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第四十七話

 ドイツから帰国後、お土産を渡しがてら美華と久しぶりに会社の近くでランチに出かけた。


「えぇ~~?!吸血鬼って!!」

「しっ!声が大きい!」


ランチのパスタをフォークに巻きつけたまま、目を見開いて驚く美華の口を、急いで塞ぐ。


「小声でお願い……」


美華がコクリと頷いたのを確認してから、塞いだ口を解放する。


「しかしまぁ、紫もよく無事に帰れたよね。」

「うん……マジで瞬が居なかったら、すでに死んでたかも……」


改めて思うけど、瞬は何であそこまで必死に私を助けるんだろう……


「そっか。もういっそのこと、若様と付き合っちゃえば?」

「付き合うねぇ……」


考え事をしながら、生返事を返す。


「だって、紫も若様の事が好きなんでしょ?」

「そうだねぇ……」


……ん?

好きだって言った……?私が瞬を?


「い、今……ってか、何で美華が知ってるの?」

「やっぱり好きなんだ♪」


うっ……カマ掛けられた……


「いや、そ、それは……」

「それは?」

「その……いつものイケメン惚れ病というか……」


必死に言い訳するけど、美華はまるで信じていない。


「はい、はい。そう思い込むのも勝手だけど、紫は若様に頼りきってるように見えるよ。誰が見ても分かるって♪」

「まぁ、命狙われてる状況で、頼れるのは瞬だからね。」

「そんな事言って、私に遠慮してる?前にも言ったけど私にとって若様は、ただの憧れだからね!」

「でも……一度きりなんて、考えただけでも鬱になりそうだもん……」

「大丈夫!何なら毎晩紫から若様を襲っちゃえば♪」


ま、毎晩っ?!美華が、今日はヤケに喰い気味なんだけど……

だけど私と瞬は、結ばれてはいけない二人……これを知ったのはタイムトリップした時だし、勾玉の存在は隠しておかないと……


誤魔化すように、更にマイナス要素を探す。


「いや、ほらさぁ……瞬にも選ぶ権利があるし……」

「だったら、何で若様はあんなに紫を守ると思うの?」


そこなんだよね……やっぱり、一度きりの相手候補だから?それよりも……


「住む所が無くなるから?」

「はぁ……」


美華が思いっきり盛大な溜め息をついて、蔑んだような目を向けてくる。


「紫がそこまで馬鹿だとは思わなかったわ……」

「美華……今日は一段と辛辣だね……」





 ……ん……


翌朝、心地好い温もりに包まれて、自然と意識が浮上する。


何だか気持ちいい……春の日差しみたいにぽかぽか……


いつも通りベッドに潜り込んでいるだろう子狐ちゃんのもふもふを堪能しようと、目を閉じたまま手を伸ばす。

だけど、手に触れてきたのはもふもふでは無く、人の感触だ。


あれ……?子狐ちゃんは?


まだ寝ぼけた頭のまま、ボーっとしながら、もふもふを探してペタペタと人らしき感触に手を這わせる。


「紫、くすぐったいでは無いか。」


不意に瞬の声が耳元で聞こえ、パチッと目を開ける。すると目の前には、朝日を浴びて微笑む端麗な顔があった。


えっ……?な、何で?!この時間は、子狐ちゃんだよね!何で人の姿?

それよりも今、私、瞬に腕枕されてる?!


寝起きの頭に飛び込んできた現状に、思考が停止する。


「紫、そんなに我に触れたいのか?それならば、遠慮せず存分に触れるが良い。」


そう言って、瞬は固まっている私の手を取り、はだけた作務衣から覗く胸に当てさせた。


は、肌……裸……瞬の溢れるフェロモンが……


ここで一気に脳ミソが覚醒し、ガバッ!と飛び起きて、ベッドの端まで後退った。


「ちょっ!な、何やってんの!」


驚きに目を見開く私に、瞬はしれっと答える。


「何を言う。紫が我に触れて来たのであろう。営みを誘っておるのかと思ったぞ。」

「なっ!そんな訳無いじゃん!」

「紫の希望とあらば、我もそれに応えるのもやぶさかでは無いが……」


瞬はジリジリと、にじり寄ってくる。それに合わせて後退る。


「よ、寄って来ないでよ!って、うわっ!」


ベッドからはみ出して落ちそうになる私の身体に力強い腕が巻き付いて、グイッ!とベッドの上に引き寄せられた。


「紫、危ないではないか。」

「ご、ごめん……ありがとう……」


か、顔が……理想を絵に書いた二次元のような綺麗な顔が近いっ!


抱き締めるような力強い腕にドキドキと高鳴る胸を押さえつつ、何とかベッドの上で体勢を整えて、瞬と向かい合って座る。


「ところで瞬は、何で人の姿なの?」

「我にも分からぬが、起きてもこの姿であったのだ。」

「もしかして、勘当が……」

「解けたかもしれぬな。」


という事は、瞬はもののけの世界に帰るんだね……


「まぁ、こうなったのであれば、何らかの言伝てが来るであろう。それまでは、人間界を楽しめるぞ。」

「ふふっ!昼間もお出掛けが出来るもんね♪」





 現実を忘れるように二人とものんびり構えていたものの、言伝てはすぐにやって来た。


その日もいつも通りビュヴールから瞬と一緒に帰っていると、部屋の前に陸さんが立っていた。

陸さんに気付くとすぐに瞬が、私を背中に庇う。


「陸、何用だ?」


以前、私だけがもののけの世界へ連れて行かれたからか、瞬は警戒心向き出しだ。

そんな瞬に、陸さんは深々と頭を下げた。


「若様、この前は御屋形様に逆らえず、大変申し訳ありませんでした。ですが、もう大丈夫です。」

「大丈夫とはどういう意味だ?」


瞬の問いかけに頭を上げた陸さんは、相変わらず無表情のまま説明を始めた。


「若様と紫殿の婚姻を、御屋形様がお認めになりました。」

「だから、勘当が解けたのか?」

「左様にございます。」

「やはりか……」


小さく呟く瞬に、コソッと話し掛ける。


「瞬、どういう事?」

「父上は、何処かで紫が高倉の子孫だと聞いたのであろう。恐らく紫の力を利用するつもりだ。」

「えっ?でも私ともののけは、結婚を禁止されているんじゃぁ……」

「昔の話だと押し切るか、知らなかったと通すつもりか、もしくは本当に婚姻出来るのか……どちらにせよ、紫に利用価値を見出だしておるのであろうな。」

「利用価値と言われても……」

「紫がどう思おうと関係無い。勾玉の所持を知られておるかどうかが問題ではあるが……」


そっか……颯さんから私を調べているって忠告を聞いて、瞬はこうなると予測していたんだ……でも……


戸惑っていると、瞬は再び陸さんに向き直った。


「陸、今宵の用件は以上か?」

「大変恐れ入れますが、屋敷にてお二人の為に祝宴の準備をしております。是非ともお越し下さいとの事です。」


相変わらず、私の都合は聞かないのですね……


「ならぬ。紫をもののけの世界に閉じ込めるつもりか?」

「いえ、お帰りをどちらにするかは、紫殿のご希望をお聞きするよう言われております。勿論、若様もご一緒です。」


私の希望を聞くんなら、いきなりの呼び出しは無いんじゃぁ……しかも今って、夜中じゃん……


そう心の中で突っ込むけど、もののけ達には関係無いらしい。瞬はコソッと私に確認をしてきた。


「紫、父上の目的を探りたい。行っても良いか?」

「はぁ……分かったよ。どうせ断れないんだよね……」


そして、渋々と陸さんの車に向かった。




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