第四十話
「はい、あ~ん。」
(モグモグ……)
「もう一つどうぞ!」
(モグモグ……)
「ふふっ!可愛い~♪」
「……紫、やけに楽しんでおらぬか?」
「気のせいじゃない?」
やっと迎えた休みの日、子狐ちゃんをトートバッグに入れて、ショッピングモールへ出掛けた。颯さんへの結婚十周年のプレゼントを買い直す為だ。
そして今はお昼ご飯を食べる為に、ショッピングモールのテラスに置いてあるベンチで、まったりとしている。
「瞬と初デートだね♪」
「この姿で言われてもな……」
子狐ちゃんはトートバッグの中で拗ねている。
「拗ねてる姿も可愛い~♪あっ、フランクフルトもっと食べる?」
「……」
じぃ~っと恨めしそうな目を向けながらも、子狐ちゃんはトートバッグから顔だけを出して、私が千切るフランクフルトを待っている。
「ふふっ♪」
もう、可愛い過ぎっ♪外で無ければ、思いっきりモフモフしたいっ!
「紫、我で遊ぶよりも、贈り物の選定を頼むぞ。」
「大丈夫!ちゃんと分かってるからね♪」
「あくまでも、夫婦用のものを選べよ。」
「了解!任せて♪」
子狐ちゃんのフランクフルトが無くなると、ハンバーガーの残りを口の中に放り込み、買い物へ向かった。
「瞬、これはどうかなぁ……」
良さそうな商品を見つけて私が声を掛けると、トートバッグから子狐ちゃんが顔を出してくる。
「う~ん……これは持っておった気がするな……」
「そっか。じゃぁ別の物を探してみるね。」
一通りの話が終わると、子狐ちゃんは再びバッグの中に顔を引っ込める。
「ふふっ!可愛い過ぎて、クセになりそう♪」
思わず笑ってしまうと、バッグの中から恨めしそうな声が聞こえてくる。
「紫……我が苦労しておるのを、楽しんでおるであろう……」
「ごめんごめん。ちゃんと良さそうな物を探すからね♪」
色々吟味しながらショッピングモールの中の雑貨屋さんを回る。その時、後ろから声を掛けられた。
「もしかして、日向さんですか?」
えっ?この低音ボイスは、天鼠部長?
振り向くと、上品な笑みを浮かべる私服を着た天鼠部長の姿があった。
「お、お疲れ様です。」
慌てて挨拶をすると、天鼠部長はキョロキョロと何かを探し始める。
「どうかしましたか?」
不思議に思い声を掛けると、天鼠部長は意外な事を口にした。
「今日、彼氏さんは一緒では無いのですか?」
「えっ?」
な、何で彼氏?!もしかして、瞬と一緒に歩いている所でも、見られてた?
何て答えようかと迷っていると、天鼠部長は肩を竦めた。
「すみません。無粋な事を聞いてしまって……」
「いえ……」
「実は、妹への誕生日プレゼントを買いに来たのですが、迷っていまして……もし日向さんさえ宜しければ、お手伝い頂けませんか?」
「手伝いですか?」
いきなりの申し出に、思わず聞き返してしまう。
「はい。アクセサリーをと思ったのですが、実際に付けてみないと、イメージが湧かなくて……」
成る程……アクセサリーを身に付けるだけなら、時間もあまり掛からないかな……
「私で良ければ。」
「ありがとうございます。」
そして天鼠部長も一緒に、ジュエリーショップへと足を向けた。
「最近の流行りとは、どういった物でしょうか。」
「そうですね。流行りよりは、いつ使うかを考えた方がいいかもしれません。普段使いに大振りな物は不便ですし、華やかな場所には小さな物は映えませんから。」
沢山のジュエリーを前に迷っている天鼠部長にアドバイスをすると、感心したような溜め息をついている。
「流石です。やはりお願いして良かったです。」
「ふふっ、お役に立てて光栄です。」
そして、一つのシンプルなシルバーのネックレスを手に取った。
「天鼠部長、こういったものはいかがでしょうか。」
それを見た天鼠部長は、一瞬眉間に皺を寄せたように見えたけど、すぐにいつもの上品な表情に戻った。
「せっかく選んで頂いたのに申し訳ありませんが、銀製品が苦手でして……」
「そうですか。失礼しました。」
「いえ。こちらこそ、最初にお伝えすれば良かったですね。」
何かのアレルギーかな?でもシルバーは、アレルギーが出にくかったと思うんだけど……
大して気にも止めず、次のアクセサリーを見繕う。
もし色が好みで無いなら、プラチナも駄目だよねぇ……ゴールドかピンクゴールドが無難か……天鼠部長の妹さんなら、飛びきり美人だろうな……
色々と目移りさせている時、ふと鏡に映り込んだ天鼠部長に目が留まった。
あれ……?天鼠部長、瞳が赤いっ!!
驚いて、ガバッ!と振り向くと、天鼠部長と目が合った。
う、嘘……普通の色に変わってる……
「日向さん?どうしました?」
恐る恐る、もう一度鏡を振り返る。やっぱり鏡に映る天鼠部長の瞳は真っ赤だ。
「天鼠部長……その瞳の色……」
この世の者とは思えない出来事に、震えながら後退りをする。そんな私を見た天鼠部長は、凍り付いたような笑みを浮かべた。
「あぁ。もう分かってしまいましたか。流石は高倉の生き残りですね。」
嘘っ……どうしてその名前を……
「仕方ありません。一緒に来て頂きます。」
や、ヤバい!天鼠部長も人間では無いっ!
咄嗟に逃げようとしたけど、それよりも先に実物の天鼠部長の瞳が赤く光った。
「うっ……」
何これ?!足が動かないっ!!
「紫っ!」
トートバッグから飛び出てきた子狐ちゃんを、ギュッ!と抱きすくめる。
そして何故か、意識が段々遠くなっていく。
「……瞬……」
そのまま意識を手放した。




