表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/85

第四十九話

 宴も酣な時、私と瞬は一足お先にお暇する事になった。


「それでは父上、お先に失礼します。」


瞬のお父さんに頭を下げる瞬にならって、隣で私も頭を下げる。


「うむ。仲睦まじいようで、何よりだ。瞬はそのまま人間界に留まり、更に仲を深めるよう努めよ。意味は分かるな?」

「はい。」


更に仲をって意味、何だろう……付き合ってるっていうだけでは、駄目なの……?


承知したかのように返事をする瞬の横で、疑問に思いながらも平静を装う。

続けて、瞬のお父さんは私に話し掛けてきた。


「紫さんも、手付けが終われば他の種族に狙われぬだろう。そうすれば、こちらに住む事も出来る。次期当主がいつまでも人間界で過ごす事は難しい故、そのつもりでいてくれ。」


へっ?更に仲を深めるって、そういう意味なの?しかも、手付けするのを急げって言ったの?


瞬のお父さんの言葉に絶句していると、瞬が代わりに答え始めた。


「父上、紫は人間界で仕事というものをしております。我は紫が簡単に仕事を投げ出さぬ責任感の強いところも気に入っております故、その辺りは人間界の理を尊重させて頂きとうございます。」

「そうか。だが、お前の次期当主の立場を考えれば、早いに越した事は無いぞ。」

「心得ております。」


納得できないものの、もう一度二人で深々と頭を下げて妖狐族の屋敷を後にした。





 帰りも陸さんの運転で、アパートまで送って貰った。


「これで若様も、こちらの世界へいつでも行き来できますね。」


運転しながら陸さんが話し掛けてくる。陸さんは瞬のお父さんとの会話を聞いていなかったのか、瞬のお父さんとは正反対な事を言ってきた。


「我が居らぬでも、問題は無かろう。」


瞬が自嘲するように苦笑いすると、陸さんの声が固くなった。


「若様が居なくなり、若様寄りの穏健派が御屋形様の強硬派に圧されています。中には人知れず、粛正された者が居るとの噂も立っています。」

「それは誠か?」

「あくまでも噂ですが、今回、若様と高倉の血筋である紫殿との婚約が決まり、強硬派が勢い付いてくる事は間違い無いでしょう。御屋形様としても、今の四天王に留まるつもりは無いようです。」

「父上は、紫の力を自分のものにするつもりか……」


瞬は深い溜め息をついて、後部座席のシートへ身体を沈め、そのまま押し黙ってしまった。


「あの……四天王って?」


口を閉ざした瞬の代わりに、陸さんに聞いてみる。陸さんは何も知らない私にも分かりやすく説明してくれた。


「昔は、犬神、妖狐、烏天狗、鬼神が四天王として、もののけの世界を統治しておりました。ですが、鬼神が権力を握ろうとした事があり、犬神に敗れて四天王から外されました。今は鬼神の代わりに、雪妖が参加しています。」

「へぇ~、そうなんだ。」


イマイチ実感する事も出来ずに呑気な返事をすると、陸さんは諭すように再び口を開いた。


「紫殿にも関わりがある事です。今は犬神が四天王の総大将を務めておりますが、歴史的には妖狐が総大将を担っていた時期もあります。ですから紫殿は、妖狐の……」

「陸、紫はそんなつもりで我と婚姻するのでは無い。」


陸さんの言葉を遮るよう、瞬が窘める。陸さんは何か言いたげにしていたものの、それ以上は何も語らなかった。


覇権争いって、何処の世界にもあるんだね……


自分の知らない所で勝手に巻き込まれる事態に、言い知れぬ怖さを感じた。





 怖さを感じたとしても、予定とは勝手にやって来る。私の休みに合わせて、もののけの世界お泊まりツアーが勝手に組まれていた。


少しでも早くもののけの世界に慣れるようにとの配慮らしいけど、その気遣い、不要です……


そうとも言えず、充てがわれた妖狐族屋敷の離れへ陸さんに案内されて、瞬と一緒に向かう。


「我にとっては、懐かしい部屋でな♪」


気分の重い私と比べて、瞬は上機嫌だ。


「懐かしい?」

「我の母上が住んでおったところだ。幼少の記憶しか無いが、兄上も我と一緒に、兄上の乳母であった母上と共に過ごしたものだ。」

「へぇ~、そうなんだ。」

「特に庭は見事な桜があってな。毎年、春を待ち遠しく思っておったぞ。」

「そんなに綺麗な桜なら、私も見てみたいな♪」


そんな他愛ない話をしながら、泊まる部屋の襖を開ける。


「……えっ?!何これ……」


広々とした畳の部屋を占領するように、ドン!と鎮座するダブルベッドが、目に飛び込んできた。


和室にロココ調のベッド……物凄くミスマッチなんだけど……


白くて大きなベッドには、キラキラのスワロフスキーが沢山埋め込んである。


「これはどうしたのだ?」


絶句する私に代わって、瞬が側で控えている陸さんに聞いた。


「紫殿はベッドでお休みのご様子でしたので、自分が用意させて頂きました。」


えっ?これは陸さんの趣味?


「女性が好みそうなものを選びましたが、お気に召さなかったでしょうか……」


言葉が出ない私を、陸さんが恐る恐る伺ってくる。


多分、世の中の女性のほとんどが好きだとは思うけど、インテリアのバランスというものも考えようよ……


そして、陸さんは、続けて部屋の説明を始めた。


「それと、離れにはお風呂がございませんでしたので、新しく作りました。こちらは若様のお好みに合わせました。」


い、嫌な予感……


陸さんの指し示す方へ、瞬と二人で行ってみる。ベッドから少し奥まった一角に、全面ガラス貼りのお風呂が見えた。


はぁ?!な、何で丸見え?


「おお、檜の湯槽か。中々良いな♪」


満足げに喜ぶ瞬を見て、無表情の陸さんも心なしかホッとしている様子だ。


いやいや……檜かどうかよりも、全面ガラス貼りを突っ込もうよ……


「私が母屋に戻りましたら、食事を運ぶ時以外は何者も近付けないよう結界を張らせて頂きますので、ごゆるりとお過ごし下さい。」


そう告げて、陸さんはそそくさと離れを後にした。


これって、完全に手付けのお膳立てだよね……早めにとは言っていたけど、ここまで必死になられても……


完璧なまでの用意周到さに、目眩を覚える他なかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