第三話
「ごめんね……今はこれしか無いの……」
部屋へ戻り、スープ用の食器に入れた牛乳をゲージの中へ置いた。
子狐は喉が渇いていたのか、ペロペロと舌を出して飲んでいる。
ふふっ!可愛い~♪何だか和むなぁ~。
「後で何か買ってくるからね♪」
でも、その前にスマホ代と電気代の支払いが先よね……
再び深い溜め息をついた時、スマホに着信があった。
「げっ!鬼塚部長じゃん!」
嫌な予感しかしない……とは言っても、無視出来ない……
渋々、通話ボタンをタップする。
「はい……」
──「日向!お前、何してんだ~!アプデしたらレイアウト崩れたって、苦情が殺到してるぞ!!」
「す、すみますん!どのゲームでしょうか?!」
──「“戦国侍・恋の関ヶ原”だ!」
「…………ん?」
担当が違う……
──「聞こえね~のか!」
「い、いえ……私が昨日いじった案件は、“現代版かぐや姫~不細工であった私が美人に?!~”ですが……」
──「……」
「という訳で、担当の……」
──「連絡取れたから、丁度いい。お前、今から出勤しろ。」
「そ、それは可能ならお断りを……」
──「何でだ?フラれたばかりで、デートの予定も無いだろ。」
うっ!反論できない……ってか、何で鬼塚部長が知ってるの?!
「そ、その……寝ていなくて……」
──「あ?!お前、昨日は定時で上がっただろ!すぐに来い!」
プチッ……
私の反論なんて聞く耳持たないとばかりに、通話が切られた。
お、鬼だ……チョイ悪親父風イケメンのクセに鬼だ……一睡もしていないのに、気が遠くなりそう……観賞用にもならないわ……
「仕方ない……断っても無駄だよね……」
寝不足の頭を抱えながら、フラフラと立ち上がって会社へ向かった。
「で、出来たぁ~!」
何とか夕方前には修正が終わり、思いっきり背伸びをする。
「頑張ったな。お疲れさん!」
鬼塚部長が鋭い目付きを少しだけ緩め、私の頭をポン!として労ってくる。
ったく、仕事の鬼なのに、フォローが完璧だから嫌いになれないのよね……怒鳴られて嫌う人も多いけど、間違った事は言わないしね……
「明日は日曜だし、飲みに行くか?」
「いえ……今日は帰って寝たい気分です……」
「何だよ。男に金を盗られた一文無しの癖に、徹夜で飲んでたのか?」
ぶっ!
思わず吹き出しそうになる。
「な、何で?!」
「昨夜、ビュヴールで騒いでただろ?」
「嘘っ?!鬼塚部長もいらっしゃったのですか?!」
鬼塚部長は口角を片方だけ上げて、ニヤッと笑っている。
「お前ら、妄想好きだとか24歳になってもまともな彼氏が居ないだとか、大きな声で言わない方がいいぞ。」
ぜ、全部聞かれてたの?!
「まっ、給料日まで金がもたなかったら、言って来い。一晩かけて俺を癒せるなら、対価分は貸してやるよ。その前に倒れないようしっかりと寝ておけよ。」
口をぱくぱくさせて声が出ない私を置いて、鬼塚部長は片手を挙げながら喫煙ルームへ向かって行った。
無い……有り得ない……チョイ悪親父風イケメンでも鬼なんて有り得ないっ!貞操の危機じゃん!お金と引き換えとか、完全に売春じゃん!
昔やんちゃしてたっていう噂は本物かも!うっかりお金借りたら、何処かへ売り飛ばされるかも!
絶対に凌いでやるっ!!絶対に借金なんてしてやるものかっ!!
退社した足で、すぐにコンビニへと向かった。スマホ代と電気代を支払うと、残りは一日当たり500円で生活をするだけのお金が残された。
「ワンコイン生活……とりあえずスーパーへ行くか……」
アパート近くのスーパーへ足を向け、真っ先にお買い得コーナーへ向かう。
「ラッキー!1斤100円の食パンがあるじゃん♪」
これで、一週間分の朝ごはんは何とかなるわね!ん?卵を挟んでサンドイッチにすれば、ランチ代と夕食代も浮くかも♪
私ってば、天才~♪
鼻歌交じりに買い物カゴの中へパンをもう2斤追加して、精肉コーナーへと足を運んだ。そこで再び現実を見る。
「肉高っ!」
ど~しよ……子狐ちゃんの餌が買えない……
お徳用ソーセージで我慢して貰うか……これでも予算オーバーだけど……
流石に傷を負った子狐ちゃんを、飢え死にさせる訳にはいかない。渋々レジで支払って、アパートへ帰った。
「ただいま……」
部屋の玄関を開けると、ゲージの中にいた子狐ちゃんが起き上がって尻尾をフリフリしてくれている。
ふふっ!帰って来るのを待ってくれていたみたいで、可愛いな♪
「ちょっと待っててね!すぐにご飯を用意するね♪」
台所で鍋を取り出し、お湯を沸かしてソーセージを茹でる。子狐ちゃんには流水で覚ましたソーセージを用意して、自分用には焼いた食パンにソーセージを挟み、ホットドッグもどきのご飯を準備する。
わ、侘しい……味付けはケチャップのみ……
子狐ちゃんに目を向けると、一所懸命ソーセージにかじりついている。
「やっぱ生き物がいると、和むなぁ~♪」
彼氏の痕跡が消えたばかりの部屋の中で、ちょっとだけ幸せな気分に浸りながら、侘しい食事を終えてシャワーを浴び、この日は西日が射し込む時間帯に早々とベッドへ潜り込んだ。
ガチャン……ガチャン……
夜、ゲージから聞こえてくる音で目が醒めた。
「……ん?子狐ちゃんが暴れているのかなぁ……」
狐って、夜行性だっけ?それとも少しは元気になってきたのかな?
大して気にも留めず、布団の中で再び目を閉じる。
ガチャン……ガチャン……
バンッ!!
突然、何かが爆発して吹っ飛んだような音がして、ガバッ!とベッドから起き上がった!
「な、何?何事!」
パチッ!
急いで部屋の明かりをつけて、ゲージに目を向ける。
「痛たた……やっと出られた……」
「…………」
……へっ?!
そこには、壊れたゲージの上に尻餅をついて、銀髪の頭を擦っている二次元イケメンがいた。




