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第二十二話

 「うっ……頭痛い……」


翌朝、喉の異常な渇きと、朝日さえ刺激になってしまう程の頭痛で、目が覚めた。


「……水……」


這うようにベッドから抜け出し台所まで行くと、手の力も使って何とか立ち上がり、冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターで喉を潤す。


「ふぅ……頭痛薬飲まなきゃ……」


だるさの残る身体を何とか動かしてリビングへ戻ると、子狐ちゃんが薬箱を咥えて待っていた。


か、可愛い~♪この究極の可愛いさは、犯罪だって!


「ありがと~♪」


薬を飲むと、子狐=瞬だという事を頭の隅に追いやって、もふもふを抱き締めたまま、ラグの上に寝転がる。


「はぁ……癒される……気持ちいい……」


久々の二日酔いで痛む頭を忘れるよう、小さな温もりを抱いて、もう一度瞼を閉じた。





 次に目が覚めたのは、昼過ぎだった。ゆっくりと起き上がり、もう一度ミネラルウォーターを飲む。


「ふぅ……お水が五臓六腑に染み渡るわ……」

「ははっ!色気の無い感想であるな!」


子狐の瞬が、笑い声を上げる。


「色気は関係無いっしょ。ところで私、どうやってアパートに帰って来たの?」

「えっ?もしかして、覚えていないのか?」

「あはは……実はそうなんだよね。」


苦笑いしながら、何もやらかして無い事を、心の中で祈る。


「何処まで記憶があるのだ?」

「う~ん……瞬がおかわりを持ってきた辺りから……」

「我がおんぶして帰った事も、覚えて無いのか?」

「うわっ!本当に?」

「紫が我の背中で暴れる故、運ぶのは大変だったぞ。」

「ご、ごめん……」

「流石に骨が折れたな……」


子狐ちゃんが、遠い目をする。

慌てて両手を合わせ、頭を下げた。


「ほ、本当にごめんって……お詫びに、夜ご飯は好きな物を作るからさっ!」

「それならば、紫自身を美味しく頂き……むぐっ!」


速攻で子狐ちゃんの口を塞ぎ、エロ発言を阻止する。


「料理で作るモノ限定ね♪」


にっこり笑顔で牽制し、子狐ちゃんがコクコクと頷いたのを確認してから、口を塞いでいた手を外す。

これ以上のエロ発言を諦めたのか、瞬は普通に希望を言ってきた。


「ならば、この前テレビで見た、"ろーすとびーふ"とやらが食べたい。」

「ローストビーフ?」

「あぁ、旨そうな肉であったぞ。それを腹一杯に食べたいのだ。」


流石は肉食獣……


「分かった。用意するね。」


完成品を買うと高いから、炊飯器で作るか……商店街のお肉屋さんに、塊があったよね……


頭の中で算段をつけていると、瞬はまだ何か言いたそうにしている。


「どうかした?私、まだやらかしてる?」

「いや、そっちはもう良いのだが……」


そっちって、どっち?!やっぱりまだあるの?!


内心うろたえていると、瞬は続きの言葉を投げ掛けてきた。


「……鬼神族とは、恋仲なのか?」

「鬼塚部長と?!無い無いっ!」


瞬の想定外過ぎる質問に、全力で手を振って否定する。


「そうか。鬼神族が、紫をかなり気にしておったからな。」

「あ……それは多分……」


ここで、鬼塚部長から聞いた、紅姫の事を話した。


「成る程……紫がその紅姫の子孫だと言われたと……」

「うん。たぶんそれで私に構ってくるだけだと思うよ。」

「それで紫は、何か伝承されておる事は、あるのか?」

「実家は隣県にあるんだけど、この前電話した時、亡くなった父親が私が子供を産む時に渡すって言ってた古い本があるって聞いたよ。今度、母親がパート休みの時に、会社まで持ってきてくれることになってるんだ。」


