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第二話

 な、何て綺麗な子狐なの……


銀色に輝くふさふさの毛並みは、この世のものとは思えない程美しく、力強く睨み付けるようにこちらを見る視線から、目が逸らせない。


ん……?

って、えぇ~?!な、何でこんなところに狐が?!


「あ……えっと……」


混乱する頭を整理しようとした時、ふと、子狐の身体が動いた……と思ったら、パタッ!と子狐が倒れた!


「ちょっ!ちょっと!どうしたの?!」


急いで子狐の側まで駆け寄る。すると、美しい銀色の身体から、赤いモノが一筋伝っているのに気付いた。


こ、これ、血じゃない!もしかしてさっきのカラス達にやられたの?!


肩に羽織っていたショールを外し、子狐の身体を素早く包み込む。


「待ってね!すぐに病院へ連れていくからね!」


子狐を抱きかかえて早朝の街を疾走し、通りすがりの人に聞き込みをしながら、駅から少し離れた住宅街にある動物病院までたどり着いた。





 「これで大丈夫でしょう。後は傷が化膿しないよう、餌に抗生剤を混ぜて飲ませて下さい。」


傷の処置を終えた獣医師が、にっこり微笑んでいる。ひとまず安堵しながら、獣医師へ尋ねた。


「ありがとうございました♪ところで、狐の餌って何を与えたらいいのですか?」

「えっ?君のペットでは無いのですか?」

「はい。カラスに襲われて傷だらけだったので、保護しました。」

「そうか……」


獣医師は、う~ん……と、頬杖をついて思考を巡らせている。


「あの……何か……」

「……狐は肉食系です。餌は肉か魚でお願いします。それと、狐は“エキノコックス”を持っている可能性があります。」

「エキノコックス……」


……って、何?


キョトンとしていると、獣医師が説明してくれる。


「糞などに混ざって体外へ排出される寄生虫なのですが、人間に感染すると、脳が侵されてしまいます。だから、狐はペット向きでは無いのですよ。特に野生の狐はね。」


嘘っ!めちゃめちゃ危ないじゃない!

とは言っても、傷だらけの子狐を放り出す事も出来ない……


「その……傷が癒えるまでは面倒を見たいのですが、感染を防ぐ方法は?」

「狐に触れたらすぐに殺菌手洗いをする事、勿論、触った蛇口の栓もね。餌を与える以外は触れない。ゲージから出さない。これを守れば、一週間くらいなら大丈夫でしょう。その後は、山へ返して下さいね。」

「わかりました。」

「念のため、駆虫薬を与えておきますね。」

「お、お願いします。」





 それから病院のご好意に甘えて、ゲージを借りて帰ることにした。


デカい……重たい……何なの、このゲージの重さは……

確かに、小鳥用の小さな篭で狐を飼うのは無理だけどさ……だからって、両手でやっと抱えられる大きさは無理があるっしょ……


この住宅街からアパートまでは線路を挟んで反対側だから、歩いたら30分以上掛かるわね……タクシーに乗って……


って、駄目だ!次の給料日までお財布の中身だけで過ごさないといけなかったわ!


「はぁ……お金盗られたのはキツいわ……」


子狐の傷に障ってもいけないので、なるべくゲージを揺らさないよう慎重に歩いていく。結局、一時間以上掛かってアパートへたどり着いた。





 「つ、疲れたぁ……」


やっとアパートに帰り着き、狭い玄関にゲージを置く。


「徹夜明けなのに、重労働過ぎっしょ……」


そういえば、何か餌になる物はあったかなぁ……


ゲージを持ち歩くという重労働を労うよう首と肩を軽く回しながら、冷蔵庫を開けてみる。


って、冷蔵庫の中、空っぽに近いじゃん!牛乳くらいしか無いわぁ……


「狐は肉食だよね……次の給料日までは二週間くらいだから……」


財布には若干お金残っていたし、何とかなるよね。一寝入りしたら買い物へ行って……


ピンポ~ン!

考え事をしていると、玄関チャイムが鳴った。玄関ドア越しに返事をする。


「はい、どちら様ですか?」

──「毎読新聞です。集金に来ました。」

「えっ?口座引き落としの筈ですが……」

──「残高不足で引き落としが出来なかったようです。」


う、嘘っ!そ、そうだよね……今って、ゼロに近かったわよね……


ガチャ……

黙ってドアを開け、渋々支払った。


「何だか嫌な予感がする……」


急いでアパート入り口にあるポストまで走り、郵便物を取り出す。


「やっぱり……スマホの利用料、電気代まで請求書が届いてる……」


ま、マジで生活出来ないかも……ど~しよ……


そうは言っても、無いモノは無い……安易に元カレにカードの暗証番号を教えてしまった私がマヌケなのだ。

頭を抱えながら部屋へ戻った。




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