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第四十一話

 ……ん……額に柔らかい物が……


ゆっくりと意識が浮上する。


私……何をしていたんだっけ……買い物に行って、天鼠部長に会って……それから……

そうだ!瞬は?!


勢いよく起き上がると同時に、頭にガンッ!と衝撃が走る。


「痛ったぁ~!」


思わず頭を押さえると、私と同じく痛がる声が聞こえてきた。


「痛たた……紫、もう少し大人しく起きれぬのか?」


もしかして……


頭を押さえる手を退けて、その声の主を見る。


「やっぱり瞬じゃん!無事だったんだね!」

「おう、頭以外はな。」

「良かった~!」


瞬を見つけた瞬間、思いっきり抱き付く。瞬は体勢を崩しながらも受け止めてくれ、私の背中をあやすようにポンポンとしてくれた。


「もう駄目かと思ったよ~!」

「はは!紫は意外と情熱的であるな。このような場所で我に抱き付くとは。」


へっ……?


恐る恐る周りの状況を確かめる。

見た事も無い古びた洋館の部屋にいるらしく、置かれている家具もアンティーク調だ。でも、埃は無くて手入れされてある事から、誰かが住んでいるのは分かる。そして天蓋付きのベッド……


って、思いっきりベッドの上じゃん!


「ご、ご、ごめんっ!」


急いで離れようとするけど、瞬の腕がガッチリと腰を固めて動きを阻んでくる。


「我と紫は結ばれぬとは分かっておるが、お互いの気持ちが合致しておれば、仕方の無い事もあろう。」


そして瞬は、空いた手で私の髪の毛を鋤くように撫でてきた。穏やかに目を細め、優しく微笑んでいる。


こ、こんな顔をされると、私を好きだって勘違いしそう……

って、何とか上手くかわさないと……


「そ、そうだ!私が起きた時、何をしてたの?頭と頭がぶつかったじゃない!」

「ならば再現してみよう。まぁ、同じように出来る自信は無いがな。」


瞬が私の髪の毛を耳に掛け、無駄に綺麗な顔が微かに傾いて近づいてくる。


「ストップ!再現しなくていいからっ!」


思いっきり手を伸ばして瞬の身体を押し退ける。すると、瞬は私の腰をホールドしたまま、ベッドに倒れ込んだ。


「紫から押し倒されるなど、我も果報者であるな。」

「不可抗力じゃん!人の話を聞けっ!」

「その気になったのならば、我も遠慮なく……」

「その気になって無いからっ!」


その時、ガチャッと部屋のドアが開いた。入ってきたのは天鼠部長だ。ベッドの上で固まる私達を見て、天鼠部長は表情を緩めた。


「お取り込み中でしたか。大変失礼しました。」

「待って~!全然取り込んでいませんからっ!」


部屋から出て行こうとする天鼠を引き留める。


「おや。違いましたか。」

「違います!それよりも今の現状を教えて下さい!」

「今の現状?日向さんが彼氏さんを、ベッドの上で押し倒している……というところでしょうか。」

「その現状説明では無くて、何故私達がこの部屋に居るかという事ですっ!」


天鼠部長はわざとらしく手を打ち、今気付いたというような仕草をする。


「では、こちらへ。」


部屋のドアを開けて、天鼠部長が部屋を出るように促してきた。





 案内されたのは、長いテーブルが部屋の真ん中に鎮座する、ダイニングルームだった。壁には、古い肖像画がいくつか並んでいる。


「どうぞ。」


天鼠部長は椅子を引いて、サッとエスコートしてくる。


流石……手慣れているというか、完璧な紳士……

今のところ、殺される雰囲気は無さそうかな……


「ありがとうございます。」


私が椅子に座ったのを見届けると、天鼠部長と瞬も席に着く。天鼠部長がパチンと指を弾くと、何処からともなくメイド服を着た半透明な女性が、ティーセットを置いていく。


幽霊?ゴーストって言うのかな……どっちでもいいや……

ってか最近、この程度では驚かなくなってきたな……


「頂きます。」


紅茶に口を付けて、軽く喉を潤す。


「それで、天鼠部長は何者ですか?何の目的で私をここへ連れて来たのですか?」


カップをソーサーに置いて尋ねると、天鼠部長は上品に微笑んで口を開いた。


「そうですね。何処からお話すれば宜しいか……」


天鼠部長は壁に飾られている肖像画を見て、また私へ視線を戻した。


「私の父は魔女狩りが行われていた頃、焼き討ちに会い、命を失いました。そして、祖父は今も銀のナイフを心臓に突き立てられたまま、眠っています。」


ちょっと待って……魔女狩りって、十五か十六世紀頃だよね……

天鼠部長は、その頃から生きてるの?

日本のもののけよりも長生き……いや、不死なの?


「日向さんには、祖父を助けて頂きたいのです。」


そういえば天鼠って、コウモリの別名……


「その……もしかして天鼠部長は……まさか吸血鬼では無いですよね?」

「流石です。お察しのとおりです。」

「うわわっ!」


思わず立ち上がってしまう。

ガタン!と椅子が倒れると、何食わぬ顔で天鼠部長がもう一度椅子を引いてくれる。

もう一度座り直し、恐る恐る天鼠部長に尋ねる。


「……私の血が狙いですか?」

「ある意味正解ですね。高倉の血筋ならば、祖父を治す事も容易いかと。」


血を吸われる訳では無いのか……


一安心するものの、ここで疑問が沸いてくる。


「どうして私が高倉の血筋だと分かったのですか?」

「話せば長くなりますが……」


そう前置きしてゆっくりと口を開く天鼠部長を、固唾を飲んでじっと見つめる。


「私の勘です。」

「……」


……短っ!


派手にずっこけたい衝動を抑えて、コホンと咳払いをする。


「い、以上でしょうか……?」

「先程も言ったとおり、何処から話していいのか分かりませんので簡潔にお答えしましたが、足りなかったでしょうか。」


いや……簡潔過ぎでしょ……

もしかして天鼠部長って、天然?だから笑顔で、徹夜になる作業を言い渡したんじゃぁ……


「そうですね……少々足りないかと……」


気を取り直して答えると、天鼠部長が少し肩を竦めた。


「では、なるべく詳しく話すよう努力しますので、日向さんがお知りになりたい事を何でもお聞きください。」


それをさっき聞いたんだけど……これは聞き出すのに骨が折れそうだなぁ……


心の中で溜め息をつきながら、質問を変えてみる事にした。




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