第五十五話
やってきたデートの日、最初に出掛けたのはアパレルショップだ。そこで瞬の服を見繕う。
えっと……髪の色に合わせて、シンプルなモノトーンがいいかな……
黒のジャケットに定番の白シャツ、細身のデニムを瞬に手渡す。
「多分サイズも大丈夫だと思う存分けど、合わなかったら言ってね。」
「承知♪」
瞬は嬉しそうに服を手に取り、試着室へ入っていく。暫くすると、中から瞬の声が聞こえてきた。
「紫?これで良いのか分からぬが……」
「もう着た?」
「多分着れておると思う。」
「ちょっと出て来てくれる?」
試着室のカーテンが開き、瞬が中から出てくる。
うわっ!か、格好いい!
格好いいなんて言葉では片付けられない程、モデルさん以上に洋服を着こなしていた。
鏡に向かって不安そうに姿を確認する仕草さえ様になり、顔を動かす度にサラサラと揺れる絹糸のような銀色の髪の毛一本までもが、人には出せない妖しい色気を放出している。
「た、丈は大丈夫そうですね♪」
様子を見に来た店員さんも、目をハートにしているくらいだ。
「紫、これで良いのか?」
「う、うん……大丈夫だと思う……」
わ、私、こんな格好いい人とデートするんだ……心臓がヤバいかも……
最近は見慣れてきたとはいえ、改めて瞬から溢れ出る眩しいフェロモンに、ドキドキが止まらなくなる。
「紫、もしかして、我に惚れ直したか?」
ニヤリと私の顔を覗き込んでくる瞬から、一歩下がって平静を保つよう努める。
「も、元々惚れて無いから、惚れ直すってのは違うから!」
「な~んだ!残念♪」
ちっとも残念そうな素振りを見せない瞬は、服を着たまま精算してもらい、店を出た。
「ところで紫、人間界の逢瀬の定番とは、何だ?」
店を出て暫く歩いていると、瞬が尋ねてくる。
「う~ん……定番は遊園地で遊ぶ感じかな?」
無難に有りがちな返事をすると、瞬は、ぱあっ!と弾けるような笑顔を向けて、手を引っ張ってきた。
「よし!ならばそこへ行こうではないか♪遊園地とは面白い場所であると聞いておるぞ!」
「えっ?でも、そんなにまだ生活が潤って無いから、ウインドウショッピングでも……」
給料が入ったとはいえ、貯金の無い生活では豪遊する余裕なんて無い。ボーナスを貰うまではまだ厳しい。断るものの、瞬も譲るつもりは無いらしい。
「最後の逢瀬で野暮な事を気にするでない。我が人間界のバイト代を持っておっても不要である故、どちらにせよ今日中に全部使わねばならぬ。」
そっか……もののけの世界へ帰ると、人間界のお金は要らないもんね……
「な、なら、お言葉に甘えて……ありがとう……」
お礼を言うと、瞬も嬉しそうに笑顔を向けてくれる。
そして、最後のデートになる遊園地へ、手を繋いだまま向かった。
「ひゃっほ~♪」
「うぉ~♪」
遊園地のジェットコースターに、私と瞬の楽しい悲鳴が響いている。瞬は特に絶叫系がお気に入りで、降りた後も、ハイテンションだ。
「紫、もう一度乗るぞ♪」
「え~!流石に四連続で絶叫系はキツいよ!」
「良いでは無いか!このような楽しい物とは思わなかったぞ♪」
「ちょっと休憩を挟ませてよ!次はおばけ屋敷なんてどう?」
「おばけ屋敷?向こうの世界で、たっぷり見たであろう。」
「そうだった……」
しかも、作り物では無い、本物のろくろ首とか一つ目小僧が居たよね……吸血鬼まで知り合いになったし……
それよりも、他に乗り物は……
「そうだ!観覧車はどう?」
「観覧車?」
「うん!高い所まで昇るから、見晴らしがいいよ♪」
そして、瞬の手を引っ張り、観覧車へ向かった。
「おお!高いな!」
観覧車に乗ると、瞬は物珍しそうに窓の外を見ている。私は首にぶら下げていた勾玉を取り出して、瞬に渡した。
「はい。これ、プレゼント。」
「えっ?どういう事だ?」
私から差し出された勾玉を見て、瞬は受け取るのを戸惑っている。
「今まで勾玉が無くても普通に生きて来られたし、もう私には必要ないから。瞬が持っていて。」
「紫……それは、もののけからの決別か?」
頷けばいいのに、それが出来ない……
言葉に詰まって少し俯くと、瞬が続きを促すよう私の頬にそっと触れてきた。
「何故、即答出来ぬ。何故、我の顔を見ぬ。」
「……」
「紫の本音を聞かせてくれぬか?」
そんなの言える訳無い……結ばれないと分かっているのに、瞬が好きだなんて……
気持ちを押し殺し、肩を竦めてわざとおどけてみせる。
「人間の寿命は短いんだから、早く当主になって、私を解放してよね!」
私の真意を見極めるよう、瞬は私の顔をじっと見つめている。だけど、笑顔を崩さない私に諦めたのか、ふっと息を軽く吐き出して表情を崩した。
「ならば、当主になるのを遅らせるか。」
瞬は、わざとらしくニヤッと笑っている。
「もう!結婚適齢期が過ぎちゃうじゃん!」
「行かず後家で婆さんになれば、我が介護してやる。」
「ふふっ!ボケて大変かもよ~♪」
それからは何かを忘れるように、二人とも子供のようにはしゃいで過ごした。




