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第三十七話

 「紫、大丈夫であったか?特に怪しい者はおらぬか?ちゃんと勾玉は持っておるか?」


ビュヴールへ着くや否や、瞬は綺麗な顔の眉間に皺を寄せ、私に飛び付くように声を潜めて確認をしてくる。


「大丈夫だって。何も無かったよ。」

「ならば良いが……勾玉を持っておる事は、誰にもバレてはおらぬな?」

「誰にも言って無いから。」

「華ちゃんにもか?」

「今日は会って無いから、大丈夫だよ。それに、私も美華を面倒な事に巻き込みたく無いからさ。」


瞬は私が勾玉を手にした事で、妖狐族以外からも狙われる事を懸念して、より一層過保護になっている。


それよりも、カウンターに居る瞬目当ての女の子達の方が、怖いんだけど……


キッ!と睨まれる鋭い視線に耐えながら、ボックス席に座る。


「いらっしゃいませ。」


店のドアが開くと同時にマスターの声が聞こえて、何気無く入って来た人へ目を向ける。


「瞬!遊びに来たよ~♪」

「おう、颯ではないか!」


あっ!癒し系国宝級イケメンだ!


店に入って来た颯さんは奥にいた私を見つけると、人懐っこい笑顔を向けてきた。


「紫ちゃん、一緒に飲んでもいい?」

「は、はい!」


そそくさと席のスペースを空けて颯さんを迎え入れると、カウンターの女の子達から更に鋭い視線が突き刺さってくる。


何で、こいつばかりにイケメンが……って思われているんだろうな……

『皆さ~ん!ここに居るイケメン達は、人の姿をしていますが、人間ではありませんよ~♪』って言えたら、どんなに気が楽か……


そんな私の心の声など分かる筈も無く、颯さんは顔を近付けて小声で話し掛けてきた。


「妖狐の調査隊が紫ちゃんを調べる為に、頻繁に人間界へ出入りしているみたいなんだ。もしかしたら、高倉の子孫だってバレたかもしれないよ。」

「えっ?本当ですか?」

「まぁ、紅姫の代で不思議な石が無くなってから長いし、ほとんど都市伝説化している話だから、妖狐の当主が何の目的で紫ちゃんを調べているのかが分からないんだけど……」


だから瞬は、勾玉の話を誰にもするなって言ってたんだ……


「今のところ実害はありませんので、大丈夫です。気に掛けて下さって、ありがとうございます。」


心配してくれた事への感謝を伝えると、颯さんはニコッと笑ってくる。


「瞬の大事な人だからね~♪このくらい当たり前だって!」

「あは……そ、そうですか……」


もしかして、瞬の好きな人と勘違いされてる?


そう思ったものの、どの反応が正解なのか分からず、苦笑いを浮かべるしか無かった。





 店がクローズになりお客さんが帰った後、瞬がやっとボックス席にやって来た。


「瞬、頼まれた物を持って来たよ~♪」


席に座った瞬の手に、颯さんは一つの鈴を乗せた。


「総大将自ら、悪いな。」

「水くさい事言うなって!瞬に大事な人が出来た事が、嬉しいんだから♪このくらい協力させて!」


この勘違い、いつまで続くんだろう……


そう思っていると、瞬は颯さんから貰った鈴を今度は私に渡してきた。


「瞬?これ何?」

「この鈴を鳴らせば、何処に居ても我が気付く。肌身離さず持っておけよ。」

「あ、ありがとう……」


通報付きの防犯ブザーみたいなものかな?


受け取ったものの、十円玉程もある鈴を身に付けるのは難しい。結局、いつも持ち歩くスマホに取り付ける事にした。


「ところで……」


瞬が急に声を低くして、私の肩に手を回してくる。


「やけに颯と楽しそうに話しておったな。」


その瞬の言葉を聞いた颯さんは、声を上げて笑い出した。


「あはは!瞬、そんなに焼きもちを妬かなくても大丈夫だって♪」


焼きもち?まさかね~♪


私も瞬をからかうように、颯さんに便乗して笑う。


「心配しなくても、可愛い子狐ちゃんを追い出したりしないから♪」


瞬は頬を膨らませてムスッとしながらも、追い出されない事に安心したのか、それ以上は何も言わなかった。



─────



「……紫……寝たか?」


その日の夜、紫が寝入ったのを確認すると、いつも通り瞬はコソッとベッドへ潜り込んで、紫の隣へ横になる。


「紫……我は、獣のままでおれば、紫の傍に居れるのか?」


囁くように話し掛けるものの、気持ち良さそうに寝ている紫は、当然何の反応も示さない。


「我と紫は結ばれぬと分かっておる……だが我が獣であれば、何の対価も無しに、また我を拾ってくれるか?怪我の薬を塗ってくれるか?悪夢を見た時は、腕の中に包み込んでくれるか?」


静まり返った部屋の中に、瞬の囁きだけが響く。


「紫……お主の命が狙われる事態に巻き込んでおるのに、何故我を責めぬ……何故本気で我を追い出さぬ……」


紫の背中に手を回し、自分よりも小さな身体を壊れ物を扱うかのように、そっと抱き締める。


「紫……我はお主を……」


許されない気持ちが溢れそうになり、瞬はギュッと口を結んだ。



─────



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