それから日が暮れるのを待って、人間の姿になった瞬と一緒に買い物へ出かけた。





 「いらっしゃい!いらっしゃい!」

「今からタイムセールだよ!」


駅前から住宅街まで伸びている商店街は、閉店時間が近いこともあってか、より一層賑わっている。


「紫、この辺りは賑やかであるな~♪」

「そうだね。私も久しぶりに来たよ。」


瞬は物珍しそうに、キョロキョロしながら歩いている。寄り道しそうになる度に袖を引っ張り、目的のお肉屋さんに到着した。


「う~ん……どれがいいかなぁ……」


お肉が並ぶショーケースを覗きながら悩んでいると、お肉屋さんの店主が出てきた。


「いらっしゃい……って、瞬様じゃぁないっすか!」

「よく我が分かったな!」

「当たり前っすよ!」


あれ?瞬の知り合い?


店主は瞬へ、にこやかに話し掛けている。


「そりゃもう、一晩で千人の相手したとか、武勇伝がありますからね!」

「いや、流石に一晩で千人は無かろう。ずいぶん尾ひれが付いた話であるな。」


あ……そっちで有名なのね……


「それだけじゃぁ無いっすよ!他にも……」


店主が、ふと、私に目を留めた。そして、瞬に顔を寄せて、声を潜める。


「もしかして、今日のお楽しみの相手っすか?」


はぁ?お楽しみの相手って、何だよっ!全部聞こえてるしっ!


「まぁ、五分五分であるな♪」


一分も無いわ!


突っ込みどころ満載の会話を遮り、塊肉を指差す。


「おじさん!これ下さい!」

「あいよっ!しっかり瞬様に食べさせて、精をつけてあげなよ!」


そんな必要無いしっ!

ここの店はもう来ないようにしなきゃ……


心の中で誓いながら、お金を支払う。するとお釣と一緒に、数枚の紙を差し出された。


「おじさん、これは?」

「今、商店街主催のくじ引きやってるから、おまけしといたよ!エエもん当てなよ!」


マジで?いい人じゃん♪

これからもここのお店に来なくちゃ!


「おじさん、ありがと~♪」


つくづく現金な人間だなぁと思いつつも、有り難く頂く事にした。





 お肉屋さんを出た後、早速くじ引き会場へ行き、列に並ぶ。順番待ちの間に、瞬へ尋ねてみた。


「ねぇ、さっきのおじさんは、知り合いなの?」

「いいや。だが、見かけた事がある気がする狼男であるから、我の事を知っておるのであろう。」

「そ、そうなんだ……」


本当に、もののけって多いんだね……


「それにしても、一晩で千人って、瞬くんは凄いね~♪」


皮肉も込めて、満面の笑みを向ける。すると瞬は、怯んだように、言い訳をしてきた。


「そ、そんな訳無いであろう!普通に考えても無理であるぞ!」

「まっ、別に私には関係無いけどね♪」


これ以上聞く気無し、と言わんばかりに顔を背けると、今度は瞬がニヤリとした笑みを向けてきた。


「は、はぁ~ん!ヤキモチを妬くとは、紫も可愛いところがあるではないか♪」

「はぁ?!今の何がヤキモチなのよっ!」

「そう妬くで無い。過去は過去であるが、今は紫だけであるぞ♪」

「いや、だから妬いて無いし!」


そんな話をしているうちに、くじ引きの順番がやってきた。


「よしっ!コーヒーメーカー当てるぞ~!」


気合いを入れて二等の商品に狙いを定める。だけど、はずれのティッシュの山ができるだけで、くじの残りは最後の一枚になった。


「お願い、瞬!最後に当てて!」


最後の一枚を瞬に託して手を合わせ、固唾を飲んで出てくる球を見守る。


コロン……


「出ました!一等賞!温泉のペア宿泊券だよ!」


嘘っ!マジで?!嬉しい~♪


瞬が引き当てた球の色は、金色の一等賞だった。




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