は、この人は烏天狗族?
もしこの四人がもののけ界の四天王だとすれば、残りのマッチョ系イケメンは……
「後は、妖孤の二人だけだ。逃げるようなら氷付けにするから、後は任せろ。」
マッチョ系イケメンが瞬の肩に手を置き、瞬を労っている。
やっぱり!この人は雪妖族の人だ!
四天王って、顔で選ばれるの?!イケメン四天王じゃん♪
そんな事を呑気に考えていると、四人はすくっと立ち上がった。
「涼さん、大丈夫です。……我が決着をつける。」
瞬が拳をギュッと握ると瞳に強い輝きが戻り、他の三人はそれを見て軽く頷く。
「じゃぁ、決着をつけに行こうか。」
颯さんの言葉を合図に、四人は揃って部屋を出て行った。
な、何?何が始まるの?
胸騒ぎを覚え、四人に付いて部屋を出た。
四人が向かった先は、妖孤族屋敷の母屋にある大広間だった。あらかじめ知らされてあったのか、大広間には妖孤族の人達が勢揃いしている。高座には瞬のお父さん、高座から一番近い場合には、正妻さんと元婚約者さんも座っている。
「瞬、皆で何用だ。」
瞬のお父さんが、睨み付けるように瞬へ尋ねる。瞬はそれを正面から見据えて、口を開いた。
「妖孤族当主の正妻、及びその姪を捕らえに来ました。」
瞬の言葉に、大広間がざわざわとどよめいた。そんな中、瞬のお父さんと正妻さん、元婚約者さんは冷静で、表情一つ変える事が無い。
「どんな罪状だ。」
瞬のお父さんは平然と問いかける。
「私の兄上である陽の殺人、そして、私と紫の暗殺未遂です。」
「何だと?」
瞬のお父さんがこめかみをピクリと動かした。だけど正妻さんは冷たい目を瞬に向けたまま、鼻で笑った。
「何を言い出すかと思えば、笑い話にもならないわね。何の証拠があると言うの?それとも紫という人間が目を覚まして、絵空事でも言ったのかしら。」
「紫はまだ目覚めておりませぬ。」
「根拠を示して頂かない事には、ただの言いがかりに過ぎないわ。」
あくまでも罪を認めない正妻さんを睨み付けたまま、瞬はパチンと指を弾き、大広間の扉を開けた。そして美華が大広間に入ってきた。
「この者に、見覚えは?」
美華を見た正妻さんと元婚約者さんは、驚いたように目を見開いた。
「な、何も知らないわ!初めて見る顔よ!」
明らかに狼狽える正妻さんに、美華が追い詰めていく。
「ほう。紫と一緒にいた私の顔は覚えていないと……私の人間の器を壊すよう、かまいたちに指示した癖に。そうそう、前回は兄の方を殺したから、報酬を払って無いそうね。」
「何の事よ!お前のような小娘の言う事など誰も信じないわ!」
更に動揺を見せる正妻さんに、美形イケメンの翔さんが呆れたように言い放つ。
「残念ですが、実行犯のかまいたちも捕らえています。自供も取ってありますよ。」
「し、仕組まれたのよ!私は何も悪く無いわ!」
正妻さんと元婚約者さんが立ち上がって逃げようとした瞬間、瞬が縄のように細い狐火を投げつけて拘束する。それと同時にマッチョ系イケメンの涼さんが手をかざして、正妻さんと元婚約者さんの下半身を氷付けにした。
わわっ!これが、颯さんのお城を氷付けにした人なんだ!
初めて見た雪妖族の術に、思わず目を見張ってしまう。
ドカッ!
「きゃぁっ!」
瞬のお父さんが立ち上がり、正妻さんを殴り付けた。
「お前達の価値など、高倉の価値に比べれば屑同様!妖力の低い者しか産まぬ癖に、何様のつもりだ!」
そして、颯さんに向かって口を開く。
「これは妖孤族の問題だ。この者達の処分は、ワシに任せて貰おう。」
ひ、酷い……いくら何でも、自分の奥さんの……女性の顔を殴りつけるなんて……
そんな瞬のお父さんと颯さんの間に、瞬が身体を割り込ませた。
「残念だが、父上にその権利は無い。たった今、父上には当主を辞めて頂く。自身の奥方の悪行を野放しにした事が、今回の一因である事は明白。そなたは、一族を束ねる器では無い。」
「何だと?!誰に向かって口を利いておるのだ!」
「元、当主だ。」
「元……瞬、貴様は……」
怒りに震える瞬のお父さんに、瞬は冷静に言い放つ。
「更に、そなたは人間界にて人間の器に入れぬよう我に術を掛け、危うくもののけの存在を明らかにするところであった。同胞達を危険に晒すその行為は、見過ごす訳には行かぬ。よって、謹慎を言い渡す。隠居して大人しくするが良い。」
「瞬!貴様、ワシに命令するつもりか!」
「これは、四天王全員の総意である故、もうそなたに味方する者はおらぬ。不満があるならば、紫が初めてここへ来た時の罪を足しても良いが。その場合は隠居で済まされると思いますまい。」
「くっ……」
瞬のお父さんは悔しそうに大広間を去って行った。正妻さんと元婚約者さんは、処分が決まるまで牢へ入るらしく、颯さん達が連れて大広間を出て行った。
瞬は高座へ上がり、大広間にいる妖孤族のみんなに向かって、声を張り上げた。
「たった今より、妖孤族の当主は我となった!不満がある者は、我に従わぬでも良い!今すぐこの場から立ち去れ!」
瞬の言葉に、大広間は水を打ったように静まり返っている。その中、白髪頭の一人が立ち上がって、瞬に頭を下げた。
「若様……いえ、御屋形様……私は御隠居となられた元当主が幼少の頃より、お仕えして参りました。どうか、隠居の身を支える事をお許し下さい。」
それを聞いた瞬は、穏やかに微笑んだ。それを肯定と捕らえた白髪頭の一人は深々と頭を下げ、静かに大広間を去っていく。
それを見計らったように、陸さんが片膝をついて、瞬に頭を下げた。
「私は、新たに御屋形様となられました瞬様に、揺るぎ無い忠誠を誓い、未来永劫お仕え申し上げます。」
陸さんを皮切りに、波打つように大広間に残った全員が、頭を下げて口々に瞬への忠誠を誓っていく。
し、瞬……カッコいい……
堂々と高座に立つ瞬は、息を飲む程威厳に満ちていて、正に一族の長に相応しい佇まいだった。




