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第四十二話

 もう一度紅茶に口を付けて、天鼠部長に向き直る。


「天鼠部長はハーフですか?」

「ハーフというか、私達の世界では混血といいます。純血の吸血鬼ではありません。」


成る程……言い方が微妙に違うのね……


天鼠部長は言ったとおり、さっきよりも詳しく説明するよう努力をしてくれているようだ。


「では、お父さんかお母さんが、アジア系の人間なのですか?」

「母が日本人ですね。母は海で流された所を父に助けられ、父の故郷であるイングランドで生活するようになりました。そこで、私が産まれたのです。」


お父さんが亡くなって、お母さんの故郷へ戻ってきたという事か……


「では、日本にはいつ来られたのですか?」


穏やかだった天鼠部長の顔が、昔の傷を思い出すように、少しずつ険しくなっていく。


「私が八歳の頃だったと記憶しています。丁度当時は魔女狩りが全盛期の頃で、父を失い、祖父を眠りにつかされた私は、母に連れられてドイツやフランスなどを転々としました。そして母の故郷である日本まで辿り着いたのです。」

「でも、その頃の日本は……」

「お察しのとおりです。異国の顔をした私は何処へ行っても化け物扱いでした。母と山の中でひっそりと生活していましたが、人間の寿命は短く、母も亡くなってしまいました。」


どの国でも、もののけの部類は苦労が絶えないのね……


「今ご家族は、天鼠部長と妹さんの二人なのですか?」

「あれは日向さんを誘い出す、単なる口実です。私は天涯孤独の身ですから。」

「そうでしたか……天鼠部長もご苦労されているのですね……」

「お気遣いありがとうございます。ですが、日本での生活も楽しいものでしたよ。"忍"という団体に所属した時は諜報活動をしましたし、徳川の時代には"御庭番衆"として江戸城に勤めていた時期もありました。」


し、忍……御庭番衆……実在してたんだ……

歴史の生き証人がここに……


「そうそう、黒船を見に行った事もありましたね。明治に入ってからは"英語教師"として各地を渡り歩いていましたが、戦時中は敵国スパイと間違えられそうになったので、再び山中に籠りました。」


そ、想像以上に訳わからない苦労をしていそう……


「色々な仕事も楽しかったのですが、歳をとらない私は一ヶ所に長く留まる事は出来ません。孤独に耐え難い時には、常に母の言葉を思い出しました。母は祖父の身体をドイツの古城に隠していると、祖父が元に戻れば、永遠に一緒に居られるといつも言っていましたから。」


それで、私におじいさんを治して欲しいと……


「母が亡くなった時、どんな怪我も治す女性が居るという話を聞き付けて、その女性に会いに行きましたが、護衛達に阻まれ、会う事すら叶いませんでした。」

「その女性の名前は……」

「確か、紅という名前だったと思います。その頃から、日向さんの血筋を見守っていました。石の行方は勘でしたが……」


私が紅姫の子孫だと、最初から知っていたんだ……

颯さんが言っていた紅姫を狙う邪悪な者って、天鼠部長の事かも……それなら、もののけ達が護衛に就いていた事とも辻褄が合う……

でも、まだ私が勾玉を持っているとは知らない筈……


「ですが、私には……」


不思議な石なんて持っていないと言い掛けた時、バン!と勢いよくダイニングのドアが開けられた。


「天涯孤独なんて酷いっ!私は家族では無いの?!」


そう叫びながらダイニングに入ってくる、一人の豊満ボディの海外女性。


うわわっ!泥棒アニメに出てくる、色気ムンムンの女の人みたいっ!


「エルザ、来客中ですよ。」


天鼠部長の窘めを気にもせず、エルザと呼ばれた女性は天鼠部長に詰め寄っている。


「そんなの関係ないわ!私は妹みたいなものじゃない!」

「私よりも後に産まれましたが、エルザは叔母ではないですか。」


お、叔母なの?!私と歳が変わらないように見えるんだけど!


「それに、家族と言われましても、幼少の頃に赤ん坊のエルザと一度会っただけです。」

「それでも家族には変わらないじゃない!慧が寂しがっていると思ったから、わざわざ日本まで来てあげたのに!」

「エルザは、日本のアニメが好きで来ただけでしょう。」


天鼠部長は、しれっと紅茶を飲みながら反論している。


「もうっ!いけすかない男ね!」

「それよりも、例の女性を見つけました。祖父もこれで生き返るかと。」

「本当に?お父様が生き返るの?」


豊満ボディのエルザさんが私にやっと気付いたらしく、顔を向けてくる。

と思ったら、視線は私を通り越して、隣に座る瞬へ向けられた。


「わおっ!クールガイ!まるで"幕末戦士・愛をかけて"みたいね♪」


あ……他社のゲームだ……確かに瞬とキャラの一人が似ているかも……流石は二次元イケメン……


「私、決めたわ!この人と結婚する♪」


エルザさんは瞬に駆け寄ってきたかと思うと、豊満な胸元を瞬の腕に押し付けるよう、しがみついてきた。


「ちょ、ちょっと!何をしてるの!」


咄嗟に立ち上がって引き離そうとするものの、軽く交わされてしまう。


「エルザ、狐くんは日向さんの彼氏さんですよ。」


天鼠部長が静かにエルザさんを咎める。それでも、エルザさんには通用しない。


「何よっ!こんなちんちくりんの子供よりも、私の方が魅力的だわ!」


ち、ちんちくりんって……確かに豊満ボディの女性からすれば、私なんて子供みたいなものだけどさ……


瞬はエルザさんにされるがまま、ニヤニヤと笑っている。


「紫、そんなに焼きもちを妬いてくれる程、我の事を好いておったか♪」

「焼きもちなんて妬いて無いからっ!」

「そんなに心配せずとも、我には紫だけであるぞ♪」

「だから違うってば!」


瞬と言い合っていると、エルザさんが苛ついたように瞬の顔を強引にエルザさんへ向けさせた。


「もうっ!あなたは私だけを見ていればいいの!」


一瞬、エルザさんの瞳が赤く光った!


ヤバいっ!


そう思った時には、遅かった。瞬の目は何も映していないように、虚ろになる。


「ねぇ、私の部屋へ行きましょう♪」

「……はい……」


そして、エルザさんに手を引かれるまま、ダイニングを出ようとする瞬。


ちょっ!これ、かなりマズい状況じゃない!ど、どうすれば……

そうだ!


咄嗟に瞬の背中にしがみついて、心の中で叫ぶ。


瞬を、三分前の状態に!!


ピカッ!と私の胸元が光り、瞬の身体も包み込む。光が収まると、瞬が自分の意思を持って、動いた。


「紫……助かった……」

「元に戻ったの?」

「あぁ、頭では抵抗しておるのに、身体が勝手に動いておったぞ。」

「もうっ!こっちはびっくりしたよ!」


その時、私達の後ろから、パチパチと拍手の音が聞こえてきた。振り向くと、天鼠部長が満足気にこっちを見ながら、手を叩いている。


「やはり、石は持っておられるようですね。それにしても、流石です。我々の力もはね除けるとは、想像以上の力ですね。」


しまった……これで言い逃れが出来ないじゃん……


「日向さん、祖父を助けて頂けますね?」


天鼠部長は、念を押してくる。


「はい……分かりました……」


協力すれば石の存在を絶対に漏らさないという約束をして貰い、吸血鬼を助ける為にドイツへ行く事が決まった。



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