第四十四話
天鼠部長とエルザさんも客室に呼んできた後、隠し階段の先を捜索する事になった。
天鼠部長達は、暗闇が平気だと言う事で、迷い無くすいすいと階段を降りている。
私は瞬に手を引かれながら、更に足元を狐火で明るくして貰って、天鼠部長達の後ろを歩いている。
「紫、足元大丈夫か?」
「うん。ちゃんと見えてるよ。」
コウモリって、超音波で位置確認するんだっけ?便利だわ……
改めてもののけ達の特殊能力に感心しながら地下に向かっていると、大きな木の扉に辿り着いた。
「ここにお父様が……やっと会えるのね……」
エルザさんが感慨深げに呟く。
「エルザ、まだ祖父が居るとは限りませんよ。」
口ではエルザさんを窘める天鼠部長も、心なしか嬉しそうだ。
天鼠部長が扉に手を掛け、ゆっくりと開ける。ギギッと音を立てて開いた扉の先は、広いサロンのようになっていた。
「ここは……」
じめじめとして、少しひんやりとする空気に、ブルッと身震いが走る。
何だか嫌な予感しかしない……
「ねぇ、もう戻……」
「あったわ!棺よ!」
この部屋から出るように促す私の声は、エルザさんの歓喜の声に、掻き消された。
声のする方へ行ってみると、洋式の黒い棺があった。
天鼠部長が棺の蓋に手を掛ける。金属が軋むような音を立てて蓋が開くと、舞い上がる埃の中から胸にナイフが突き刺さった遺体が出てきた。
「ひっ……!」
あまりの驚きに声を上げると、瞬がすっぽりと包み込むよう自分の胸に私の顔を押し当てて、視界を遮ってくれた。
こ、怖い……
「日向さん、お願い出来ますか?」
瞬の腕の中で震えていると、天鼠部長が期待を込めて促してくる。
もう、帰りたい……でも終わらせないと、帰れない……
覚悟を決めて、もう一度棺に目を向ける。
やっぱ、怖すぎなんだけどっ!ホラーなんですけどっ!
恐怖で混乱する頭で、必死に考える。
天鼠部長の話から考えれば、十六世紀末くらいに刺されたんだよね……えっと、えっと……だから、今から四百五十年くらい遡れば、甦るんだよね……
よしっ!
瞬の腕の中から抜けて、心の中で唱える。
天鼠部長のおじいさんを、四百五十年前の身体に……
私に共鳴するように、胸からぶら下げた勾玉が光り、天鼠部長のおじいさんを包み込む。ゆっくりと光が消えて現れたのは……
「あれ?」
変化無し……
もう一度やってみても、結果は同じだ。
「どうして……?」
成す術もなく呆然としていると、瞬が私の隣に立った。
「ナイフが刺さっておる影響ではないか?」
「そうかもね。でも……」
「怖いのであれば、我が抜こう。」
ナイフに手を掛けた瞬を、ものすごい勢いでエルザさんが止めに入った。
「駄目っ!」
「へっ?何故だ?」
「ナイフを抜いた瞬間に、お父様は灰になってしまうわ!」
天鼠部長を窺っても、エルザさんに同調するよう頷いている。
「ですが天鼠部長、ナイフを抜かなければ恐らく無理かと……」
「そうですね……申し訳ありませんが、ナイフを少しずつ抜きながら試してみて頂けませんか?」
「わ、私が?」
「ええ。恐らく術者がやった方が宜しいかと。」
うっ……出来れば、指一本も触れたく無いんだけど……
「お願い!」
エルザさんからも、期待の目を向けられる。
天鼠部長とエルザさんにとっては、大切な肉親だもんね……
「……分かりました。」
よしっ!頑張るぞ!
と思ったものの、ナイフを抜くのも生々しい。
うっ……も、もう早く終わって……気持ち悪い……
そうは言っても、命が掛かっているだけに、抜くのも慎重に成らざるを得ない。
少しずつナイフを抜きながら光を出していくと、残りは剣先だけになった。
「日向さん、もし失敗しても、罪悪感を感じないで下さい。元々、無理があった事ですので。」
気遣う天鼠部長の言葉に頷きながら、ナイフを握り締めて、最後に心の中で唱える。
天鼠部長のおじいさんを、四百五十年前の身体に……
ピカッ、と光が出たと同時に、ナイフを全て引き抜く。すると、ドクッ、ドクッ、と心臓の鼓動を感じた。
「やった……成功した……」
安堵の溜め息と同時に呟くと、エルザさんと天鼠部長が駆け寄ってきた。
「お祖父様!」
「お父様!私が分かりますか?」
天鼠部長のおじいさんから少し離れて、事の成り行きを瞬と一緒に見守る。
おじいさんはピクリと動いたかと思うと、ゆっくり目を開けた。
ホッ……これで大丈夫……
「紫、よく頑張ったな。」
瞬が労うように、私の頭を撫でてくる。それに答えるように微笑みを返す。
「喉が渇いた……」
おじいさんが起き上がり、そう呟く。
「お祖父様、エルザが血液を準備しております。」
あれ?
おじいさんを見た時、ふと気付いた。
……私を凝視している?
その視線には、みんなも気付いたようだ。
「お祖父様、あの人間がお祖父様を助け……」
「血だ……若い娘の血は極上だ……」
天鼠部長の言葉に聞く耳も持たず、おじいさんが呟く。
えっ……?わ、私の事?まさか……
おじいさんが私を見る目は、獲物を狙う猛禽類のように鋭かった。




