第五十九話
年末も差し迫った十二月二十四日、美華と天鼠部長の結婚式が執り行われた。
とは言うものの、ドレスが着たい美華と十字架が苦手なエルザさんの為に、ビュヴールを貸し切ってのレストランウェディングだ。
「美華、おめでとう~!すっごく綺麗だよ♪」
「紫、ありがとう~♪」
美華は、ミニ丈の白いウェディングドレスを着ていて、スレンダーな美華によく似合っていた。
天鼠部長は、淡いグレーのタキシードに身を包んでいる。こっちも、モデル顔負けの着こなしだ。
「天鼠部長も、おめでとうございます!」
「ありがとうございます。」
入り口で出席者を出迎える新郎新婦と挨拶を交わして、店の中に入る。
しかし、出席者の中で人間って、私だけじゃない……?
そこかしこに黒い羽を広げた人、お尻から尻尾を出している人……あっ、フランケン発見……絶対、天鼠部長の知り合いだな……
出席者の中には、エルザさんの姿もある。そして、ついつい瞬の姿を探してしまう。
「はぁ……居ないか……」
会いたいけど、会うのは気まずい……最後の夜の事が、どうやっても記憶に甦って来ない……
思わず目を伏せると、ポンと肩を叩かれた。
えっ?もしかして瞬?
はっ!と振り向くと、そこには瞬ではなく、癒し系国宝級イケメンが微笑みながら立っていた。
「なんだ、颯さんか……」
「紫ちゃん、そこまでガッカリしなくても……」
「す、すみません……そんなつもりは……」
急いで否定するものの、颯さんは苦笑いを浮かべている。
「いいよ。気にしないで。今日は忙しい瞬の代理で出席しただけだし♪」
あ……瞬は今日は来ないんだ……
そして颯さんは、私をボックス席に促した。
「紫ちゃん、元気だった?」
席に座ってすぐに、颯さんは人懐っこい笑顔を向けてきた。その笑顔に安心感を覚えて、ホッとしてしまう。
流石は国宝級イケメンにして、もののけ界の総大将……笑顔だけで人たらしとは、人身掌握術に長けているわ……
その言葉は封印して、当たり障りの無い返事をする。
「はい。元気にやってます。」
「お仕事は相変わらず忙しいの?」
「そうですね。」
「そっか。もののけの世界に遊びに来る事って無いの?」
「それは……無理ですね……」
颯さんは聞いていないんだ……もう私と瞬が二度と会う事が無いって……
「瞬は、当主代理で忙しく走り回っているよ。当主の言動を詫びる為に、他の種族にも出向いているしね。」
瞬は当主になる為に、私との婚約を破棄出来るように走り回っているんだ……
複雑な気持ちを悟られないよう、無難に返す。
「瞬は……頑張っているんですね。」
「うん。こっちが心配になるくらいにね。夜も眠れていないみたいだし。」
「えっ?そうなんですか?」
もしかして、また命を狙われる状態になっているとか……?
そう心配したけど、理由は違ったみたいだ。
「瞬がお兄さんを目の前で亡くしたのは、知ってる?」
「あ、はい……瞬を庇って亡くなったと、聞いています。」
「もののけの世界って、割りと生死を目にする機会ってあるんだよね。でも瞬は、その初めてが、お兄さんの死だったんだ。」
「えっ……?」
「今でもその時の夢を見るらしく、一人で寝るのを嫌がるんだよね。それもあって、よく言い寄る女の子と一夜を供にしていたんだよ。それでも、熟睡は無理だったらしいけど。」
「そう……ですか……」
もしかして瞬を拾ってきた日、夢の中で瞬がうなされていたのって、私が寝ぼけていただけで、本当の事だったの?
よく勝手に布団に潜り込んできたのは、その為……?
「紫ちゃんと暮らしてから、よく眠れているみたいだったし、安心してたんだけど……」
瞬はまた、女の子と一夜を供にしているのかな……でも、私がそれを咎める事は出来ない……それに、私もその一人……
「瞬はまた……」
言葉に詰まり、それを誤魔化す為、手に持っていたマティーニに口を付ける。颯さんは私が言わんとしていた事が分かったのか、話を続けてくる。
「安心して。今は誰とも一夜を供にしていないよ。紫ちゃん一筋だからさ。」
「そうですか……」
「でも、びっくりしたよ。ずっと一緒に居たのに、瞬が紫ちゃんに手付けをしないなんて。」
「……へっ?」
「本当に瞬は、紫ちゃんの事を大事にしているんだね♪」
ちょっと!それ、どういう事?!
「颯さん!私は瞬に手付けされていないの?!」
思わず前のめりで、颯さんに詰め寄る。
「えっ?えっ?な、何で?」
「どうなんですかっ!」
「け、気配はしないけど……」
颯さんはしどろもどろになりながらも、答えてくれる。
「そっかぁ……」
良かったぁ……初めての記憶が無いという状態ではなくて……
「……紫ちゃん、いきなりどうしたの?」
ホッとしていると、颯さんが恐る恐る尋ねてくる。
ん……?ちょっと待って……なら私は何で、あの夜に裸で寝ていたの……?
もしかして、瞬の悪戯……
「あのエロ狐……」
怒りが沸々と沸いてきて、拳をギュッと握り締める。私の怒りを悟ったのか、颯さんが席を立とうとする。
「あ、そろそろ他の人の所に……」
ガシッ!と颯さんの腕を掴んで、席を立つのを引き止める。
「颯さん……瞬に伝言をお願い出来ますか?」
「う、うん……何かな……?」
「『変な悪戯してんじゃねぇよ!このエロ狐がっ!』と、必ず伝えて下さい!」
「わ、分かった……必ず伝えるよ……」
「よろしくお願いします!」
ったく!心配して損した!
あのエロ狐、今度会う事があったら、ボロくそに文句言ってやるっ!




